波乱の人生の初まり~わたしの祖母の物語④
母の家に付いて妾しの見た物は、母のひざにの上で、乳房をふくんだ小さな子、そしてかたにもたれて不思議そうに妾しを見てゐる男の子、母に逢ったらすがりついて力一はいだきしめてもらへると思った。
妾しのだきつく所はどこにも有りませんでした。
母の家は日の出湯と云って浴場でした。
二階建の大きな家で、二階にわ母の●と(しうと)にあたる祖父母と、先妻の子(母は二度目でした)で利光と云ふ、あまり利効そうでない父の長男が居りました。
妾と祖父は下の六丈間でした。
朝食●がおわると、祖父は母のつくつてくれた大きな弁当を持って仕事場、黒部に出かけます。
家にゐて兄にいぢめられるし、つまらないので、三丁ほどはなれた祖父の仕事場に行き、木くづなどあつめて遊ぶ毎日でした。
ひるにわ祖父の弁当をもらって、仕事のおわる迄まってゐました。
寒い冬が来ても祖父の仕事はつゞいてゐました。
たき火にあたりながら祖父の帰りをまってゐる妾しを可愛相と思ったのでせう、黒部の奥さんが自分へやにつれて行き祖父の帰るまでおいてくれました。
時にわ、ねむって祖父におぶさって帰る事も度々です。
小さな身に北國の寒さがこたへたのでせう、妾しは風がもとで病気になりました。
一人ねてゐる私に母はごはんをもってきてくれますが、ひねくれた妾は食事もくするも母のくれるものわ、うけません。
さすがの母もしかり●●、其のたびごとに妾の心はいぢけて行くばかりです。
ある日、母のすきを見て祖父の所(仕事場)へ行きましたが、たをれてしまい、妾しの気のついた時にわ、野付病院の病室でした。
心配そうな祖母の顔が妾をのぞいて居りました。
いたさも苦しさも忘れた妾しは祖母にだき付き、只々泣くばかりでした。
※ほぼ原文ママ。
※句読点は読みやすさを考慮して追加。
※写真はイメージ。
【登場人物】
妾し(幸子):この物語の主人公。T.Yamazakiの祖母
ノヱ(小野ノヱ):幸子の母。
楯身(楯身友蔵):幸子の養父。
小野康太郎:幸子の祖父。
ノブ(小野ノブ):幸子の祖母。
武士(小野武士):幸子の叔父、ノヱの弟。