マツダCX-30試乗記
0.はじめに
猛暑の中、昼飯がてらチャリでフラフラ走り、気がつけばマツダ店の前。
そう言えばCX-30って結構イイって話も聞く。ちょいと見せてもらおうとお店に入った。
1.マツダのSUV風乗用車について
SUV風乗用車、クロスオーバーモデルの歴史はさほど古くない。
マツダはフォードエスケープ兄弟車であるトリビュートを2000年に発売した。本来ココがスタートかと思うが、大多数の方のイメージはCX-5が最初だろう。(正確に言えばCX-7もあったが)
ご存知の通り2012年にフルスカイアクティブを引っさげて初代CX-5が華々しくデビューし、新世代ディーゼルがウケた。
CX-5はフォードと共同開発した、初代アテンザのプラットフォーム改良版を採用した、Dセグメント級のSUVだ。
世界的にみんな二匹目のドジョウ探しにSUVばっかり出してる状況から、更に小さ目のSUVも出したい。
そこでデミオベースに作ったCX-3を出した。
CX-3はSUVと言うより日本のプレミアムBセグメント、即ち少し高級なスモールカーという位置付けで市場に受け入れられてる様に思う。
以前マツダは果敢にもデミオ高級版ベリーサでこのジャンルに挑戦したが、クルマの出来とは裏腹に販売は今ひとつだった。
さて、その分厚いボディに小さめのキャビンが載るチョップドルーフ風で結構カッコイイCX-3だが、いかんせんデミオベースに大径タイヤはいささか荷が重かったのだろう。マイナーチェンジで随分手を入れている。
また、ベリーサは初代デミオの後席スライド機構を無くして後席座り心地を上げたモデルだったが、CX-3は絶対的にサイズが足りず、後席は見切るしかなかった。
そうなるともう少々大きく能力のあるプラットフォームでSUVを作りたくなる。つまりアクセラ/マツダ3ベースのCセグメントのSUV。
それがCX-30だ。
本来なら5と3の間なのでCX-4になるべきだが、CX-4の名は中国向けCX-7後継車で使用してしまった(CX-4はCX-5の拡大版であるのがまたヤヤコシイ)。
まぁ4という数字は日本でウケないという判断もあったのだろう。
こうした背景より、タイミング的にプラットフォームを新設計した新型マツダ3をベースにCX-30を作る事になった。
と、当方は勝手に妄想している。
2.CX-30とは
前述の様にマツダ3と多くが共通仕様となる。
プラットフォーム同一である為当然だが、サスペンションも共通。リアサスペンションもトーションビーム式である。コレはFF、4WD共通だ。
さすがにトーションビーム式で本格オフロードって話は無く、所謂クロスオーバーSUVの位置付けである。
エンジンはガソリン2種、ディーゼル一種。
ガソリンはスカイアクティブGの2Lと、スカイアクティブXの2Lスーパーチャージャー+マイルドハイブリッド。
ディーゼルはスカイアクティブDの1.8Lシングルターボである。
基本的にマツダ3と共通だが、マツダ3にある1.5LガソリンはCX-30では選べない。
ここで改めてスカイアクティブGについておさらいしておく。
スカイアクティブGはD(ディーゼル)に隠れてあまり評価されてない気がすること、そして今回の試乗車はスカイアクティブG搭載と言うのもある。
ガソリンエンジンとして世界最高レベルの高圧縮比(13対1)設計としていることを始め、高効率を狙ったエンジンである。
この高圧縮比については誤解してる方も多いかと思うが、全域で高圧縮比ではない。何せレギュラーガソリンで世界最高級の圧縮比を実現しているのだから、一筋縄ではいかないのだ。
スカイアクティブGは全てのエンジンで圧縮工程でも途中まで吸気バルブは開けて(遅閉じ)実質圧縮比を下げる、所謂ミラーサイクル機構を有している。
つまり、正確には膨張比が13対1であり、圧縮比は可変という事だ。
このミラーサイクルはポンピングロスの多い低負荷でのみ機能させる。
高負荷時はオットーサイクルの為、実質圧縮比も13対1としている。
高圧縮比を実現する為の技術はコレだけではない。
燃焼室を冷やす為、ガソリン直噴としている。当然ながらピストン上面形状もコレに合わせて噴かれたガソリンがキレイに攪拌する様に変更されている。
更に冷やす為には一般的にクールドEGR(排ガス再循環)装着という手があるが、スカイアクティブGはこれを採用せず、吸排気バルブのオーバーラップ(同時開き)させて排ガスを引き込む内部EGR(セルフEGRとでも言うか)を成立させている。EGR導入量も遜色ないらしい。
これをミラーサイクルでの吸気バルブ遅閉じとも組み合わせて、低負荷時のポンピングロス(スロットルバルブが少ししか開いてないと、それが吸気抵抗になるが、排気側も引き込む事と、そもそもEGRだとパワーが低いのでスロットルバルブを開くようになり、実質的にポンピングロスが減る)も減らしている。
余計なデバイスを使わない為、EGR用配管内にススが溜まる不具合も出ない。賢い仕組みだ。
排ガスの掃気効率を向上させる為に、4-2-1集合排気管、所謂タコ足エキマニも採用。
タコ足は触媒位置が遠くなる(触媒に入る前に排ガスが冷えて冷間時触媒効果が薄れる)上に車両搭載性悪化、高コストとなる為、最近採用例は少ない。
しかし、マツダはエキマニをグイっと曲げてコンパクトにし、触媒をエンジン近傍に寄せ、冷間時の燃焼温度が上がりやすいようにピストン形状を変えて問題をクリアしている。製造コストも形状の工夫で抑えているようだ。設計は超絶タイヘンかと思うが。
こう聞くとスカイアクティブGに俄然興味が湧く。
その結果、2L級エンジンとしては低燃費かつ高出力を実現した。156馬力に最大トルク20.3kgf・m、WLTCモード燃費は15.4km/Lだ。
だが、RAV4があっさりそのスペックを上回っている。171馬力に21.1kgf・m、15.8km/L。(2L廉価Sグレード)。
正確に言えば最高出力と最大トルクの発生回転数はRAV4の方がそれぞれ600rpm、800rpm上での数値であり、常用域で差が出るものではない。
(仮に同じトルクなら発生回転数を1割高めると馬力も1割高くなるのだ。つまりRAV4のM20Aエンジンはやや高回転側にチューニングしてるだけとも言える。そのチューニングによりRAV4 は2000〜4000rpmあたりはむしろ遅い可能性すらある)
マツダは真面目過ぎる。
もうちょいと盛ればいいのに。
大多数の人間はカタログ表示の馬力で速い遅いなのだ。
例え実際に乗って差がなくても、カタログ表示バイアスが勝つのだ。RAV4が速いと刷り込まれるのだ。ヒョーロンカですら。
だから実際の出来が良いか悪いかは別にして、RAV4はウケるのだ。スペック負けの要素が無いのだ。カーオブザイヤーを受賞するのだ。
トヨタ恐るべしなのだ。そう言うところをマツダは見習うべきだろう。
ライバル比較
このクラスのライバル比較は実は難しい。
と言うのは、各社重複しない様にラインナップしているからだ。
前述したRAV4はDセグメント車であり、マツダなら価格的にもCX-5が対抗になる。
トヨタでCセグメントならC-HRだが、立ち位置はかなり異なる。対抗はCX-3だ。
スバルXVが1番近い様に思うが、こちらは1.6Lから用意されており価格も安価である。むしろフォレスターの方が価格帯は近いが、あちらは2.5LでやはりCX-5だろう。
そう考えるとうまい立ち位置ではある。
3.静止検分
試乗車は2Lガソリンエンジン4WDの布内装モデル。プロアクティブ ツーリングセレクション4WDと言う布内装最上級グレード。297万円。FFモデルだと273万円。
装備は本革モデルと全く同じで、シートや内装表皮のみ異なる。
本革モデルはプラス6万円ほどだ。
タイヤはマツダお約束のトーヨープロクセス。安心のタイヤでホッとする。
サイズは225/55R18と言うSUV向けだが、夏タイヤだ。
パッと見、結構立派な体躯に見える。見た目はCX-5と同格な感じだ。
インパネ部品はマツダ3と共通。
ただし、着座位置はマツダ3よりも上げており、ヒール段差を高め、少々アップライトに座るカタチ。見晴らしも良い。
右ハンドルのポジションもマツダ3同様問題無い。
電動調整機構付き布シートは本革よりも柔らかく、座り心地は良い。サイドもランバーサポートもキチンとしている。
昨年乗ったCX-5のシートは比較的サラッとしたウレタンの感触かつランバーサポートが弱めだったが、こちらはむっちりフィットして好印象。
当然ダッシュボードの形状もマツダ3と全く同じ。
しかし、合皮ソフトパッドの差し色で雰囲気を変えている。
マツダ3は差し色にシートと同じ色を入れている。
CX-30は本革仕様だと茶色、布仕様だとネイビーの差し色が入る。アームレストもこの色の合皮でセンターにステッチを入れ、一見して高級な雰囲気だ。
茶色やネイビーの合皮やプラスチック樹脂は一歩間違えるとダサくて安っぽい印象に陥る難しい色なのだが(と言うかココに陥っているクルマがほとんどだ)、この色味は落ち着いていてなかなかお洒落に見える。
私は今回グレージュと言う薄いグレー布内装にネイビーの差し色が気に入った。
エアコン吹き出し口もマツダ3と共通だが、どちらも助手席吹き出し口位置が低過ぎる。意匠でこの位置になるのもわかるが、風が顔直撃の位置だ。そして、吹き出し口面はその上のソフトパッド面より一段引っ込んでる。風向きを上方に上げられない。
夏場に車内温度を急速に下げたい時、助手席に乗る方は常に顔への強冷風が当たるのを我慢しなければならない。運転席は高めのメーター高さに吹き出し口があるので上に向ければ大丈夫なのだが、助手席は逃げ場が無い。
コレならせめてダッシュボード上面にも吹き出し口を設けて、室温を下げる場合はこちらの風量を上げるべきだろう。
そのダッシュボード上面はナビ等インフォテインメントディスプレイが鎮座する為吹き出し口を設けるのが困難なのは理解するが。
後席の広さ自体はマツダ3より広く感じる。
こちらの方が窓の面積が広く、閉所感は無い。また、前席同様アップライトに座る設計で、座面の後退角も少な目で快適。
ココで思い出した。実はCX-30はマツダ3よりホイールベースおよび全長が短い。本来なら狭く感じるハズだ。
単位は全てmm
CX-30 全長全幅全高4,395×1,795×1,540
ホイールベース2,655
最低地上高175
マツダ3 ファストバック 全長全幅全高4,460×1,795×1,440
ホイールベース2,725
最低地上高140
またCX-30はこんなSUV風のカタチだが、最低地上高は175mmで、フロア高はさほど高くない。
つまり車室は上に65mmほど拡大して、前席後席共に立てて着座するカタチにした事で、前後スペースに余裕を持たせてるのだ。ワザワザマツダ3とは着座姿勢を変えている。
そして全高は立体駐車場に入る1540mmに留めている。
なかなか素晴らしい。
細かい事を言えば、前席と後席でドア内側パネルの加飾が異なる。前席は上部ソフトパッド、ドアレバー周りに差し色の合皮、その下に金属レリーフをドア後部まで引っ張るゴージャスな仕様。
後席は基本的に硬い成型樹脂にドアレバー周りだけ差し色の合皮のみ。
マツダ3は前席後席共に同じマテリアルと構成だったと思う。さほど気になる程でもないが。
それより後席中央にエアコン吹き出し口があるのがありがたい。マツダ3の日本仕様は後席にエアコン吹き出し口は無い。
トランクルームもこの全長にしては広い。
開口部も大きく使いやすい。
また、最廉価グレード以外、電動オープナー付き高級仕様だ。
真面目な造りだ。
4.試乗検分
ほんの少ししか乗っていない上、ふらっと立ち寄っただけなので不正確なのをお許しいただきたい。
実は2L普通のガソリンエンジンであるスカイアクティブGは初めて乗る。
走り出しからトルク不足を感じる事はない。意外なほど力強く走る。
細かく見ていくと、ATトルクコンバーターのストール回転数が比較的高い。走り出しでさほど踏まなくても2000回転程回る。
1速から3速はトルクコンバーターを滑らせてトルク増幅効果を使っている模様。
CX-5やCX-8のディーゼルモデルではのべつ変速するシフトスケジュールが気になったが、こちらは同じギヤをホールドする感じで気にならない。加速力が少々足りなければトルコン滑りで吸収しているようだ。
そして踏み込むと過不足無い加速でスムーズにエンジンが回る。音質も煩くない。
ドライバビリティは結構良い。
実はCX-30およびマツダ3は2Lガソリンと1.8LディーゼルでATのギヤ比は全く同じなのだが、ガソリンの方がマッチング良い様に思う。
足回りはマツダ3と同様のフロントにストラット、リアにトーションビーム式だ。
パッと乗った感じ、CX-5やCX-8よりも脚を動かす設定に感じた。
リアにマルチリンク式を採用するCX-5や8は早めにパンプラバーに当ててストローク制限を掛けてる雰囲気だったが、こちらはそうではない。リアサス形式が違う為チューニングが異なるのは当然だが、私はCX-30の方が好感が持てる。
更に以前乗ったマツダ3よりもしなやかに感じる。細かく改善されているのか。
ステアリングは電動パワステらしく、タイヤのフィールは乏しい。実際この日にはマツダ3にも試乗させて頂いたのだが、フィールは同じ。タイヤが変わっても無表情という事だ。
とは言え気になる制御は無い。
今回低速走行だけなので、エンジン出力を調整して旋回特性を最適化するG-ベクタリングコントロールの効果は不明。もちろん4WD特性も。
ボディもしっかりしており、乗り味は全体的に上質だ。全体的に嫌味なくすっきりしている。以前CX-5とフォレスターなら僅差ながらフォレスターの方が乗り味がいいイメージではあったが、CX-30はフォレスターに近いと感じた。
5.総括
CX-30は以下の点で秀逸だった。
・ドライビングポジション、室内空間の構成
・しなやかかつ上質な乗り味
・スムーズなパワートレーン
ホンネを言うと、スカイアクティブXに乗りたかったのだが。
この後スカイアクティブX搭載マツダ3にも乗ったのでお互いの違いもわかった上で。
この2L通常エンジンの上級グレード、おトクな佳いクルマではないかと思う。
予想よりパワー感もあり、オートマとのマッチングも良い。エンジン音質含め乗り味も上質。このエンジン、マニュアルで乗ってもアリだ。キレイに回る。
当方が感じていた最近のマツダ車の気になるトコが解決している。
コレであの内装だ。安全装備もフル標準。
電動シートや電動ハッチ、8.8インチディスプレイに速度や警告のフロントガラス照射ディスプレイも標準だ。
273万円か。今ならオプション値引きでコミ300切る交渉行けそうだ。
大変失礼ながらスタイリングだけが取り柄の中途半端なクロスオーバーSUVと思っていた当方の予想は見事に裏切られた。
CX-30、真面目な佳いクルマだ。