ぬるいシーツと塩ラーメン(渋谷・風来居)
「ラーメン」と「堕落」は相性ぴったりな言葉だ。
飲み会の帰りサラリーマンが立ち寄る、深夜の天下一品。
OLがコンビニ行くのもおっくうで家の棚の奥から引っ張り出して食べる、カップヌードル。
いつもはスムージーなんか飲んでる女の子が「たまにはいいよね」と注文するミニサイズのラーメン。
「こんな時間に」
「今日は脂と炭水化物しか食べてないや」
「ふとっちゃう」
こんなふうに、みんなちょっと罪悪感を抱いてラーメンを食べてる気がする。
そんな私にはお気に入りの堕落ラーメンがある。渋谷の東急本店のならびにある「風来居」だ。
昼過ぎに目が覚めて、何となくベッドから起き上がれずにいるうちに夕方になってしまった週末、料理する気力もなくだるさと空腹を抱えここへ向かう。
風来居の名物は塩ラーメンとたまごかけご飯である。
ふつう、塩ラーメンというとスッキリあっさりというイメージだが、ここのはちょっと違う。
まろやか、というか、いい塩梅の「ぬるみ」がある。
スープはもちろん熱いのだけど、にごりのある温泉のような柔らかな肌あたりである。口に含んだときに刺激が一切なく、やわらかな塩の風味が抜けていく。
ああこの感覚、何かに似ている。
さっきまでくるまっていた人肌のシーツを、鼻の上まで引っ張り上げたような安心感。美味しい、じゃなくて気持ちいい。
のっているチャーシューもけっこう脂身があるのだけど、このスープがいい感じの溶かしてくれるのでうっかり全て食べてしまう。
麺はいい意味で主張なくスープにとけ込んでいる。
そんな塩ラーメンを一口食べ、、たまごかけご飯にとりかかる。
たっぷりとした山吹色の卵黄に、ぽっちりとお醤油と鰹節がのっている。一気にかき混ぜて、レンゲいっぱいにのせたご飯を頬張る。
鰹節の風味ともったりとした卵黄がご飯に絡まって口の中に広がる。噛むたびにちょうど良い濃さの醤油が染み出てくる。この鰹節の香りがどうやっても自分で試してみてもマネできない。
ちょっと味の濃いたまごかけご飯を空きっ腹に入れるというのは、白米を食べるよりも「ごはんが美味しい喜び」を感じる。
家でゴロゴロしているだけど週末の半分が終わってしまったけど、インスタを開けばみんな花見しただのどっかのホテルでアフタヌーンティーしただのでてくるけど、私の週末これでいいじゃないの。
しばらくすると
「空きっ腹でこんなに食べたからこのラーメンの脂肪は全部私に吸収されてってるんだろうなあ」
「こんな時間に食べたから夕飯はまた変な時間に食べることになるんだろうなあ」
と、ご多分にもれず罪悪感がフツフツと湧いてくる。
それでも塩ラーメンをすすり、たまごかけご飯をかみしめながら、私はちょっとひびわれた風来居のボックスシートに座って今日も自堕落な我が身を正当化するのである。
参考リンク:風来居 渋谷店