マツダ3試乗記
0.はじめに
マツダ3が5月24日に発表された。
ちょこっと通りかかったマツダのお店に試乗車を見つけたため、チラッと拝見させていただいた。極短時間の為、わかった事は限られている。スカイアクティブX搭載車が登場したら後日ゆっくり拝見したいと思う。
ご存知の通りアクセラの海外名はマツダ3であり、今回日本名をマツダ3へ統一した。
1.歴代アクセラについて
初代アクセラは2003年に登場。ファミリア後継のグローバル販売Cセグメント車として、フォードフォーカス、ボルボS40/V50共同開発された。
妥当ゴルフを目指して開発された渾身の出来であるフォードフォーカスと同一プラットフォームを採用し、アクセラも2004年ヨーロッパカーオブザイヤーで二位を取得する程の高評価であった。
日本のこのクラスでは当時珍しい3ナンバー専用の幅を持つボディに、直4ガソリン1.5Lから2.3Lまでを搭載(欧州は当然ディーゼルも用意)。モデル末期には2.3Lターボ搭載車も用意。
新生マツダのイメージを引っ張るモデルであった。
2代目はシャシーキャリーオーバーでフェイスを他のマツダ車と同じ形に。
AT4段から5段へ、またアイドリングストップ搭載等のブラッシュアップを実施。
3代目はフルスカイアクティブ車である。低圧縮比ディーゼル、高圧縮比ガソリンエンジンの開発により、ディーゼルとガソリンを同一設計要件で実現し、かつディーゼルはきめ細かい燃焼制御により排ガス処理システム不要にするなど、とんでもない技術革新を引っさげたスカイアクティブに加えて、トヨタのハイブリッドシステム搭載車を用意した。
特筆すべきはこの3代目で右ハンドルの仕立てを見直した事だ。初代と2代目はフォーカスの左ハンドル設計プラットフォームであり、ペダルオフセットが大きい欠点があった。ココが是正された3代目は完成形と言えるだろう。
2.新型マツダ3とは
マツダ3で押さえておくべき事項は以下の3点。
一つはエンジンだ。
スカイアクティブXエンジンは超希薄燃焼により飛躍的に高効率になると言う謳い文句で今後搭載が予定されている。こちらについては今回は触れない。
現在搭載されてるエンジンは3種類。1.5Lと2Lガソリン、1.8Lターボディーゼルである。全て直列4気筒、ガソリンは圧縮比13.0、ディーゼルは圧縮比14.8のスカイアクティブシリーズだ。
ディーゼルは先代ではフラッグシップモデルとして、アテンザやCX-5と同じ2.2Lツインターボディーゼルが搭載されていたが、今回はCX-3でも採用されている1.8Lシングルターボディーゼルとなる。
フラッグシップはスカイアクティブXに譲ったという事だろう。
現状6MTが選べるのは1.5Lガソリンのみ。他は全て6ATのみとなる。取り急ぎ手堅い構成だ。
もう一つはシャシーである。後輪サスペンションをフォードフォーカスと相似形であるダブルウィッシュボーン派生マルチリンク独立式から、トーションビーム半独立式へ変えた。
マルチリンク式は一般論として高性能かつ高コストであるので、トーションビーム化はコストダウンとも言える。
この辺り、各社のプラットフォーム戦略も様々で正解はわからない。
このクラスのライバルを見ると、VWゴルフは低出力モデルはトーションビーム、高出力モデルはダブルウィッシュボーン式だ。
トヨタプリウスやカローラスポーツ採用のTNGA GA-Cは全車ダブルウィッシュボーン式。
メルセデスAクラスは今回モデルからゴルフと同様にトーションビームとダブルウィッシュボーンを使い分けている。
少なくともマツダ3の生産台数では2つのサスペンションを使い分けるのは得策ではない(Aクラスもどうかと思う。この辺りに迷いを感じる)。
トーションビーム式に張ったマツダ3は不利に感じるが、実際にはどうだろうか。
最後にマツダ3のポジションである。
上位のアテンザは次期モデルで直列6気筒搭載のFRとなる事が報道されている。
即ち3シリーズやCクラスのプレミアムDセグメントへ引き上げるわけだ。
すると以前のアテンザのポジションはマツダ3がカバーする必要がある。
大きさはともかくとして、マツダ3も上位側へシフトせざるを得ない状況だ。
3.静止検分
展示中のクルマは赤のファストバックとガンメタセダンの二台。
試乗車はセダンのみ。
どちらもディーゼルのXD。
ファストバックは黒ファブリック内装のプロアクティブ、セダンは白本革内装のLパッケージだ。
セダンはアテンザと見間違えた。
フロントのデザインが似ているだけでなく、ボリューム感が極めて近い為、ほとんどアテンザだ。
また、サイドのプレスラインをトランクまで引いているため、凝縮感のあった過去のアクセラセダンより全長が長く見える。
お陰でマツダ3セダンの試乗車は無いのかと思っていた。まぁ私には見る目が無いという事だ。
対してファストバック(ハッチバック)はプレスラインが無いデザインで、角度によっては緊張感が無く妙に鼻が長く見える。たまたま他のお店で白の展示車を見かけた時にその印象を持った。
受け入れやすいのはセダンの方か。
ファストバックは塗装色を選ぶ気がする。プレス発表の写真はどれもワザと陰影を強調しており変には見えないが、白は避けた方がいいような感じだ。
ドアを開けてちょいと驚いた。
ドアが妙に重厚だ。閉まる音も高級。
入念にデッドニングしたドアのイメージなのだ。コレはBMW5シリーズやボルボV60と同じ雰囲気。
ドア開閉だけで驚いたのは久々だ。
内装も随分高級だ。
ダッシュボード上はソフト素材一体成型の樹脂、その下にかなり柔らかい合成皮革パネル、そしてシルバーメッキのラインが入り、その下にエアコン等操作系が入る。
ドア内張りも同様の感じだ。
これらはファブリックも本革内装も共通。
本革シートはボルボの様にパーフォレーション(穴明け)が施されており、ボルボほどではないが柔らかい。
合成皮革と革とのトーンも合っている。
スイッチ類はつや消し黒塗装で統一。
シフト周りは光沢黒パネルとなる。
この質感はこのクラスの水準を大幅に超えている。
VWゴルフより上、最近のボルボの感じか。
運転席に座る。
右ハンドルの仕立ては満点。
ペダルオフセットも無く、アクセルペダルはオルガン式。チルト/テレスコ調整幅も充分だ。
シート高さをメーター角度に合わせ、背面角度を調整する。視認性は問題ない。
肩甲骨のサポートもオーケー。
リアシートに座ってみる。
足元のスペースはさほど広くはない。
なるほど、右ハンドルの仕立て重視で前席
がやや後ろに位置する為だろう。
とは言え、必要十分ではある。足元の見た目スペースを確保する為に座面長を安易に削るクルマに比べたら遥かに良い。
サイドサポートも問題無い。視界は前こそ前席に遮られるが、サイドは良好。
セダンのトランクは広大。コレで不満な人はまずいないだろう。
言うまでも無いが、ボディパネルのチリ(隙間)や合わせ面ズレは皆無。
内装部品の精度や支持剛性も高い。
初期ロットからここまで持ってくるのが日本車らしい。欧州車の初期ロットなんてヒドイものだ。
高品質をウリにできるレベルである。
どっかのEVメーカーは爪の垢煎じて飲むべきだろう。
4.試乗検分
試乗車はセダンのXD Lパッケージ。チタニウムフラッシュマイカと言うガンメタだ。エンジンは1.8Lターボディーゼルである。291.9万円。未登場のスカイアクティブXモデルを除けば、現時点で最上級グレードである。
エンジンをかけるとディーゼルの音はする。
しかし、気になる五月蝿さや振動は無い。
走り出す。
安価なコラムアシストの電動パワステの感触はすっからかんに軽い。まぁ、コレはこんなもんだろう。
道路に出て加速する。
お、もしかして2速発進か。
CX-8で感じた1速から2速へ変速する際のショックが無い。加速も大人しい。ココは良い。
6速ATはステップ比が広めで、変速する度にタコメーターが盛大に上下する。この6速ATには少々古さを感じるが、CX-8よりは良い感じだ。車重の違いだろうか。
乗り心地はちょっと不思議だ。
足は決して硬くない。
215/45R18サイズのタイヤは、専用設計であろうトーヨープロクセスR51A。クセも無く良い乗り心地に貢献している。
荒れた路面での挙動が面白い。
車体を常にフラットに保つわけではなく、緩やかに上下する。しかし、跳ねる訳でもなく、ショックは吸収されている。
フワッと持ち上げられる感じ。今までこんな印象のクルマは無かった。
なんとなくだが、柔らかいバネにプリロード(バネを縮めた初期加重)をかけて、伸び側の接地を重視しているような気がする。
浮いてもタイヤの接地感は薄くならず、良好なのだ。
マツダ3の様なトーションビームかつショックとバネ別置きの場合、本来プリロードは掛けにくい形状なのだが。
また、シート座面にバネ感があるのも珍しい。クッションで振動を飲み込みながら、身体を押し返す感じがある。
この振動のリズム感は経験した事がない。面白い。
1.8Lターボディーゼルエンジンのパワーは充分なものだ。
圧倒的トルクと言うわけでは無く、ダウンサイジングターボのガソリンエンジンに近い特性だ。
アテンザやCX-8の2.2Lターボディーゼルよりはトルク感は薄いが、不満は無い。
排気量の減少よりも、排ガス特性是正の為、エンジンのマネジメントを変更した様にも感じる。
トータルで見て、走りに不満は無い。
リズム感は良いと思う。
5.総括
マツダ3は以下の点で優れていた。
・上質なインテリア
・軽快な走りのリズム感
・良好なドラポジ
インテリアやドアの上質感はズバ抜けてる。
ちょっとこのクラス(Cセグメント)でライバルが見当たらない。強いて言えばアウディA3やボルボXC40か。しかしそのどちらよりも遥かに安価だ。
極短時間の試乗の為、トーションビームサスペンションの能力は不明。しかし、軽快な独特のリズム感は悪くない。
このクラスでは珍しい満点級の右ハンドル仕立ても素晴らしい。これもライバルを圧倒している。
その分後席足元スペースは必要最小限だ。
気にする人は乗って確認すべきだろう。不足している訳ではなく、Cセグメントと考えれば及第点ではあるが、今後アテンザ後継になるなら辛い。
アクセラよりも引き上げられた価格に心配したが、この出来なら文句はないだろう。
そう言えば、安全装置は全グレードに装備されるが、フロントガラスに速度や警告が映されるアクティブドライビングディスプレイも全グレード標準装備だ。
マツダ3、佳いクルマだと思う。
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