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EQUALレバーのレビュー
メーカー主導のスペック競争ではなく、自転車の愉しさをユーザーのもとに戻したい。
そんな理念を掲げるグロータックから出たEQUALレバー。
ロードからMTB、往年のあのディレイラーまで変速可能。
なんなら「フロント12速」もできるという〝自由な〟レバー。
購入して半年以上経ったので、現時点の自分の感想を、レビューとして書いておこうと思います。
■EQUALレバーとは…?
正式にはEQUALコントロールレバー。
「メーカーとかグレードとか時代の壁を取っ払うコントロールレバーを作りたい」という思いで作られたこのレバーは、ワイヤー引きのディレイラーであれば、ほぼほぼ動かせます。(Rene HERSE NIVEXみたいに2本のワイヤー使うタイプのものは無理かしら…?)
様々なディレイラーを動かすために、インデックスシフトではなく、ステップレスシフト(フリクション変速)が採用されています。この辺は後で詳しく書きます。
重量は単体で約210g。
機械式アルテより少し軽いぐらいのようです。
自分はシリアスなグラムカッターではないので、正直全くピンときませんが、そこそこ軽いと言えるんじゃないでしょうか。
ざっくりとした概説はこのくらいにして、以下レビュー(という名の感想)です。
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■変速について
変速性能って、ディレイラーやチェーンリング、スプロケが中心のもの、ということは大前提。ですが、変速の始点であるレバーも、変速に対してそこそこ大きめの役割を担っている、というのもまた事実だと思っています。
ということで、変速しやすいレバーかどうか、という観点を「レバーの変速性能」として、感想を書いてみようと思います。
なお、使用している変速周りのパーツは以下の通り。
フロントディレイラー:FD-R3000(SORA)
クランク:SUGINO VP
アウター:SUGINO CP110S 44t
インナー:DIXNA ラ・クランク 27t
リアディレイラー:RD-R3000(SORA)
スプロケット:CS-M770 11-34t(DEORE XT)
チェーン:KMC X9SL
EQUALレバーの大きな特徴は、フリクション変速であること。
グロータックは「ステップレスシフト」と呼んでいます。
ステップレスの名のとおり、カチッカチッと段階的に変速するのではなく、ヌルっと無段階で変速します。ダブルレバーやバーコン、サムシフターでフリクション変速を使ったことのある人ならピンと来るかと。
この機構のおかげで、いろんなディレイラーが使えるわけです。
つまり、ここが〝自由〟の源、というわけです。
詳細はグロータックさんの記事をご覧ください。
・ステップレスシフトってどうよ…?
で、気になっている人も多いと思われる「ステップレスシフトってどうよ?」
自分の感想を言うと、悪くない。
けど、インデックス、あった方がいいわ。
まず、いいところから書くと、普通に変速できること。
「馬鹿にしてんのか!」と思われそうだけど、フリクションで普通に変速できるってすごいと思うんですよ。
フリクション変速のサムシフターを使っていた時期があるのですが、あれは「普通」の範疇ではない、と思っています。あれは「忖度」しながら使うもの。ちゃんとお伺いを立てないと、きちんと変速してくれません。
普通に、つまり、雑に、適当に、いい加減に、なんとなくでも変速できるフリクション変速は結構すごいことだと思います。
フリクションのサムシフターより明らかにミスが少ないということは、自分の中で揺るがない事実です。レバーの動き幅と、それに対するリアディレイラーの動き幅がかなり直感的。それに、レバーの動きに対するケーブルの巻取り量を調整するパーツが付いているのも素晴らしい。調整については、後でまとめて詳しく書きます。
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と、ここまでほめてきましたが、やっぱりデメリットもあるわけで。
まず、「変速ミスが0にはならない」こと。多少慣れてきましたが、変速ミスは一定確率で発生します。きちんと次のギアに上がってなくて、急にガンッて意図せず変速したりします。
それから、「このくらいかな~」と思いながらシフトレバーを押すのも、ストレスといえばストレス。「あ~インデックスほしい!!!」って思うことが無いと言ったら嘘になります。
というメリット・デメリットを突き合わせると、オンロードならステップレスシフトは、「まあ、許容範囲かな」という感じ。
もちろん、インデックスがあるなら欲しいというのが本音です。
今後インデックスプレート(EQUALレバーをインデックス化するパーツ)の発売の予定はあるようで、それを心の底から待ち望んでいます。
なお、グラベルならインデックスの欲しさがさらに増す、という印象を持っています。
急斜度のグラベルで、ケーブルの巻取り量を気にしながらシフトレバーを押したくないし、意図せずスプロケの5枚目と6枚目の間とかに変速しちゃって、結果、急に変速するとかも考えたくない、って思います。グラベルバイクに導入することは、現時点では考えていません。
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補足で追記しておくと、インデックス云々の話はフロント変速に限った話です。
フリクション変速のほうが圧倒的にトリム操作がしやすいので、フロントはフリクション変速がいいと思っています。
・変速の感触
変速感触も個人的にはあんまり好きじゃありませんでした。
なんというか、独特の「うにょ」っとしたフロート感のある操作感。特にブレーキ裏側のレバーの方の感触の悪さが個人的には気になります。
ツイッターで、「指先で変速してる感触が味わえる」みたいな感想を見かけましたが、変速の感触を味わいたいならサムシフターやギブネールやバーコンのフリクションの方が100倍気持ちいい。
ダイレクトにワイヤーを巻き上げているあの感覚とは、ちょっと違います。EQUALレバーでは、かっちりとした安定感と、軽くゴリゴリした適度な抵抗感が、サムシフター等のフリクション変速よりも薄いからかもしれません。
自分は、EQUALレバーの独特の操作感を「味わいたい!」とはどうしても思えませんでした。
・シフターの位置
ここまで結構厳しめに書いてきた一方で、シフターレバーの位置は◎。
カンパニョーロと同じく、本体内側にあるレバーとブレーキレバーの裏側のレバーで変速。
これはかなり直感的でシンプル。
とても使いやすいです。
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カンパのエルゴパワー的変速は、シフトアップ/シフトダウンで使う指も動きも違うので、脳への負担が低い感じがします。この辺は、シマノやスラムの「変速する動きは一緒で、動かす部位/動かし方によって、シフトアップ/シフトダウン」では、決して追いつけない違いがあるように感じます。
下ハンからの変速もしやすいのも◎。
成人男性にしては手が小さい自分。シマノやSENSAHでは、下ハンからのシフトアップがきついのですが、EQUALレバーはシフトアップ/ダウンともきちんと手が届きます。
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シマニョーロにする人がいるのも納得の操作感でした。
■ブレーキのかけやすさ
ブレーキ性能は、基本的にブレーキの種類(油圧か紐か)や、キャリパーの性能に大きく依存するというのは大前提。ですが、入力地点であるレバーの使いやすさも、わりと重要な要素かなと思います。
EQUALレバーはその点◎。
とてもブレーキのかけやすいレバーです。
無意識でもスッと手がかかる印象があります。
一見、EQUALレバーは曲線を描いた形状で、ちょっと滑りそうにも見えます。
が、触ってみるとEQUALレバーも「角」がつくってあって、自然と手がかかるようになっています。指に引っかかる感じは、角ばったGRXのレバーに近い感じすらします。
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エッジがあってブレーキはかけやすかった
これは文字にしてもなかなか伝わらないかもしれません。是非、実物を触ってみてほしいと思います。エッジを感じないけど、手にかかる面がきちっと作られているこの形状。かなりこだわって作られたのが感じられるなあ、と思っています。
それから、レバー自体が外側に張り出しているのも好きです。下ハンを握ったときに、指がかかりやすくなるので。
この辺もGRXなんかと一緒。
地味だけど、全体が細くて握りやすいのも花丸。
これまた地味だけど、ブレーキレバーのピボットの位置が高いのも素晴らしい。手が小さい人を本気で考えているのだな、とよくよくわかります。
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ブレーキレバーが内側に倒れないのも好きです。
シフターと兼任しているシマノのSTIでは、決して達成されない操作感。EQUALレバーを使った後にSTIを触ると「あ、ここ動いちゃうのか!」と思うようになってしまいました。
STIがダメとまでは思いませんが、使い比べてしまうと、ブレーキリバーは内側に倒れないほうがいいな、と思います。
■カスタマイズ性
結論から言うと、これも◎。
本当に素晴らしいです。
自由なレバーとは、一人一人のユーザーが使いやすくもできるパーツなのだ、という精神がひしひしと伝わってきます。
以下列挙していきます。
・ケーブルの巻取り量の変更
上に書いた通り、一回のレバーの動きで、どのくらいケーブルを巻取るかの調整ができます。
そのために交換するのが、このケーブルプーリー。レバー内部に入っているパーツです。
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17mm、18.5mm、20mm、22mm、24mmがあります。
(17mmは使用中なので写真には無いです。)
大きい方に交換すると、1段変速するに必要なレバーの動き幅が小さくなり、レバーの操作感が重くなります。
小さい方に交換すると、1段変速するに必要なレバーの動き幅が大きくなり、レバーの操作感が軽くなります。
リアディレイラーとの組み合わせで、ある程度対応が決まっていますが、その間で好みに合わせて変更できます。
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デフォルト(18.5mm)では、変速するに必要なレバーの動き幅が小さすぎて、ディレイラーが動きすぎてしまうように感じたので、17mmに交換しています。
・ディレイラーの保持力の調整
ディレイラーのバネに対抗してディレーラーを固定する力を調整することができます。
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ここを締めるとレバーの操作感が重く硬くなり、反対に緩めれば、軽く柔らかくなります。
とはいえ、あまり軽くすると段差のたびに勝手にギアが重くなる(ディレイラーのバネの力に負けてしまう)ので、そこそこにとどめておく方が吉。これは実体験です。取説では、一度に締めこむのは10°~45°程度が推奨されています。ちゃんと取説読んでからやれ。
・ブレーキレバーのリーチ
ブレーキレバーのリーチの量も3段階で調整可能です。
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上のパーツを下のところに入れます。
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シマノだと無段階で調整できたりしますが、3段階でも特に問題はない印象。そもそもブレーキ自体が握りやすくて、握り込みもしやすいですし。
なお、実際に調整するときは、こんな記事を当てにせずにきちんと取説読んでくださいね。
■まとめ
「どんなパーツを使うか」とは、即ちどういう乗り方をしたいか、だと思います。
あのレースで勝ちたい、のんひりツーリングがしたい、地球の果てまで自転車に乗りたい、往年のあこがれのパーツを使いたい。いろんな形の「乗り方」があると思います。一人一人それぞれ違う、といってもいいかもしれません。
自分は、自分のバイクに自分の考えを反映させていく過程が好きです。あーでもない、こーでもないと頭を悩ませ、ネットの海を波乗りして、お店で探し回って、そして、組付けていく過程が好きです。そうやって考えられたであろう人の考えが、色濃く反映されたバイクを見るのが好きです。
一方で、油圧ブレーキ&電動変速が主流となったここ数年。自転車を組む自由度がどこか減ったように感じます。油圧ブレーキ&電動変速は、競技からしたら〝正しい進化〟だということは、理解しています。そこを否定するつもりもありません。
メーカーの競争があるというのも理解しています。進化がなければ、レースで勝つことはできないのでしょう。新しいものを買ってもらえなければ、次の開発費が得られないのかもしれません。次なる進化のために、新しく買ってもらうために規格を変える、それも大事なことなのかもしれません。
けれど、エアロも、一体型ハンドルも、フル内装も、油圧ブレーキも、電動変速も必要のない人間もいます。リムブレーキで紐の変速で、楽しくツーリングしたいという自分のような人間がいます。そして、メーカー間の競争なんてユーザーには知ったことではありません。自転車から幸せを得るときに、あんたらの事情は関係ない。
グロータックはこういいます。
メーカーが規格をどんどん変える。機材の進化やライバルとの競争という側面では理解できますし、普通のことなのかもしれません。しかし、新旧の選択の余地がない……そんなやり方をしていたらいつか誰も付いてこなくなってしまう。サイクリストは奴隷じゃないので。(中略)スポーツバイクはあくまで趣味ですからね。スポーツバイク界は、メーカー中心ではなく、お客さん中心に回らないといけない。それには、メーカーや業界の利益優先的な思惑に振り回されずに、もっとフラットに楽しむためのパーツが必要だと。
こういう時代だからこそ、こういうパーツを、こういうメーカーを応援したいなと思うわけです。
買い物が、ある種の投票なのだとしたら、自社都合主義・レース一元主義のメーカーではなく、こういうメーカーに一票を投じたいと思うわけです。ツイッターで文句を言って現状は良くなることはありません。でも、買って使うことは、そこに需要があることを明確に示すことができます。
EQUALコンポを使って自分らしさを表現した自転車を組んでいるユーザーさんたちを見て、大手メーカーが「こういう人達がいるんだ」「我々の思い通りになる人達ばっかりじゃないんだ」ということに気付いてくれて、そこに目を向けてくれるかもしれない。
すこし思想めいたことを書きましたが、そんなことを抜きにしても、EQUALレバーを買って良かったと断言できます。好きになれなかったところも結構書きましたが、それでも、これは「本当にいいパーツ」です。
いくらストーリーに共感しても、いくらコンセプトに共鳴しても、性能がゴミなら、そこにゴミ以上の価値を見出すことはできないでしょう。性能という裏付けがあって、はじめてストーリーやコンセプトに説得力が出てくるのです。自分の中でその順番が覆えることは、自転車趣味が機材趣味である以上ないと思います。
EQUALレバーは、自由を提供します。
「さあ、あなたはこのレバーを使ってどう組む?」
「自分はこんなライドがしたい、そのためにあのパーツとあのパーツを組み合わせて……。」EQUALレバーは、そんなことを考えたことがある人向けのパーツだと思います。
これを読んだあなたが、そういう人であることを願っています。
そうやって考え抜かれたあなたのバイクを、いつかどこか見ることが出来たら、この記事を書いた意味があったと思います。EQUALレバーを使う使わないを抜きにして、自分はそういうバイクを見たいのです。それもまた自転車趣味の醍醐味だと思っています。
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おしまい!