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華美でないことが美しい日本の美意識
文章を書くのは秋ぶりになってしまったかもしれない。日々感じることや新鮮な体験が多いのだが、なぜか書く気分にならないのは日本にいるからなのか、家にWi-Fiがないからなのかはよくわからない。
緊急事態宣言が延長された影響で3月7日にできるはずだったコンサートが中止になってしまった。東京音大の同期の男たちと4人揃っての念願の企画だったこと、”トランペットとオルガンのアンサンブルを日本の教会で演奏する”というのもずっとやりたかったことの一つだっただけに、とても残念だ。コンサートの実現のために尽力して下さった牧師先生がこの3月で他県の教会へ旅立たれてしまうのも残念。
教会という場所でやる以上、コンサートホール以上に感染リスクには敏感に成らざるを得ない。また誰もが安心してコンサートをできるようになる世の中になるのを待つということしかできない。
中止を決定し落胆しながら鎌倉を歩いていると、コンサートを中止しなければならないのが嘘かのようにいつも通りの人通りと日常がある。しかし、なぜ自分たちばかりと悲観的になることには何の意味もないから呑気に散歩をしてみる。
今は親戚のご好意によって夫婦で鎌倉に住んでいる。3歳までは鎌倉に住んでいたし、幼稚園も鎌倉だった。母の出身地ということもあり隣町ではあるものの完全に地元だ。
日本の建築文化
大塔宮のある二階堂というところは独特の古都の雰囲気が残っており、観光客で溢れている小町や若宮大路とは別世界のようだ。道も狭くどんどん森の中に入っていく。近代的な家からドイツ風の家、南欧風の家から時代劇に出てくるような武家屋敷まで建ち並んでおり日本は本当に不思議な建築文化だと改めて実感する。
ヨーロッパの都市計画はもっと規制が厳しく、街並みに対しての強制力が強いため、急にドイツの旧市街の中に日本の武家屋敷を建てたり奇抜な家を建てることは許されない。
そういった意味では日本はとても建築に対して柔軟で自由であると言える。鎌倉の旧市街に煉瓦造りのアメリカ西海岸の様な家を建てても、オレンジ色の瓦屋根の家を構わない。この自由さによって日本の近代建築は特に住宅において独自の進化を遂げていったのかもしれない。
二階堂へ行ったのは、奥地にある由緒正しいお寺である瑞泉寺の梅をみるためだった。
経年変化を劣化と感じるかどうか
ヨーロッパにおいて苔は忌むべき存在であり、排除すべきものだ。苔の生えた彫像ほど醜く汚いものはない。綺麗に磨かれているものこそが美しい。それに対し日本庭園において苔は重要な役割を持っている。苔の生えた岩に神秘性を感じたりそれこそが美しいという美意識だ。
西洋が「美=自然からの隔絶」であり
日本は「美=自然との調和」
西洋が「美=闇を完全になくすこと」であるなら
日本は「美=闇の中にあるもの」であると言える。
西洋は庭を正確に切り分け、花を等間隔で植え、より自然な状態から遠ざけていくことで美しさを見出していく。苔が生えているなどもってのほかである。
それに対して日本の庭園は自然に存在する美景を切り抜いてくることが庭の目的であり、自然の中の美を追求していく。華美なものは野暮であり、美しさとはもっと本質的なその奥にあるものだという深さを感じる。
こうした考え方は西洋でいうならば「モダン」であり、普遍的な美の価値観から先に進んだ先進的な思想ともとれる。
音楽にも同じことが言える。
日本の音楽は歪さや息の音の雑音をあえて使ったり不安定な速さや拍子で演奏していく。綺麗に「ハモる」ことが美でないという価値観であり、それはまさに20世紀の西洋音楽の流行そのものである。
岸壁に作られた道
黒い瓦の上に見える紅梅
水平線が生かされた建築
梅の枝の伸び方は歪で、それほど多く花がつかないところが日本らしい。
数百年かけて作られた石段の上の苔
梅の花の咲く頃に
日本語は自然や季節に絡んだ表現が非常に多い。特に昔はそんな詩的な表現をすることが多かったのかもしれない。
10歳くらいの頃、たまに鎌倉に住んでいた叔祖母と会うことがあった。小町通りの寿司店の女将さんだった人だ。80歳を過ぎていたがアメリカンスピリットをよく吸っていた。その缶がかっこいいからともらって貯金箱にしていた。
そのおばあちゃんに「次はいつ遊びにくるの?」と聞いた時
「梅の花の咲く頃に」
といったが印象的だった。子どもながらに
「直接何月と言わないで花で例えるってなんて情緒のある言葉を使うんだろう」と思った。大正生まれの人の美意識を受け継いだ瞬間だったのかもしれない。
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