半生のルックバック②作詞とは何か?
せっかくこれを読んでいる物好きなみんなと共に、自分が生み出してきた作品と当時の気持ちを振り返っていくのだから、この旅をより楽しむ”しおり”をお渡しする。
旅の中心は、僕の書いてきた「歌詞」を中心に見ていくことが多くなるので、今回の記事では、「僕が歌詞を書くときに考えていること」を説明してみようと思う。
曲作りの「詞先」と「曲先」
楽曲作りにおいてはよく、「シセン」「キョクセン」という言葉を耳にしたことがあるだろう。
歌詞から先に作り、それに音をはめていく「詞先」と、反対にメロディが先にあり、それに言葉を乗せていく「曲先」。
僕の場合はその中間、自分では勝手に「テーマ先」と呼ぶ方法で曲を作ることが多い。
まず楽曲のテーマを決め、そのテーマに合うようなイメージのコードとメロディをつける。だいたいはその作曲中に「なんとなくこんなフレーズかな」という”歌詞の種”がポコポコと芽を出して、それをまとめてみたり、穴埋めをしたり、より視点を拡げてみたり。そうして最後に歌詞になるのだ。
というわけで、新しい楽曲を作るぞ、と思った時に一番最初にすることは「テーマ決め」。
楽曲のテーマ、
言うなれば「感情のゴール」を決めるのだ。
これはシンプルであればあるほどわかりやすい。
「君が好きだ」「明日も頑張ろう」「アイツにむかついた!」など、その楽曲で自分が伝えたい感情のゴールは、なるべくシンプルに作るようにしている。
僕にとって作詞というのは、このゴールに行き着くまでの大喜利だ。
本当の気持ちは、簡単には伝えられない
たとえば「君が好きだ」という言葉は、誰にだって書くことができる5文字である。しかし、その「君が好き」を伝えるために、どのような道を選ぶのか。
そこに行き着くまでの過程をいかに美しく、いかに文学的に独創的に、かつ共感性を持つ言葉で描くかが大切であり、そこに作詞者の人生が現れる。
オシャレなひとはオシャレな歌詞を書くし、優しい人は優しい歌詞を書く。挫折や苦労の多い人はそれが滲む歌詞になるし、反対に人生経験が浅いうちは、同じ言葉を綴ってもなんだか説得力に欠けてしまうこともある。
しかし年を重ねたから良い歌詞を書けるかと言われればそうでもなく、荒削りで飾られていない言葉の方が人の心を動かすことも多いにある。だからこそ難しく、そして面白い。
そして、その大喜利に勝つための最大のヒントは、”暗黙知を見つける”ことだ。
暗黙知と調べると、「個人の経験や勘に基づく、簡単に言語化できない知識」だと言う。
僕の中での「暗黙知」とは、歌詞を読んでいる中で「ああ、なるほど!そうだなぁ。」と妙に納得してしまうような言葉だと思っていて(曖昧でごめんね)、
言葉にはできないけど確かに思っているこの気持ちを、誰かに言葉にしてもらえたとき、(それが歌に乗っているとなおさら)僕はその曲がすごく身近に感じて、「この曲は自分のことを歌っているんだ!」と思えるのだ。(それって最高の瞬間だよね)
だからこそ僕は、この「暗黙知」を探すことに作詞家人生を懸けていると言ってもいい。
ひとつの感情、事象を表すときに、できるだけ共感してもらえて、そして文学的な暗黙知を探す。これが、僕にとって一番の勝負どころだ。
というわけで、これまでの楽曲を振り返っていく上で、当時の冨塚青年がどのような感情を伝えたいと思い、それを伝えるためにどのような道を選んだのか。ぜひ探ってみてほしい。
このあたりを作詞者本人が説明し"すぎる"ことはあまり本意ではないので、君だけの視点で、君なりのイマジネーションで、僕の歌詞を解読してくれたらと思う。(ここまで書いといて何を言うか!)
もちろん今作「LOOKBACK TO THE FUTURE」でも、その視点を持ちながら楽曲を”読んでみる”と、より深い音楽体験ができるように作ったつもりだ。
音楽は時間の芸術である。
ぜひ、歌詞を読みながら、
新しい7曲を楽しんでもらえたら嬉しい。
それでは、続きをお楽しみに。
あなたの今日に、秋服のポケットから100円が出てきたような、小さな幸せが起こりますように。
冨塚大地(とみといびー)