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CCDと共に。NIKKOR-H Auto 50mm f2

2ヶ月ほど前に行った神奈川のニュータウンこと向ヶ丘遊園で撮影したものです。友人に勧められ撮りに行ってきましたがなかなか再開発が進んでてお目当てのものは撮ることは出来ませんでしたがそれでも良い場所だったので紹介します。

Ⅰ.[前座]CCDと掛けるオールドレンズ

一概にオールドレンズと言ってもたくさんのものがありますが、大方その中でも特に標準と言われる50mmレンズ。実に多くのレンズがあります。その中でもNikonで特に界隈で「撒き餌」と呼ばれるシンプル・イズ・ザ・ベスト呼ばわりされているNIKKOR-H Auto 50mm f2でいきたいと思います。

NIKKOR-H Auto 50mm f2とは

すでにご存知の通りNikonから登場した標準レンズ。この-Hはまだカラーフィルムが普及しきっていなかった1960年台前半設計のレンズ。そのため白黒のコントラストが強めに出せる設計で作られているためかなりコントラストをはっきりと持って写してくれます。故に設定をカメラ側が強くかけすぎてしまうと変に縁取りが起きてしまったりします。

この50mm f2の-H版はNIKKOR-Sの5年後に設計された1964年発売のレンズです。4群6枚のよくあるガウスタイプですが5群ではありません。まさにオーソドックスなタイプです。

今回使用する-Hの断面図。(ニッコール千夜一夜物語より)

NIKKOR-Sはシリーズ中で5群7枚構成のレンズでしたがこの千夜一夜物語に出るAI Nikkor 50mm f2はこのHバージョンから光学構成の基礎として始まっています。ようはお父さん的なレンズということです。

その中でこのHバージョンは最短撮影距離が後から登場しているレンズたちよりも長いのが特徴です。最短では一応60cm表記ですが実測でだいたい55cmまでは寄る事ができます。おそらく光学性能上出せないものではないのでしょうが、制約か画質破綻を阻止する目的で長くなっているのではと感じます。28mm f3.5のように。

F2と比較的明るさが当時からも標準でしたのでAIニッコール側の説明ですがこのように物語では述べていました。いまではF2なんてくらいというひともいるくらいです。

またF2と明るさに無理がないことから、コマ収差の補正も素直で、大口径レンズにありがちなサジタルコマフレア(画面周辺部で点像が鳥の羽根を広げたような像になる収差)も比較的少なく、2段絞り込むことによって画面周辺部にいたるまでコントラストの高い切れのよい描写が得られる。

第二夜 AI Nikkor 50mm F2

と行ったような文献があります。この文章自体はAi化された光学での話をしていますが、話の内容的には同じです。コーティングが多層膜化されていないHバージョンは描画性能は多少変わりますが大方の光学としての性能は繰り返すようですが同じです。どう変わるのかを比較してみるのもまた一つの楽しみかもしれません。

Ⅱ.CCD機 Nikon D70について

続いてはカメラの紹介を。使用したのはNikon D70。2004年(2003年?)のCCD600万画素カメラです。ソニー製CCD搭載機でこのソニー製600万画素民生CCD素子は名機として知られています。他にコニカミノルタのα- 7なんかにも当然使われています。

Ⅱ-ⅰ画素数侮ることなかれ

よくある1億画素時代になぜこの機を使うのかは言わずもがなCCDとそのローパスです。CCDにはC-MOSセンサがまだ高額だった時代の民生用センサとして広く普及していました。もちろん現在でもコンパクトデジタルカメラやあの高級機ライカにも使われたりしています。ライカとは別物すぎるぐらいのCCDですがそれでも構造は同じ。正確には構造からまるっきり違うのでちょっと怒られそうな文章ですが。それを比較するのもまた一種の境地でもあるわけです。画素数が例え600万だとしてもその撮影者の表現が画素数でかわってしまうのでは本末転倒。それを生かすも殺すもなのです。侮ることなかれです。画素数というステレオタイプにいかに縛られずに自分なりのアイデンティティを表現するかが重要だと自分は思います。

Ⅱ-ⅱ カスタムイメージ調整

このNikon D70はカスタムイメージを設定できおなじみの階調製や彩度、色合いの調整ができます。ただしこのNikon D70には決定的な弱点とも言える特徴をそこで兼ね備えています。このD70はマゼンタ系の色彩空間の補正がまだ黎明期ゆえに弱く青みの強い写真もしくは緑が異常に強い写真が撮れてしまうことがあります。
自分は色合い調整を3°に組んで彩度は一般の状態で撮影していますが、それだと若干青みが強く出ます。そのためにWBなどをいじったりして調整することになりますので色味が気になってしまうという方には少々「あれ、撮りたい色と違う」なんてこともあるかもしれません。

このような点に関して「取りたい色が吐き出せないカメラなんて使えない」となる考えが大きくなる場合はこのカメラはあなたに向いていないかもしれません。よく言えば独創的で一味違う写真を作り出しますが、悪く言えば撮影者の意図にそぐわない写真を作り出すということに他ありません。

そういう時は色合い調整を噛ませたりすればかなり現代的な写りに近づき、ずれても多少はJPEGでも補正が効くようになります。

また補足でWBを5200Kにしていても微調整可能で自分は5000Kに設定しています。若干青みが強いためこれでも調整を加えています。

Ⅲ.作例とともに。

それでは作例に入ります。当日はプロテクターとしてKenko Pro 1Dをはめています。また感染症対策は十分に講じて要請や指示等に従って行いました。
彩度調整ですがModeⅢaで組んでいるため風景を前提とした色彩モードにしています。Ⅰaとではかなり色味が変わりますのでこれも調整が必要になります。ちなみに最近はRAWで撮ることが増えているので1aにすることが多いです。人なら1、風景なら3という感じです。

当日の撮影機材
f5.6

駅前のビルです。このBIGボウルは数年前に惜しまれながら閉店しました。その名残が現在でも残っています。1970年代からのビルでかなり古いですがその分の味はあります。その下の階にも別の店舗がありましたが今は残っていません。(カラオケ屋だったような)言ってしまえばピンはもはやオブジェとなって残っているのみです。

色味を調整していないため若干紫色が強めの作例でした。

f4

駅前ロータリーです。道の真ん中に駐輪場がある不思議な構造はこの遊園の名前の由来にもなっている向ヶ丘遊園の存在が垣間見えます。この場所には遊園と駅とをつなぐモノレールが走っていてロッキード式の特殊なモノレールでした。老朽化により廃止されてからは一部の橋脚を残してこのように土地の再利用が行われています。ちなみに遊園自体は2002年に閉業しています。2002年閉業と言ってもその時点で80年近い歴史がありました。

f4

駅から少し進んだ商店街入り口の靴屋、ヒカリプラザです。このお店も古く70年代からあります。見ての通り大きいサイズの靴を売っているのが強みのお店です。赤みの強い色合いにしているため赤飽和を懸念しましたが思いのほか安定しています。少しだけ歪曲があります。

f2.8

コンクリートの色は元々の色ですので悪しからず。それでも赤い色味のある描写になってしまいました。これは補正次第で現代的な写りへと変化させる必要がありそうです。

f5.6

YouTubeでのとあるカメラマンさんの動画ではこの地が紹介されていたと思います。生田緑地です。自然が残されており蛍などの虫以外にもタヌキやイタチなんかもまだいたりします。これは静態保存されている蒸気機関車です。客車も残されおり自由見学ができます。緑の彩度を調整したため不自然な色合いにはなりませんでした。比較的自然ですがその分黒潰れが起きています。やはりコントラストは強めのようです。

f2

ブレてしまった例です。やはり緑が不自然なほど濃いです。これはよろしくない。

f8

CCDはダイナミックレンジが狭いためこのような光源状況では白飛びは多発します。Nikon D70は1/8000sを搭載しているので大きく露出が振り切ることはないと思います。

緑が強すぎる例

ギリギリまだ奮闘しているようにも見えますが条件が悪いとかなり空も緑色に。電柱なんかを見ればわかると思います。これは何も調整を施していない時です。

f8

夕方になってくると奮闘するようになってきます。色味は赤いですが少しの調整でかなり現代的な調整ができるようになります。

それで今度は青く戻ってしまった感がある

かなり現代的にはなったんじゃないでしょうか。黒潰れはありますが…

f5.6

これが最も現代的に未調整で写った例だと思います。ある意味フィルムライクな写りをするD70ですがこれはかなり使いやすい写真でした。緑もそこまで濃くないいろで程よい感じです。

ガラスの色は遮光窓のためこの色ですので悪しからず。

ちょっと作例が悪いかもですがこれは空の色が割と現代的に写った例です。CCDの特徴を殺しているのではないかと言われればそうかもしれませんが作品作りとなるとこのぐらいの調整はやはり必須になってくることでしょう。ピンク色の偽色が出ています。

f5.6

Twitterに先行で公開して少しだけいいねをもらえた写真です。緑と空の色がちょうど良く発色してくれました。ただその分やっぱり建物の偽色が強く出ます。この偽色はHバージョンの特性かもしれません。緑色の縁取りが見られます。

f2

ボケは流石の単焦点。文句無しです。不自然なボケはせず綺麗に出ています。ピント面もしっかりと解像してくれて好印象です。四つ葉は芝生は養生中で見つけられませんでした。

f4、最高速度シャッター8000

さきほどの作例の白飛びを抑えた例です。やはりレンズの特徴かコントラストが強いためSSを速くする分、色も落ちます。これが当然のことです。モノクロ撮影用の設計(?)ですからまず色反射などの考慮はされていません。ですが個人的にこの作例は解像度が高く好きです。

ボケた例

木漏れ日を撮ろうとしましたが失敗しました。こういうことも最高のISO1600までという一種の制約下ではよくある事例です。

コントラスト強めの例です。
こちらはダイナミックレンジの狭さを強調できなくもない作例です。

上のように黒の落ち込み具合にはやはりニコンの標準レンズといえどかなり質が高いです。2枚目は開放のためすこし地面の描写が流れているようにも感じます。エンジンも2004年製の民生用、ダイナミックレンジは狭いです。

前ボケを意識して撮ろうとしたものの佐川の登場。

緑は抑えると当然赤が出るのはもう7回ぐらい言いましたが肌色はそれでもかなり検討して自然な色合いが出ます。単焦点ゆえのボケも癖がなく、ある意味では現代的です。映っている広島お好み焼きは食べませんでした。(金ないんだわ)

f5.6

そういえば先ほど出していなかった客車の方の作例。かなり緑が強いです。さすがなぐらい。真っ黒な客車下も反対にあった木々の反射で緑色になっちゃうほどです。これはやはり苦手な人がいるんじゃないかなあと思います。調整必須になると思います。

昭和28年製の国有鉄道時代の客車で当然のごとくエアコンなどありません。トイレもボットンタイプ。扇風機は稼働していて東芝のものです。風情あって趣のある木の床板は落ち着きを感じます。おそらくオリジナルでしょう。

f5.6
f2

クリームカラーの客車は椅子がふかふかなので落ち着きます。20分ほどお昼寝させていただきました。椅子は叩くと埃は出ますけど。この垂直のクロスシートボックス型の客車構成は本当に落ち着いて時間が流れる気がします。当時は混みあって通路にも人がいたりしたんでしょうが、その日本の昭和世代を生きた人なら懐かしく感じれるんじゃないんでしょうか。

こちらはスパゲッティ、ホワイトバランスが乱れている例です。オートで撮ってしまったのが少し失敗したかなと。

f11

ゴミが写っています。ローパスはこのあとしっかり清掃しました。あえて戒めとして載っけておきます。ものすごい解像度です。これ600万ですよ?ここまで綺麗に写ってくれるとは思いませんでした。この感じ方がある意味縛られている証拠です。
11で若干回折が起こるか微妙でしたがギリギリ耐えている印象です。色味はまあNikonらしくはないですね。ダメと言えばダメです。でも嫌いじゃない。撮影は夕方でしたので大きく外しているという印象ではなさそうです。

コントラストましまし

f8です。向こう側に見える女性が誰かはわかりませんがちょうどよく写っていたので。茶髪が綺麗に写ったのが意外とダイナミックレンジの狭さがあっても奮闘してくれている感じがして好印象です。解像感はさすがです。JPEGでこれならそのまま使えそうなぐらいの勢いです。

その他の例です。

鳥が飛ぶ瞬間の作例
意外と解像しながら暗部も写ってくれた単焦点の意地、斜めだけど。
レトロなフォントのビル表記
夕焼けに染まってる建物
反射が出てしまってる例。エフェクトとしては好きだがここでは出ない方がいい。

結果 [良くも悪くも評価できる]

色味に関してはNikonにしてはローパスがちょっと色味がおかしく出がちな印象がして黎明期だったのが窺えるものです。レンズは言わずもがなこれは撒き餌といえども良く写るある意地でもう一つのニッコール魂が宿る、なのかもしれないと思わせてくれる解像と表現をしてくれるレンズでした。ぜひ本来の白黒フィルムで撮影してどんな表現をするのか見てみたいです。

番外編 ローパスの色味を比較してみる

色味のことを話してるのに比較画像がないんじゃ何がどう違うか説明できてねえじゃねえかといわれかねない状態なので一応ですが比較画像を。

Nikon D70
SONY α200
PENTAX k100D(D70と同じセンサのSONYICX413AQ型)

というように比較するとPENTAXとNikonではローパスが違うので当然色の再現も変わります。D70のほうが薄く発色しているようですが実際にはWBがずれこんで青の色が飛んでいるというのが正解に近い表現です。したがってペンタックス側は色が濃すぎて逆に屋根にも青色が出たりと少し印象が強めです。ちなみにアンテナ部にピントが来ていません。ノイズ感はほぼ同じ印象ですが、1000万画素のSONYと比べるとやはり微妙に違います。これはエンジンの性能でしょう。BIONZですね。

ある意味D70は想定とは違った写真表現を生み出す点に関してフィルムでの撮影と似たものを感じます。フィルムはそれこそ撮影後は現像作業を挟まない限りわかりませんし、どう写っているのかわかりません。デジタルにそれを求めていないのであればやはりこれは合わないでしょう。しかし趣味としてこのデジタルに技術の黎明期を感じながら撮影をしてみるといかにフィルムからデジタルへと時代への移り変わりをしようと技術者たちが努力したのかがうかがえることができます。

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