見出し画像

Vol.13 フィンランドで学んだ「社会的支援」の考え方

このnoteでは、フィンランドのプレスクールから小中高/職業専門学校を訪れる中で、フィンランド教育の根底にある価値観のようなものを探る過程で発見したことをシェアしていきます。フィンランドの教育現場を初めて訪れた2017年から7年が経過し、緩やかにフィンランド社会の変化を学校現場を通してみてきました。今回のnoteでは、この夏、2024年の8月2日から19日に日本全国から集まった高校生、大学生、社会人、教員の方と学校現場や町を様々な視点でフィールドワークをする中で発見したことを記録として残していけたらと思います。


今回のnoteのキーワードは「コミュニティ」「セーフティーネット」です。世界幸福度調査の指標の1つとして「社会的支援」というものがあります。これは、「困ったときに助けてくれる身近な存在(家族や友人等)がいるかどうか」の平均値になります。

「私たちは困った時に助けてくれる身近な存在はいるでしょうか?」

私自身も住む場所や働く場所を選ぶときに大事にしていることの1つが、身近に相談できる存在がいるかどうかです。これは、知らない土地(異なる文化や価値観がある)に移住するときは、特に重要な要素になっています。

「では、困った時に助けてくれる身近な存在をつくるにはどのようにしたらよいのでしょうか?」

ここで重要になってくるのが、"社会の中に開かれたコミュニティがあるかどうか"だと思います。この開かれた誰もが安心して参加できるコミュニティが身近にあることで、特別な専門家ではなくとも、身近にいる人に相談できる環境がつくれるのではないかと思います。ここでは、フィンランドにおける「セーフティーネット」の機能をもつ開かれたコミュニティの例をいくつか紹介したいと思います。

① 学校(プレスクールから高校/職業専門学校)
② ユースセンター/プレイパーク
③ 地域に開かれたスポーツコミュニティ
④ コミュニティカレッジ(生涯教育機関)
⑤ 移民の教育機関

では、1つずつ具体的な事例を紹介していけたらと思います。

① 学校(プレスクールから高校/職業専門学校)

フィンランドの学校給食

まずは、義務教育機関である学校が安心して通えるコミュニティの機能を果たしているように感じました。大前提として、フィンランドの教育(教材や給食費)はすべて無料であるので、保護者も安心して子どもを学校に通わせることができます。
すべての子どもが安心して学校に通うことができている印象があるフィンランドの学校現場ですが、学校に通うことが難しい心理的状況にある子どもがいることも事実としてあります。この時に、どれだけ安心して学校に通う環境を整えることができるかどうかが鍵になると現場の先生は話していました。具体的には、まずは先生が学校にいけない子どものお家を訪問して、「あなたもこのコミュニティの1人であること」を伝えるそうです。そして、いきなり教室に通うのではなく、その子の安心できる場所を広げていくようなステップで、校長室への登校から始めて、徐々に少人数学級、最終的には教室で学べるようになったことを話してくれました。また、担任1人がこの課題の責任をすべて負うのではなく、カウンセラーの方や教員同士がチームになって一緒に考えることを大切にしているようでした。この学校コミュニティのあり方がベースにあるからこそ、教員も安心して児童をサポートすることができ、安心して子どもたちも通える学校になっていると感じました。子どもたちにとって居場所の機能を果たしているフィンランドの学校ですが、小学校低学年だと12時に終わることもあり、高校生でも15時ごろには学校が終わります。

「では、居場所の機能を果たしている学校が終わった後は、子どもたちはどのような場所で過ごすのでしょうか?」

② ユースセンター/プレイパーク

フィンランドの地域のあるユースセンターの様子

まず、すべての子どもが通うことのできる場として、小学生だとプレイパーク、中高生だとユースセンター(29歳以下)という居場所があります。これらは、登録すると無料で通うことができ、この場にはユースワーカーという専門職の方も在中しているので安心して通うことができます。私もフィンランドに住んでいるときに、外国人であってもユースセンターに通うことで、地域の中で人とのつながりを感じることができていました。
日本でも近年、サードプレイス(日本財団こども第三の居場所事業:リンク)やユースセンター(カタリバのユースセンター企業塾:リンク)が広がりはじめていますが、自治体やその地域に住んでいるプレイヤーによって居場所の有無の格差はあります。その一方でフィンランドでは、人口規模が3000人の小さなコミュニティであっても、子どもたちの居場所はどの自治体でもしっかり確保されているようでした。日本では、ユースセンターやサードプレイスに予算をつけることは多くの自治体にとって難しい現状があり、どのようにして居場所を持続していくのかが課題になっています。
「子どもたちにとって地域の中に居場所があることの、すぐに成果としては見えない社会的な合理性とは一体なになのでしょうか。」
私なりの考えの1つとしては、学校以外の居場所となるコミュニティがあることで、学校の先生や親ではない大人の方や同年代とは異なる世代の方に相談できる人を身近につくる機会になっているのではないかと思いました。

「このユースセンターは居場所としての機能が強く、ユースワーカーという専門職の方によって運営されていましたが、もう少しアクティブに活動をしたい場合、地域にどのようなコミュニティがあるのでしょうか?」

③ 地域に開かれたスポーツや文化コミュニティ

フィンランド全土で、地域の中にスポーツコミュニティが充実しています。日本と比較してもスポーツに参加する人口の割合が高く、地域の中で多様なスポーツに参加できる機会がありました。例えば、私が住んでいた人口が2万人の地域では、柔道のコミュニティも存在していました。仕組みとしては、市が運営している体育館を、ある一定以上の人数になると無料で施設を貸し出しているみたいでした。そして、柔道が好きな人たちを中心にコミュニティが生まれ、子どもから大人までが一緒に柔道を学べるコミュニティになっていました。これは、柔道が好きな人と学びたい人双方にとってWin-winな関係になっており、ここに市が施設の提供のサポートすることでコミュニティが持続的に機能しているようにみえました。
また、学校の体育館も地域の生涯スポーツのハブになっていました。月曜日から日曜日まで放課後以降の予約は週単位で一杯になっていました。単発ではなく、週単位のルーティーンで継続的に貸し出すことで、イベントではなくコミュニティになっていくのだと思いました。私もこの町に住んでいるときは、バレーボールを主宰している地元の企業のサークルに自由に参加することができました。スポーツや音楽という非言語でも交流ができる機会は外国人である私にとっても重要なコミュニティになっていました。

「では、スポーツ以外の言語やアート、音楽、演劇等の文化的なコミュニティは存在するのでしょうか?」

④ コミュニティカレッジ(生涯教育機関)

この文化的な学びのコミュニティの機能を担っているのが、コミュニティカレッジになります。イメージでいうと日本の公民館のような機能を担っており、誰もが講座を開講することができ、市民の方は自由に参加することができます。違いとしては、このコミュニティカレッジにも校長先生が存在しコミュニティの運営のサポートをしています。さらに、行政が講師にお給料を支払うことで、コミュニティカレッジを仕事にしているフィンランド人の方もいます。人口が3500人規模の町ですが、100を超える講座が開講しており、0歳から100歳までの方は自由に学びに参加することができます。
ここで校長先生が話していたのは、コミュニティカレッジの目的は、「楽しむ」をベースに学びのコミュニティをつくることだと話しています。特に、退職した方は地域の中で孤独になりうるので、退職する前から地域のコミュニティに参加することで地域の中につながりが生まれ、何か困ったときに相談し合えるような関係性がコミュニティの中に生まれているように感じました。このコミュニティカレッジは、元々は100歳までがベースにありましたが、最近では101歳の方が最高齢で、最年少は生まれて4ヶ月の赤ちゃんとお母さんとベビーマッサージの講座が開講されたことで、0歳から101歳までが学ぶコミュニティになっているそうです。
さらに、このコミュニティカレッジはフィンランド人だけでなく、移民の方にも重要な学びの機関になっています。具体的には、移民向けのフィンランド語の講座が開講されており、「ロシア・ウクライナ戦争」の影響で移住してきた難民の子どもにとっては放課後に言語を学べる重要な機会になっていました。フィンランドの社会では、社会の中で孤立しそうな人も包括できるような機会をつくっているように感じました。

⑤ 移民の教育機関

最後は移民のための教育機関です。ある一定の条件を満たすと、移民や難民の方はお金のサポートをもらいながら専門学校で語学を学び、次のステップとして職業学校で資格を習得することができます。この移民政策でも、重要になってくるのがコミュニティづくりと専門学校の先生は話していました。外からやってきた人は、同じ文化圏の人と集まってフィンランドのコミュニティに入らない傾向があるみたいですが、できる限りフィンランドの地域社会のコミュニティに参加することで、地域の人との関係性を構築することを願っていました。フィンランド人だけでコミュニティをつくるのではなく、外からやってきた人に対してもコミュニティをオープンにしているのは、フィンランドに短期間ですが移住した経験したことのある私も感じることができました。

まとめ

このようにフィンランドの社会では「学び」をベースにしたコミュニティ(居場所)が複数存在することで、一人一人が地域コミュニティに所属感を感じられているのではないかと感じます。日本でコミュニティをつくろうとすると、どうしてもボランティアベースになってしまい、持続することが難しい課題に直面するのですが、行政もコミュニティづくりのサポートをし、専門家や特定のスキルを持った人がコミュニティをつくりやすくなり、小さく多様なコミュニティが様々な世代を超えて生まれていました。

このコミュニティが機能することで、対処的ではなく、予防的に孤独や鬱などの問題と向き合えるのではないでしょうか。これにより、1対1で支援する人、支援される人という関係性ではなく、行政がコミュニティづくりをサポートすることで、人々がコミュニティの中でお互いを知り、支え合う関係性を築くことは、日本に元々あった地域社会の文化の考え方と近いと思います。

改めて、個人主義といわれているフィンランドでも機能しているコミュニティづくりの考え方から私たちは何か学べるヒントはあるのではないでしょうか。

いつも読んでいただきありがとうございます。

Moimoi!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?