鈴鹿にハンドボールを見に行った話
1月26日、女子ハンドボールチーム「イズミメイプルレッズ」の試合を見に、三重県は鈴鹿市へ行った。
初めての会場だったが、ハンドボールファンの知り合いの方たちのおかげで、無事会場入りすることが出来た。ありがとうございました。
きれいな体育館で、会場の外には軽食販売の出店もあり、スタッフの方はお揃いの紫(ホームチーム・三重バイオレットアイリスのカラー)のジャンパーを着ていたり、ホームの空気を盛り上げようという雰囲気が素敵だった。
陣取った席は、1階アリーナ席最前列の一番端の席。選手と同じコートレベルの席。(ここに座れるのは本当にありがたい)
ハンドボール観戦のときは、ゴール裏が客席になっている会場を除いてだいたいこの位置に座る。
初めて見る場合や試合をわかりやすく見たい場合などはコート中央の延長線上付近が良いかとは思うが、バスケやサッカーと同じく、コート両端にあるゴールに点を入れて試合が進行していくハンドボール、選手の表情を捉えたいので必然的にこの位置になる。
ハンドボールの試合は4チームが同日一つの試合会場に集まって2試合を行う「集中開催」がよく行われる。
多くの会場においてこの集中開催ではチケット一つで2試合を見ることができ、純粋に競技として楽しむ試合・推しチームを激応援する試合、といった具合に濃い一日になるので、これがハンドボール観戦の楽しみの一つでもある。
(集中開催のメリットデメリットに関しては、また別で。)
1試合目は、富山のプレステージ・インターナショナルアランマーレ(以後アランマーレ)と、熊本のオムロンピンディーズ(以後オムロン)の試合。
オムロンはリーグ創設時のメンバーでもあり、現在に至るまでプレーオフの常連、優勝多数の超名門チームだが、今季はやや苦しんでいる。
アランマーレは2016年に設立された新興チーム(2017年よりリーグ参入)で、プレーオフは未経験、過去シーズンも厳しい戦いを強いられているが、今季は強豪相手に善戦も多い。
12:30、第1試合スローオフ(試合開始)。
開始直後からオムロンが得点を重ねるが、アランマーレも食い下がる。
ハンドボールの1試合、前後半60分のうちに入る得点は、おおかた一方のチームが15~30点ぐらい。
この得点数は絶妙だと思っていて、重すぎも軽すぎもせず、60分のうちに歓喜と落胆が幾度となく怒涛のように押し寄せ、自由な交代と相まっていろんな選手に得点のチャンスがある。
身体接触も多く、見ているだけでも必然的に熱くなる。女子の試合でもすぐに立ち上がれないほどの激突もザラにあるスポーツ。
選手と距離が近ければ表情や細かな所作も見え、選手への感情移入は毎回不可避である。
前述の席に座りながら写真を撮って観戦していたが、イスを挟んだ席にアランマーレの部長(監督とは別の役職)さんがいた。
ハンドボールではよくあるのだが、当日ベンチ外になった選手やチームスタッフが、ベンチの対面の一般1階席に座って応援したり指示・アドバイスを出したりする。
その部長さんも選手の動きに対して簡単な指示を出すのはもちろんのこと、相手にゴールを割られると声にならない声を出し、得点が入ると「よし!」と声に出して喜んでいた。
試合も後半に入るとアランマーレがオムロンに対し食い下がり、追いつき、ついには逆転する場面も出てくる。
逆側に席がなかったのか、アランマーレの部長さんは後半も同じ位置で試合を見ていた。
すると今度はもうひとり、女性がやってきて、彼女は僕とアランマーレの部長さんの間に座った。
彼女はオムロンの選手に対してアドバイスをし始め、部長さんと同様に、得点・失点のたびに声が出る。
あとからいろいろ見ててわかったのだが、恐らく昨季までオムロンに在籍していたOGの方だった。
端からカメラを構える僕、オムロンに対してアドバイスするOGさん、アランマーレに対して指示を出す部長さん、という謎の並びが発生していた。
試合は両者譲らず、同点終了引き分け。
伝統とプレーオフ優勝の目標のために絶対にこれ以上負けられないオムロンと、このチャンスになんとしても強豪から勝ちをもぎ取りたいアランマーレの、熱すぎるぶつかり合いだった。
試合を見終わると、もはや最初にあった「純粋に競技として楽しむ試合」とかいうレベルでなく、特にどちらのチームのファンというわけでもない自分もポジティブな疲労感と興奮につつまれていた。
素晴らしい第1試合のあと、第2試合はご存知(?)僕の推しチーム・イズミメイプルレッズ(以後メイプル)と、地元・三重バイオレットアイリス(以後MVI)の試合。
メイプルは歴史でいうと、1994年に創設・リーグ参加と古参と新興の中間なのだが、4位以上を常にキープし、1998~2004まで7連覇という記録も持つ強豪。
MVIは比較的新しいチームで2002年に創設・2006年にリーグ参加、参加当初はなかなか苦しかったようだが、ここ3季連続でプレーオフに進んでいる実力のあるチームである。
そのMVIは女子リーグの中でも応援の熱さが出色で、レプリカユニを着たシューター(MVIでは所謂サポーターのことをこう呼んでいる)がスネアの音と手拍子を響かせながら、さながらサッカーのゴール裏のように応援をするのが恒例となっている。
MVIのホームへ来るのは初めてだったが、第2試合の開始が近づいてくると、紫色の服やグッズを身に着けた人たちで席が埋まってきた。
僕が観戦する席は変わらず1階最前列の端。「応援団」の席は予めまとまって用意されていることもあるが、あくまで僕はいつも個人。
タバコを吸ってから自席に戻ってくると、周りは紫の人たちに囲まれていた。
15:00、第2試合スローオフ(試合開始)。
1試合目はいなかった隣の男性(おじさん)。見た感じはすごく大人しそうな方だったが、試合が始まると「ディフェンス頑張ろう!」「ナイスシュート!」と大きな声を出してMVIの応援に興じていた。
僕も負けじとカメラを構えながら「ヤー!(Yeah)」だの「ドンマイドンマイ!」だの「ヨッシャー!」だのと声を張り上げていた。
周りはMVIのファン。僕の感情と相対する声で溢れる。メイプルのシュートが止められたら「ナイス!」、メイプルがゴールを割られると「よっしゃー!」。
でもその中で、後ろからメイプルを応援する声も聞こえていた。後ろを一瞬振り返ると、メイプルのフロントの方たち。
さらには真後ろの2階席からはメイプル応援団の声も、確実に聞こえていた。
これは燃えた。一人じゃない。多勢に無勢かもしれないが、同じ気持ちの人が確実にいる。
だったらこの状況を、環境を、楽しんでやろう!
ちなみに、隣りに座っていたMVIファンのおじさん、応援の声でこそ張り合っていたが、僕がカメラを構えてるのを見るや「私応援してると前にかがんでしまうので席変わりましょうか?」「見えますか?大丈夫ですか?」と気遣ってくれた。
すごくありがたかったけど、「僕は撮れるものを撮れれば大丈夫ですよ♪」と笑顔で返した。
それ以外に会話はなかったけど、応援ではお互いに(多分)「くそ!」「なんだよ!」と思いながらも、自分にできる範囲の気遣いをしながらの関係がとても心地よかった。
MVIの2点リードで折り返す。
後半開始前に自席に戻ってくると大変な事実に気づく。
端の席であった自分の席の横に、この試合ベンチに入っていないMVIの選手たちが陣取っていた。
MVIのファンとMVIの選手に挟まれてしまった。だけどこんなことで怯んでいる場合じゃない。
ハートは熱を増した。
後半開始。
前半よりも大きく聞こえる、MVIのプレーに呼応する大歓声。
負けじと声を張り上げる、メイプルを後押しする少数精鋭の声。
最後の30分は瞬く間に過ぎた。最後の5分、文字通り手に汗を握り、レンズを持つ手は震えていた。
一進一退の攻防は止まることなく、試合は最後の最後に差し切ったメイプルが勝利を掴み取った。
激闘だった。
試合終了後、すぐにメイプルレッズコールをしてくれたMVIのシューター。
会場の隅から、MVIと、MVIのファンと、そしてメイプルの選手と応援団に拍手を送った。
駅からは遠く、交通機関も本数が少ない場所だったので、知り合いの方の計らいで一緒にタクシーで駅まで戻ることが出来た。
以前から会場ではよく同じになるので存じていた方だったけど、顔は合わせど話したことはなく、行きの道中同じバスだったので思い切って声をかけてみて打ち解けることが出来た。
帰路も名古屋まで一緒に帰り、いろんな話をした。
本当に充実した日だった。
この会場を作ってくれた人、素晴らしい試合を見せてくれた4チームの選手、出会ったすべての方、皆のおかげ。
ありがとうございました。
また、この興奮と充実を求めて、日本を駆け回ろう。
次は2月2日、金沢。