きっと今日はいい日
「明日は学校いかない。休む。」
ランドセルをおろしながら、帰宅直後の息子がいう。
もう何度めなんだろう。コロナで学校が休校になったあたりから、息子は先生と信頼関係を結べなくなった。
息子はいわゆる子どもらしい面を持ったこどもで、いわゆるワンパク、お調子者である一方、非常に人の心の機微に敏感なところがある。言葉で説明するのがあまり得意ではないので、誤解を生むことも多く、はっきり言ってしまうと、先生が好きそうな優等生タイプではない。また、ご機嫌をとったりするもの頑なに拒否するタイプなので、いつかは「学校いかない」と言うだろうな、と予感はしていた。
最近眠るのが遅く、部屋の電気をけしてからも、こっそり起きてレゴをやったり、本を読んだりしているようだ。証拠にベットに懐中電灯がかくしてあるのを私は知っている。昨晩も私の足音でいそいで布団に入り、タヌキ寝入りを決め込んでいる息子。暗闇のなかで閉じたまつ毛がピクピク動いているのが見える。
「起きてるんやろ。」
まつ毛がさっきよりも激しくゆれている。以前父親に深夜まで起きていることを強く咎められたので、ここで返事するわけにはいかないのだろう。
まあ、それでもいい。確かめたところで、お互い、いい思いはしないのだから。そのままドアを閉じて、自分の寝室に向かった。
朝になって「どうすんの?学校行くの?休むの?」と息子に尋ねた。
ベットから返事はない。
「休むなら登校班に連絡しないといけないから、できるだけ早く決めてほしい。どうしても無理なら休めばいいと思ってる。でも、ほんのちょっとでもがんばれそう、と思うなら行ってみたらいいんじゃない?それから昨日の夜のことやけど。お母さんは頑張った御褒美は好きだけど、できないから罰を与えるっていうのは好きじゃない。」
というと「そうなの?」と起き上がって尋ねてきた。
「家族同士なのに罰があるなんて、おかしいやろ。そう思わへん?」
しばらく沈黙があって、息子はこう言った。
「今日は学校行こうかな。んで、帰ってきたらゲームしてもいい?」
「わざわざ聞かなくても毎日してるやんか。」と返事する。
「昨日はそうじゃなかったかもしれないけど、きっと今日はあなたにとっていい日になるよ。」