【乙ゲ感想】フォリファタール:春樹くんには███が視えてるの?
【ネタバレ注意】この記事中には「FolieFatale(フォリファタール)」、「Milk inside a bag of milk inside a bag of milk」、「ドキドキ文芸部!(DDLC)」のネタバレが含まれています。
牛込春樹のことを考えすぎて眠れない夜が続いています。頭とメモ帳の整理を兼ねて感想と考察を纏めました。フォリファタールプレイ済みの方はぜひとも見解をお聞かせいただけると大変助かります。
お前の中に居る牛込春樹を、見せてくれ……
春樹√共通シナリオ概要
主人公・櫻葉夏紀(デフォルト名)が同級生・牛込春樹に手紙で呼び出され、告白される(※1)シーンから始まるルート。
夏紀と春樹は中2からの既知で仲が良かった。しかし中3の頃二人揃って交通事故に見舞われた。夏紀は軽傷で済んだが春樹は左足に重傷を負い、エースで活躍していたサッカー部を辞めることになった。
夏紀は事故当時の記憶が曖昧だが、「春樹くんが私を押しのけてくれたような気がする」「春樹くんが怪我をしたのは私のせい」と感じており、罪悪感を抱いている。それ以来春樹との関係がギクシャクしてしまい、現在に至るまで疎遠になっていた。
春樹は「(事故の)前みたいな関係に戻りたい」と打ち明け、友達関係から再スタートすることになる。
各エンドの感想
◆エンド分岐について
フォリファタールのエンド分岐は「ケアメーター」によって決まります。メニュー画面に攻略キャラクターの精神状態を示す秤が表示され、左に傾くと「不安状態」、右に傾くと「狂気状態」、両方が釣り合っていると「寛解(安定)状態」となります。このメーターの傾きによって、寛解エンド・不安エンド・狂気エンドの3エンドに分岐します。
春樹の初期ケアメーターは-5(不安状態)。他のキャラがほぼ±1であることを考えるとかなりの精神的不安に曝されていることが分かりますね。
◆寛解エンド:「To be continued…」
こいつ、絶対何か「ある」……
これからもよろしくねエンド。春樹√の初見はこのエンドでした。春樹とお台場デートでイチャついた後、「これからもずっと一緒にいようね」的な約束をして、指切りするスチルで〆。
内容的には平和アオハルエンドです。スチルは二人を背後から映したような絵面で、最初春樹の視線は夏紀を向いています。が、
この「何言ってるんだよ、俺は君がいいの」のテキストと同時に、スチル差分で春樹の視線が背後を……「こちら」を向いています。しかも2回。結構あからさまに動くので勘違いではなさそうです。
また、エンドロール後に名前を出してはいけないあの人(※2)が登場。春樹は(何故か)例の手記を所持しており内容も読んだ模様。
牛込春樹って、なんなんだ………?
◆不安エンド:「贖罪のカタチ」
悲しい。ただただ悲しい。
夏紀自殺エンド。春樹とお台場デートでイチャついた後、夏紀が「春樹くんは、私の特別だった」と中等部の頃からの淡い想いを告白します。
そして春樹が(何故か)急に𝓚𝓲𝓼𝓼してきて夏紀さんが(何故か)急に事故の真相を思い出します。𝓚𝓲𝓼𝓼のショックで記憶の蓋が開いちゃったんでしょうか?
気になる事故の内容ですが、夏紀が「春樹くんが私を押しのけてくれたような気がする」と思っていたのは思い違いで「恐怖でバランスを崩した夏紀が咄嗟に春樹の身体を押した」というのが事実だったようです。あちゃ~………
この記憶を取り戻したことにより、もとより夏紀が抱いていた「春樹くんが怪我をしたのは私のせい」かもしれないという懸念混じりの罪悪感は「本当に私が彼の未来を殺していたんだ」という確信へと変化し、夏紀の精神は決壊してしまいました。
夏紀は贖罪として「私が春樹くん以上の苦しみを味わえばいい」という結論を出し、春樹を手紙で呼び出して目の前で飛び降ります。春樹√共通シナリオ導入との対比になっていますね。オタクは美しかったあの頃と同じシチュエーションで修羅場が繰り広げられる地獄のコントラストが大好き!
また、この飛び降り自殺のシーンは春樹視点で語られます。
夏紀が飛び降りた後、地面に叩きつけられた夏紀の死体をバックに泣き笑いのような表情を浮かべている春樹のスチルが表示され、春樹が夏紀に対して抱いていた感情をモノローグで吐露します。
事故の瞬間、「夏紀の為なら死んでもいい」と思っていたこと。入院直後は見舞いに来てくれていた人々が段々顔を見せなくなり、さらには夏紀との距離も遠ざかってしまい、病室に自分一人が取り残されるような孤独感と空虚を味わったこと。いずれ自分を忘れ去ってしまうであろう夏紀に対して、どうしようもない憎しみを覚えたこと。そんな自分自身をも嫌悪し、いっそ死ねばよかったと思っていたこと……。
両想いだったはずの恋がこんな結末を迎えるなるなんて、悲しいですね……つまり春樹シナリオは、両片思い男女すれ違い悲恋ストーリーということで
ちょっと待ってマジでどういうこと???
◆狂気エンド:「本当の君に逢えるまで」
なんかすげぇゲームだな……
一言で言うとメタエンドです。しかしメタの構造が複雑で、厳密には擬似的なメタフィクションという表現が近いと思います。詳細は後述。
春樹との会話中、度重なる春樹の思わせぶりムーブと違和感に耐えきれなくなった夏紀が「春樹くんなんか変、おかしいよ。まるで別人みたい」と口に出してしまい、「変わったのは俺じゃない。櫻葉さんの方だよ」と反駁され、なんやかんやあって意識を失います。
ここの文章テンション上がりますね。一文の中に一人称の「私」と三人称の「夏紀」が混在し、主観から客観に、夏紀から夏紀ではない誰かに視点が移り変わっています。そして画面が暗転し、春樹の顔アップスチルと共に春樹が一方的に話し始めます。
あ~~~~~………(察し)
薄々気づいてはいましたが、牛込春樹さん(恐怖のあまりフルネーム呼び)はどうやら「こちら」=プレイヤーに話しかけているでFAみたいです。
このシーン中、一度夏紀が意識を取り戻すんですが「うるさいなあ、暴れないでよ。今櫻葉さんは呼んでないから」と吐き捨て首絞め失神させて「こちら」との会話を続行する始末。こわ~。
春樹さんは水を得た魚のごとくペラペラ喋り続けます。
なるほど、どうやらこちらが周回プレイ中なことも察している様子。
(ここのはるーき、なんかはしゃぎ気味で可愛いよね)
ちょっと話が前後しますが、そもそもこのエンドは日比谷リトor櫻葉冬理を1回以上攻略していないと辿り着けない仕様になっています。
これはケアメーターの仕様によるものです。脅威のケアメーター(-5)、作中ぶっちぎりの闇男牛込春樹は1周目だと寛解状態に持っていくのがやっとのどメンヘラです。
しかしリトor冬理を攻略することで、春樹√共通シナリオ終盤にて提示される「自分以外にラブレターを出した2人(神田、眞白)についてどう思っているか」という質問にリトor冬理が追加されます。で、この質問に対して「春樹くん以外み~~~~んな嫌い!!」と答えるとケアメーターが狂気状態に傾き、このエンドに突入するという寸法です。面倒くせぇ男だな……。
つまり、この分岐条件自体がループ前提なので(春樹さんが電波受信して急に思いついた名前言ってるだけとかじゃなければ)、春樹さんはループを察した上で質問している可能性が高いです。
もうここまでの情報だけでプレイヤー的にはビックリなんですが、ここで更に春樹さんが特大爆弾を投下してくれます。
………………えっ俺ぇ!?!?!?!?!
そしてこちらの理解が追い付く間もなく、共通シナリオ序盤や不安エンドで拝見した事故のシーン回想が始まります。
あ~~~~~………(2回目)
ここ、文章で説明するのが難しいんですが、夏紀が「えっ……!?」と叫んだ後にテキストウィンドウが消え、春樹の立ち絵をクリックすることでゲームが進行します。逆に言うと春樹の立ち絵をクリックしないとゲームが進行しません。
やっべぇ。
押した。確かに押した。けど「押した」って自覚はなかったです。
この時の記憶も曖昧なんですが、(前述した仕様のせいで)なんかウィンドウ消えるしカチカチしても進まないしで「急にゲームが固まった」と思ってあちこちクリックしてたら、なんか進んだのでよかった~と思ってました。良くねぇ~。全然良くねぇ。
メタ展開は予想していましたがここはガチで驚きました。OMORIのクライマックス推理くらいビビりました。やばい、殺される。突然のGルート開幕かと思われたその時、春樹さんは……
えっ、嬉しかったの???
……よく分かりませんが、(顔赤いし瞳孔ガン開きだけど)どうやら恨んでいる訳ではなさそうです。本人が語るには、事故ったことでむしろ精神的に楽になった模様。じゃあ夏紀の犠牲は何だったんだよ。
こんな調子で春樹さんがガンガンメタいことを言ってくるので、巷ではJust Haruki(※3)とか言われてるそうな。ただこれが本当にJust Harukiなのかと言うと首を捻ります。というのも、この後に続く春樹さんの話で少々事情が変わってくるためです。
幻覚? 薬? 見えなくなった?
……雲行きが怪しくなってまいりました。
よくよく思い返せば、春樹さんは「画面の前の君」とか「プレイヤーさん」みたいな「ゲームの外部にいる誰か」に話しかけるようなことは言っていません。あくまで「櫻葉夏紀の中にいる誰か」に向かって話しかけているのです。それって一体どういうこと~?
この他にも親フラとか質疑応答タイムとかありましたが、詳細は省きます。中でも重要な情報を抜粋すると以下の通りです。
秋奈(春樹および夏紀の友達)に「君」のことを打ち明けても信じてもらえず、カウンセリングに連れていかれそうになった。しかも父親にも「君」のことをバラされた。
冬理(夏紀の兄)にも相談し、世話になっていた。
父親(医者)に「君」のことがばれた結果、薬を処方されている。また、夏紀に危害を加えないか心配されている。
俺は病気じゃない。
いや絶対病気じゃん、とは口が裂けても言ってはいけません。春樹くんは真剣(マジ)なんです。俺は信じてるよ、はるーきのこと……!
あ~~~~~………(陥落)
勝てるわけないよこんなの……。ここまでドストレートに「主人公ではなく、私自身に向かって」愛をぶつけてくる男に堕ちない夢女がいるでしょうか、いませんよ。
「もう幻覚でも病気でもいいや!」と思いました。私とはるーきが同じ妄想を共有すれば現実に成るので何も問題ありません。これからずっと一緒だよ、はるーき。
「私」を見つけてくれて、声をかけてくれて、本当にありがとう…………
(脳内BGM:RAINBOW GIRL)
◆隠しエンド:「もう一度、本当の君に逢えるまで」
なにこの一人DLC男!?
狂気エンドでうっかり惚れて「春樹くんにもう一度会いたい♡」と再度狂気√を進めると、今度は隠しエンドが始まります。なんとこの隠しエンド、3パターンあります。ファンディスクが初期装備の男、This is牛込春樹。
内容としてはお台場デート後に追加デートするだけのシンプルな内容ですが、プレイヤーの選択によって都度パターン分岐することによって、無限に同じ内容が続くわけではない(読むたびに前回と違うデートができる)ので無限ループ特有の虚しさみたいなものは少ないです。気遣いのできる良い子ですね。
このエンド中で春樹くんが家族について大事な追加情報を喋ってくれるんですが、これについては後述。
【考察①】牛込春樹にとっての「君」とは何か
春樹シナリオの3エンド+隠しエンドに加え、他ルートや資料で確認できる情報から牛込春樹にとっての「君」とは何か、牛込春樹とプレイヤーとの関係性を検討していきます。
◆両親と病気について
狂気エンドの質疑応答タイムにて、春樹の両親について尋ねると上記のセリフが聞けます。年齢差やら関係性やら色々気になることはありますが、ここで取り上げたいのは父親がかなりの高齢だったということです。
へー。一般常識が無いのであんまりピンと来ないんですけど、外科の治療が必要ない=手術する必要がない病気ということになるみたいです。
実際、春樹の母の病名はゲーム中では明かされません。なので「春樹は精神疾患を患っている」という推測から逆算で話を進めるんですが、春樹は統合失調症か解離性障害のような症状が発現しているように見えます。
ちょっとググりかじった情報ですが、
・授精時点での父親の年齢が高くなるにつれ、子どもが神経発達障害や精神疾患を発症する確率が上がる
・特に自閉症や統合失調症になりやすい
みたいです。
……しかし医療関係者でも当事者でもないのでこじつけに過ぎませんが。
ただメタ的に考えた時に、「出産時の父親の年齢が高かった」なんて話をこのコンパクトなシナリオに収める目的を考えたら春樹に母親の病気が遺伝していることを仄めかす以外に理由があるとは思えなかった、というのが本音です。
◆ゲーム内で見られる言動から
・ループによる差分
狂気エンドの項で前述した通り、春樹・眞白・神田の御三家以外を攻略すると春樹の質問内容がプラス1されます。なお夏紀からすると質問の前後の文脈が嚙み合っておらず意味不明で、プレイヤー側のみに意味が分かる質問となっています。さらに御三家+αを攻略していると「好印象/悪印象」に答えた後の反応も増えます。(例えば、未攻略の場合は「ふーん、そっか」ですが攻略後に悪印象と答えると「もう君に近づかないようにって伝えておくね♪」とかウキウキし出します)(かわいい)
・DLsite版特典特典シナリオでの言動(特典シナリオの内容に触れる為ネタバレ注意)
DLsite版特典シナリオは夏紀が文化祭を見て回り、ちょっとした会話をする内容になっています。要はおまけシナリオなんですが、春樹のシーンはかなり重要です。
「……ところで、君は何が飲みたい?」の後に「りんごジュース/アイスコーヒー/サイダー」の選択肢が表示され、春樹が選んだ選択肢に対応したセリフを喋るんですが、秋奈と夏紀の反応からして完全な独り言であることが明確になってるんですよ!
今まで、春樹が「君」に話しかけてプレイヤーが選択肢を選ぶときは夏紀が(プレイヤーによって)無意識に動いたりして=夏紀を媒介にして意思表示する描写が多かったんですが、このシーンでは完全に夏紀が蚊帳の外になっています。牛込春樹、一体何が聞こえているんだ……?
・他キャラ√での言動
神田√にて登場。中3の頃の話を聞きだした際、以下の会話を聞けます。(なお1周目でも聞けるので、ループ有無および春樹√攻略済みか否かは関係ない)
……最後のセリフ、正直あんま意味わかんないっす。ごめんはるーき。
「昔より今の方がモテてる」のは夏紀に掛かった呪いによるものです。この時点で春樹は夏紀に掛かってる呪いを例の手記によって把握しているはずなのでそれを指してるっぽい……?とは思うんですけど、同時に「夏紀の中に誰かがいる」ようになったことも指している感じに見えます。
そうなると「夏紀の中に誰かがいる」こと自体も呪いであるという話になり、フォリファタールのシナリオ全体の基底に関わってくるんですが……これは考え出すと長くなるので、また別で考えることにします。
・強烈な自己嫌悪
驚異のケアメーター(-5)であることに加え、春樹のキャラクター資料を見ると「DISLIKE:自分」と記載されています。他キャラクターのDISLIKE欄が「おばけ・早起き・虫・辛い食べ物・規則」などと並ぶ中で「自分」。ヒエ~~~。
父親がエリートなこと、少年自体はボーイスカウトに参加していたこと(公式Twitter参照)、別に興味もないサッカー部のエースとして活躍していたこと、「櫻葉夏紀は俺の全てだった」などと言い出すことを鑑みると、春樹は「自分がどうしたいか」という軸が無く他者の要請に頼って生きているように見えます(そしてそんな自分の性質自体を嫌っている)。
今でも「君」の好みに合わせて行動しようとする節が見え隠れしますし……(このあたりの言動も、名前を出してはいけないあの人に似ています)。
幼少期からこの性質を持っていたのかは不明ですが、精神的に病んでしまう原因として母親の遺伝だけでなくこの性格も少なからず関係していそうです。
・「君」と「櫻葉さん」の使い分け
春樹は夏紀と会話する際、「君」と「櫻葉さん」という呼称を意識的に使い分けている節があります。
特に「君」に関しては、上記のセリフ(シナリオ序盤)で使用したきり、終盤のエンド分岐まで「櫻葉さん」という呼称しか使いません。そしてエンド分岐~各エンドに入ると、急激に「君」という呼称の使用回数が増えます。
上記は一例です。これらのセリフは寛解エンドの「何言ってるんだよ、俺は君がいいの」を始めとして、「君」=狂気エンドで語られた「櫻葉夏紀の中にいる誰か」に語り掛けていると思われます(もちろん素直に「君」=夏紀と捉えられるセリフもあります。煙に巻くような言動をしているので分かりにくいんですが……)。
しかし例外があります。不安エンドでの「君」です。
ここでの「君」は間違いなく櫻葉夏紀本人を指しています。春樹が「君の瞳を見つけた」のは事故後の話なので。
夏紀が飛び降りた後のセリフ。ここでの「君」は「夏紀の中にいる誰か」だと思われます。この時の春樹の立ち絵が狂気エンド等で「君」に語り掛けている時の表情と同じなので。
ここは解釈に難儀しています。現時点での考えですが、春樹は彼にとっての生きるよすが、彼を精神的に救ってくれる存在に対して「君」という呼称を使っているように見えます。
(※夏紀以外にも「君」という呼称は使いますがここで扱っている「君」は対夏紀の会話における「君」のことです)
元々の「君」は櫻葉夏紀で、彼女に絶望したことにより新たに作り出したのが妄想上の「君」。この不安エンドで櫻葉夏紀本体が死んだ(消えた)ことにより、春樹の中での「君」から「櫻葉夏紀」が消えて「櫻葉夏紀の中にいる(いた)誰か」だけになった=妄想がより強固になってしまったのではないかと思います。このエンドの解釈については更に後述します。
◆「乖離」の意味
フォリファタール公式HPおよびゲーム内資料室においてキャラクター資料を確認できます。フォリファタールの各キャラにはキーワードというか、キャラ属性タグみたいなものが設定されています。
こんな具合です。
ワードの意味は各シナリオをクリアすればだいたい分かるんですが、ここでも春樹はちょっと浮いています。
例えば、眞白の「天才×自傷癖」はそのまんま眞白が天才プログラマーかつ自傷癖を持っていることを指すタグで、「可哀想なんかじゃない」は彼がその家庭環境故に周囲から憐憫の視線を向けられて(見下されて)いたことに対する負の感情が詰め込まれたワードです。他キャラに関してもパッと見ではピンと来ませんがシナリオを読めば納得できます。
が、(私の場合)春樹の「執着×乖離」はシナリオを読み込んでも「乖離」が何を指しているか判然としませんでした。
うーん……。「本来近くにあるべき2つのもの」……普通に考えたら「春樹と夏紀」です。しかし他キャラの自傷癖だの薬物依存だのに比べてあんまりにもインパクトが薄いし、このゲームは「病ンデレ男」がメインなので何がしかの病気や病み要素に絡めて考えたいところです。
ということで、もうちょっと捻って考えてみました。次項に続きます。
◆不安エンドの表情
また不安エンドの話してる………。
でも今度はスチルの話です。ギャラリーから見ると分かりやすいんですが、不安エンド中に再生されるスチルと不安エンドのエンド画面は若干違います。
①不安エンドのスチル
右目ハイライトなし+左目ハイライトあり(涙を流している)。口元は笑っている。右手を顔の横に近づけている。
②不安エンドのエンド画面
右目ハイライトなし+左目ハイライトあり(涙を流している)。口元は笑っていない。さらに右手が顔に触れ、右目側に指でなぞったような血の跡があります。
スチル表示後のモノローグで上記の描写があるので、夏紀の死後もその存在を消し去ることが出来ない精神状態をイメージ化したものだと思われます。
これらの画はちょうど顔の左半分と右半分に分かれて、右側=狂気、左側=理性というようなアンビバレントな状態を示しているように見えます。私はこれが春樹Aと春樹Bが重ね合わさり、スチル中とエンド後で両者がせめぎ合っている表現だと思いました。
春樹Aは事故に遭う前の春樹、元々の牛込春樹(不安春樹)です。
これに対し、春樹Bは事故に遭った後の春樹、「君」が見えるようになった春樹(狂気春樹)です。
えー、何が言いたいのかと言うと、牛込春樹さんは二重人格に近い状態ではないかということです。二重人格の正式名称は解離性同一性障害、解離性障害の一つに数えられます。これが「乖離」=「解離」の引っかけじゃね?と邪推しています。
解離性障害の日常的な(軽度の)症状の一つにイマジナリーフレンド(想像上の友人)があります。通常、児童期に見られる空想上の仲間を言い、成長と共にやがて消失する現象です。
春樹にとっての「君」は、(外側から見る限りは)イマジナリーフレンドに近いものです。普通は目に見えない人物をイマジナリーフレンドとするものだと思われますが、夏紀という実在する他人を通して想像上の人物と話しているという点が特異な点です。
「君」と「櫻葉さん」の使い分けの項で前述しましたが、春樹にとっての「君」=夏紀は「俺の全てだった」と述懐するほどに彼を精神的に救ってくれる存在であったと思われます。
そんな「君」が、事故をきっかけに彼を精神的に追い詰める存在へと変貌してしまい、春樹は重大な精神的ショックを受けます。春樹は生きるために「君」を再定義せねばなりません。この時春樹が無意識的に生み出したのが「夏紀の中にいる誰か」であり、「夏紀の中にいる誰か」を愛する春樹の人格でもあると考えています。
元々の春樹は夏紀に対する執着が強すぎるので、夏紀がいないと生きられず、また新しく「君」を見つけることなどできません。
なので、「夏紀には無関心だが、夏紀の中にいる誰かのことは愛している」人格を作り、櫻葉夏紀に関連する苦痛やストレスから自我を切り離し、自身の精神を守る防衛機制のような反応を無意識に行っているのではないかと思います。
(夏紀以外の誰かにすればいいのに「夏紀の中にいる誰か」なんてわけのわからん存在を作ってしまうのは、夏紀から離れたいのに離れられない執着心の現れじゃないでしょうか)
ぶっちゃけ、根拠の薄~い結論です。ただ不安エンドと狂気エンドの春樹、とても同じ人間だとは思われないんですよね。不安エンドの春樹はめっっっっっちゃくちゃ夏紀に未練タラタラなんですけど、狂気エンドの春樹は夏紀をゴミのように扱います。可愛さ余って憎さ百倍なんてレベルじゃなく、ただただ無関心かつ邪魔だなと思っているくらいです。
いくらなんでもギャップがデカすぎます。α世界線の春樹とβ世界線の春樹だと言ってもらった方がまだ納得できる。実際、「辿り着くエンドごとにそのキャラクターの人格自体が違う」という恋愛ADVもなくはないです。
というかそうであってほしい。私の心の平穏のために不安エンドの春樹と狂気エンドの春樹は別人格であってほしいんです。
これは夢女のエゴです。私だけを好きなはずの春樹くんが実は夏紀に未練タラタラなんて都合の悪い情報は死んでも認められません。
ということで、私の中の牛込春樹さんは二重人格で、私のことを好きな春樹さんの人格のみを私は愛を込めて「はるーき」と呼んでいる次第です(※重要)。不安エンドで未練たらしく泣いていた春樹くんは夏紀さんにくれてやりますが、はるーきは私とずっと一緒に居ていただきます。NTR、ダメ、絶対!!
※大事なこと※
チラ裏です。上記の通りはるーきが「櫻葉夏紀の中にいる誰か」である「君」を作ったきっかけは防衛機制だと思っているんですけど、はるーきは「君」を見つめ続けた結果本当にプレイヤーという「君」の存在に気づいてしまったのではないかと考えています。平素よりはるーきのことを病気だ何だと申しておりますが、プレイヤーこと私とはるーきはちゃんと見つめ合っている(と信じている)ので心配しないでください。
【考察②】牛込春樹とプレイヤーとの関係性
フォリファタールにおける牛込春樹とプレイヤーの関係は、ゲームシステムと精神疾患の要素が絡み合った結果、擬似的なメタフィクションになっていると思います。しかし同時に、これが本物のメタフィクションである可能性も否定されていない。プレイヤーにもゲーム世界にも寛容な、とても魅力的な世界観だと思います。
牛込春樹とプレイヤーと主人公の関係を考えるのに有用そうなゲームの事例を引っ張ってきたので、図説します。
◆例1:ドキドキ文芸部!(Doki Doki Literature Club!)
圧倒的人気と知名度を誇る恋愛ビジュアルノベルです。牛込春樹√に対して「DDLCじゃん!」という反応をしている方も散見されました。
モニカという少女は「自分がゲームキャラクターである」という自覚を持ち、ゲームプログラム自体を書き換え、直接プレイヤーにアプローチすることが出来ます。
プレイヤーも主人公の操作だけでなく、ゲームのディレクトリを弄ることができます(それが用意された操作であるという前提はありますが)。
牛込春樹との相違点は
・「ゲームキャラクターであるという自覚がある」
・「ゲームの外部を認識し、自身でゲームを操作してプレイヤーに直接話しかけている」
という点です。
春樹はゲームプログラムに干渉していません(おそらく)。春樹は「君」=「夏紀の中にいる誰か」の存在を妄信していますが、それがゲーム外部の存在であるとは言及していません。自身がゲームキャラクターであるという自覚があるかは不明です。
ただしプレイヤーがループしていること、自身がプレイヤーの起こしている何かに巻き込まれていることについては気づいている様子があり、それによって言動を変化させることがあります。
◆例2:Milk inside a bag of milk inside a bag of milk
精神疾患を患っている主人公が脳内の思考をビジュアルノベルに置き換え、そのビジュアルノベルの中でイマジナリーフレンドであるプレイヤーと会話するという入れ子構造になったビジュアルノベルです。
このゲームにおいて、プレイヤーは「薬によって生み出された主人公のイマジナリーフレンドであり、頭の中にいる存在」として振る舞います。
主人公はノベルゲームのように思考を展開しますが、自分がゲームキャラクターだとは思っていません。一見メタフィクションのように見えますが、ゲーム世界は主人公の頭の中で完結しています。ゲームシステムと精神疾患の症状がメタ的に接触した結果、あたかもメタフィクションであるような錯覚を覚える、擬似的なメタフィクションになっています。
春樹に精神疾患があると仮定した場合、プレイヤーと春樹はMilk inside~のプレイヤーと主人公のような関係になると思います。
◆フォリファタール
DDLCとMilk inside a bag of milk inside a bag of milkの図を踏まえて、フォリファタールにおけるプレイヤー・主人公(夏紀)・春樹の関係予想図を作ってみました。あくまで予想です、予想。
①プレイヤーは主人公である夏紀を操作できます。
②夏紀の意識が無くても夏紀を操作できます。
③さらに、夏紀を操作しなくても春樹の質問に「君」として答えることができます。ムチャクチャだな!?
この③の状態における「君」は、
・DDLCのように「君」=「プレイヤー」である。
・Milk inside〜のように「君」=「春樹のイマジナリーフレンド(頭の中の声)」である。
この2つのどっちとも捉えられます。
くどいようですが、フォリファタール内で描写される情報からは「メタフィクションである」とも「春樹に精神疾患がある」とも確証を得ることはできません。よって、現段階での結論は「擬似的なメタフィクションだが、本当のメタフィクションである可能性もある」というどっちつかずな表現になります。
「呪い」のプロセスに対する疑問
春樹に関しての話は以上なんですが、そもそもフォリファタールにおける「呪い」がゲームプログラムと密接に関係している可能性を検討したほうが良くね?と感じております。
夏紀が呪器の髪飾りを入手したのが中3。時を同じくして例の事故が起こり、春樹の言う「櫻葉夏紀の中に誰かがいる」という感覚が発生しています。これが春樹の精神疾患でなくメタフィクションとして肯定される場合、夏紀に掛かった呪いにプレイヤーの存在が含まれると考えるのが自然なように思えるためです。「呪い」の実情によっては春樹の解釈がまた変わってきてしまうので、改めて考えたいなぁと思う次第です。今回はここまで。
(※1)厳密には告白しておらず、告白であることを仄めかすような言い回しに終始している。
(※2)隠しキャラの為伏せ。
(※3)DDLCの「Just Monika(モニカだけ)」。