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新聞社で「EVトラクター」を作ってみた!2

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2023年10月、EVトラクター事業の実証実験を行うため企画部門に異動した。しかし自由な発想でやっていいと言われても、新聞社がゼロからものづくりを始めるには無理がある。事業計画に賛同し一緒に動いてくれる、ものづくり企業を探さないといけない。

その前に、EVトラクターを買ってくれる顧客がいると証明する必要があった。何せEVトラクターは、まだ市場にない商品。需要を探すというより、需要を創出する取り組みに近かった。会社としても社員1人と相応の資金を投入する形になるし、同僚の支援もある。何としても社の利益に貢献する仕組みを作らないといけない。責任は重大だ。気を引き締めてかかった。

ハウス栽培農家にぴったり

広島市の北東部、安佐南区白木地区では多くのハウス農家が葉物野菜を中心に栽培している。この地で農家さんを20人以上ヒアリングした。例えばAさんはビニールハウスを11棟所有し、年7回の周年栽培で小松菜を広島都市圏に出荷している。時期をずらして種をまくためトラクターは年中使うが、実際に使う時間は30分から1時間程度と分かった。

EVトラクターで問題になるとしたら稼働時間だろう。繁忙期に半日ぐらいぶっ通しで使うような人だと、電池搭載量を多くしないと足りなくなる。当然価格も高くなるし、重くなる。つまり電動に向かない。
一方、ハウス栽培であれば1時間動けば良いので、使い終わった後に充電をセットしておけば電池も適量搭載でいける。モーターだからトルクは十分。EVだと排ガスが出ないからハウス内で使う際の換気は不要だし、振動や音もないので作業者は疲れにくい。メリットがたくさんある。そして何より給油の心配がいらない。
以下のような手作りのチラシを配りながらEVトラクターの特徴を説明すると、多くの方が興味を示してくれた。

市場調査の実証実験で使用していたチラシ

そこで「じゃあ買いますか?」と聞いた。返事は大抵「電気だとトルク不足でダメだと思う」「実際に動いているところを見ないと判断できない」。それはそうでしょう。EVトラクターなんてまだどこも市販してないのだから。仕事で使う道具だけに、ここから先は実際に動くプロトタイプ機がなければ話は進まないと思った。

「音がしないトラクター?本当なら欲しい!」

「音がしない」というコンセプトだけで大きく反応してくれた地域もあった。広島菜の産地として有名な安佐南区川内地区だ。
山陽道広島インター周辺という立地から急速に都市化が進み、農地が逆に民家やアパートで囲まれてしまっている。農家としては昔から同じ方法で農作業しているのに、移り住んできた住民から「エンジンの音がうるさい」と苦情を言われることがあるという。

専業農家のOさんによると、この地域では平日午前9時以前と午後6時以降、土日は日中も音が出る作業は自粛している。こうなると困るのは夏だ。6月になると朝8時でハウス内の気温は40度を超え、常に熱中症の危険がある。しょっちゅう休憩しないといけないので効率も悪い。
「もしトラクターの音が小さくなるなら、朝5時から作業を始め、暑くなる昼には家で休めるから助かる。ぜひ欲しい」と前のめりの反応だった。EVトラクターが形になれば「騒音で困っている人」の課題解決に繋がりそうだ。

顧客のイメージはできた。となると、次はプロトタイプ機を作るしかないでしょう。
(つづく)

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