もしも「家事」をする私がいなかったら
幼い子供が家にいる毎日は
あっという間に過ぎていく。
「生活を営む」
そのことだけで
1日が終わるという感覚に
疲れてしまった時期があった。
ご飯を食べること
そうじをすること
洗濯をすること
お風呂に入ること
寝ること
すべてが面倒になってしまって
怒りさえ湧いてきて
誰に向かってというわけでもなく
私は毒を吐いた。
すべての人が
ウィーダーインゼリーみたいなもので
栄養をとる世の中になればいいのに。
ホコリが存在する意味を誰か教えて。
人間が「服」を着始めたのはいつ?
動物みたいに裸で生きられたら
洗濯しなくていいのに。
お風呂に入るようになったのはなぜ?
猫みたいに、身体をなめるだけで
清潔でいられたらいいのに。
そんなようなことを
頭の中でぐるぐるぐるぐる巡らせた。
そんなことをいくら考えても
この世界で人間として生きていく以上
そして、私が「お母さん」である以上
「家事」から逃れることは一生できない。
どうせやらなければならないのなら
楽しくやりたい。
やりがいをもってやりたい。
というわけで、この機会に自分なりに
「家事」と向き合ってみることにしたのだ。
家の事と書いて、「家事」。
もしも家事をする私がいなかったら
家はどうなるかと考えてみた。
家はどんどん汚れていく。
すべてのものは放っておくと
どんどん汚れていくのだ。
床や窓や壁、トイレやお風呂
そして家の中に存在するすべての物には
ホコリがたまり
劣化して
汚れていく。
もしも家事をする私がいなかったら
その家に住む私の家族は
どうなるかと考えてみた。
ごはんを食べれなくて
お腹がすいて
どんどんやせ細っていくだろう。
何日も洗っていない汚い服を着ていたら
臭くて幼稚園や会社で
嫌われてしまうかもしれない。
手入れをしていない布団で寝て
ダニにかまれて痒い思いをするだろう。
ホコリのたまった家では
なんとなくリラックスできなくて
イライラが募って
家族の関係が悪くなっていくかもしれない。
つまり、家事をする意味というのは
とてもシンプルなことだということに
気がついた。
きれいにする。
ただそれだけのことなのだ。
放っておいたら
家も
その家にあるすべての物も
どんどんどんどん汚くなっていく。
それは人間も同じで
放っておいたら
身体は臭くなっていくし
髪の毛は伸びていくし
爪は伸びていくし
耳アカはたまっていく
放っておかれたまま
きれいなままでいられるものなんて
この世にはないんだと思った。
手入れをしてもらったものは
きれいで
手入れをしてもらっていないものは
汚いのだ。
手を入れてもらうこと。
それは
誰かに「気持ち」を向けてもらうこと。
誰かに「関心」を持ってもらうこと。
人間も
家も
家にあるすべての物も
みんな汚くなることで
自分に気持ちを向けてもらおうと
しているのかもしれない。
ふと、そんなことを思った。
気持ちを向けてもらった物は
気持ちを向けてもらった人は
きっと
エネルギーが充電されて
エネルギーが充電された家は、
その中にいる私たちを
癒やしてくれるだろう。
エネルギーが充電された物は、
それを使う私たちを
応援してくれるだろう。
エネルギーが充電された人は、
イキイキとどんどん輝いていくだろう。
それならば
主婦として、お母さんとして、
私が今できる仕事は
お家をピカピカにして
お家にあるすべての物をピカピカにして
家族とおしゃべりをしながら
ご飯を食べて
家族とおしゃべりをしながら
お風呂に入って身体を洗って
家族と「おやすみ」と言い合って
体をくっつけて眠ること。
そしてまた
家族と「おはよう」と言い合って
いっしょに朝ごはんを食べること。
面倒になってしまっていたことたちが
急に素敵なことのように思えてきた。
家族と
その家族を支えてくれているすべての物に
気持ちを向けること。
「家事」という仕事は
なんと地味で面倒で
そして、素敵な仕事なんだろうか。
そんなふうに思えてくると
なんだか私は
家族にとってすごく必要な存在だなって
思った。
もちろん、
またすべてが面倒になってしまうことは
あるかもしれないけれど
そんなときは
また今日こんな風に思ったことを
自分自身にそっと伝えてあげよう。
どんなにがんばっても
お金はもらえないし
わかりやすく感謝される仕事ではないけれど
すごく大切な仕事なんだよって
自分自身に言ってあげよう。
そんなふうに
「家事」を考え終わってすぐに
私は自分の爪を切って
湿気でハネているのに
そのままにしていた髪の毛を整えて
お気に入りの服に着替えて
チャイをゆっくり時間をかけて
自分のために入れて
それをゆっくり飲んだ。
家事のやる気が湧いてきたことは
もちろんいいことだけれど
それよりなにより
私が私に
気持ちを向けてあげる時間も
大切にしなきゃな、
私のエネルギーが満ちていないと
エネルギーをそそげないしな、
そう思ったからだ。
「毎日よくがんばってるよね!
おつかれさま!」
自分で自分に声をかけてみると
なんだかお腹の深いところが
じわっと温かくなったような気がした。