トキノツムギB面
19 街に降りて①
目を開けると煉瓦造りの建物の間だった。いつもながら、この瞬間移動はすごい。マルクは建物の間から出ながらピアスに聞く。
「街の地図わかる?」
“いえ、私もこうして出て来るのは初めてで。“
この2人で出て来るのはちょっと無謀だったかなと思う。最初はソーヤにでも案内を頼んでおけば良かったかもしれない。
屋台が沢山出ている大通りに行くと、人目がパッと集まったのが分かった、
「え、何?」
年配の2人組などは、コソコソっと話をしている。
やっぱりこの服まずかった?
服というか、テントにあったマントを羽織って来たのだ。自分が着ている服のデザインがソーヤやピアスとだいぶ違うのでちょっと気にして、きっとここでの通常服なのだろうと、せめて置いてあったマントを着て来たのだ。
街の人々を見るが、そんなに皆と違う格好でもない。マントを着ている人もいるし、男のピアスもイヤリングもいる。
どうせ金も持ってないし見学がてら来ただけだし、もう帰ろうと思った時、 ほとんど恭しいとも言える動作で、皿に入れたカッティングフルーツを差し出す者がいた。近くの果物屋の老人のようだ。
「すいません。お金持ってないんで」
断ろうとすると、老人は慌てて言った。
「まさか、モリビト様からお金などいただくわけが」
返答に困っていると、ピアスがはたと思い出したように言った。
“なるほど、あれはモリビトのテントだったんですね”
というかモリビトって何だ。
一向に引っ込められないので、差し出されたカッティングフルーツをつまみつつ心中ツッコミんでいるとピアスが言う。
“ソーヤ様は国の土地としての山の担当で、ホントは時々見回るくらいで整備まではしなくて良いんですよ。けれどあの山に宗教的に重要な意味があるので、整備もしているわけです。モリビトは、人々にとっては山の象徴のような感じで、町と人間を守り恵みを授ける、仙人のような存在ですね”
“待て待てモリビト存在感がデカい”
少し口篭りつつ、ピアスが続けた。
“あと、捧げ物もらったので、マルク様はこの老人に恵みを授けねばなりません……”
それもちょっと待て。
果物を摘んでいた手を止めたが、もうこれだけ食べてしまいどうしようもない。
“どーすんだよ、俺恵みとかできないから!てか恵みって何!?”
“まあ、あのテントに住んでこのマントを着て出たというのも何かの運命というか、何ならもうモリビトなんじゃないでしょうか”
突如早口になり、ピアスが適当なことを言っている。
そんな訳ないだろ!明らかにモリビトじゃないんだよ!
言葉が止まったかと思うと、覚悟を決めたようにピアスが言った。
“……やってみましょう”
何を?
思った瞬間に、ピアスから何か電気のようなものが伝わってきて、仄かにマルクの指先が光った。途端、皿を持っている老人の猫背が伸びる。そして老人は、感動で震えさえしながらマルクを見た。
「腰の痛みが嘘のように!モリビト様、ありがとうございます!」
“こうなったのも管理者様の責任なので、文句を言ってみました”
責任を上司に押し付ける部下の如くちょっとドヤって言うピアスがいる。
“管理者すごいな…”
とりあえず難局を乗り越えたマルクが一息つきピアスに言っていると、ふいに周囲から歓声が上がった。
「モリビト様が帰ってきた!」
「まさか俺らが生きてる時代に現れるとは!」
「伝説だと思ってたよ!」
固唾を飲んで見守っていた人々が一連のことを見て、そう結論したらしい。
ヤバい。非常にヤバい状況だ。
ワッと群がって来たり手を合わせたりする人達を何とか留めて、
「すいませんが!騎士のソーヤ様の家を教えてくれませんか!」
必死でそれだけ伝えた。
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