「自治会バス」って知ってますか?
≪おごおりトーク1≫
いきなりですが「自治会バス」ってご存じでしょうか?(笑)
一言でいうと、地域住民の買い物支援や高齢者の移動手段確保のための住民主導型のバス運行事業です。バスといっても10人乗りの普通車を運行しています。
実は、私は地域のボランティアとしてこの運行に携わっていますので、今回は、福岡県小郡市のぞみ小校区協働のまちづくり協議会(以下、校区まち協)において行政と協働で取り組まれている「自治会バス」の事例を紹介します。
そして、なぜこの活動が10年以上にわたって住民の力で支え続けられているのかということを考えてみたいと思います。
きっかけは平成21年9月にのぞみ小校区を走っていた民間路線バスが経営赤字を理由に廃止になったことでした。
当時、通勤・通学・通院などで利用されていた住民から、自治会に対して「このままでは困るので何とかして欲しい」という声が数多くあげられました。自治会では署名運動に取り組み、行政に対してコミュニティバスの路線延長による対応を要望しましたが、行政としては地域間の公平性の観点から一部の地区だけに対処することは難しいという回答でした。そのことから、自治会として自分たちの力で住民の移動手段を確保することができないか検討を行うこととなったわけです。
この路線バス廃止の問題は、最初は自治会内でも一部の利用者だけの問題として捉えられていましたが、高齢化が進行すると誰でもがいつ交通弱者になってもおかしくないことから、地域全体の課題として考えようという認識が次第に広がったといえます。
地域での2年間にわたる検討の結果、行政からの支援も得られるようになり、平成23年4月に自治会バスの運行がスタートしました。
この自治会バス事業は、高齢で車が運転できなくなっても日常生活に必要な病院への通院や買い物などが不自由なくできるように、住民の移動手段を確保するために実現した地域の取り組みです。
事業開始から今年で11年目に突入しており、現在(R3.4月)までの運行日数は2,532日、延べ人数70,312人(1日平均27.8人)の地域住民が利用しています。
事業主体は校区まち協の自治会バス部会と行政との協働事業、その運行は自治会や地域のボランティア(現在19名)の力によって支えられています。
では、なぜこの活動が10年以上にわたって住民の力で支え続けられているのか?
ボランティア活動の秘訣は個々人が決して無理をしないことです。
地域のボランティア運転手は自分の日常生活の範囲内で無理なくできるペースで活動を行っています。それが10年以上も継続している理由の一つだと思います。
たとえ個々人が無理をして頑張ったとしても、誰かが負担に感じて継続できなくなったとたん事業が成り立たなくなるという事例は数多くあります。
地域のボランティア活動への参加はついつい無理して頑張ってしまいがちですが、継続をするためには個々人が「頑張らない」というゆる~い関係こそが大事だと思います。
また、まちづくりにおける住民の自己決定と自己実現の観点も重要です。住民主導型のまちづくりを実現するためには、地域のまちづくりの場面において住民の自己決定権が確保されなければなりません。
地域の住民が知恵を出して考え、自分たちが納得して自らが判断し、物事を決定する裁量が委ねられていなければ、事業の実施に向けた住民のモチベーションは維持できないでしょう。
自治会バス事業では、企画・立案から実施・運営に至るまでの大半が住民の手に委ねられています。行政は適度な距離感をもって最低限の支援のみを行うという関係性が確立されています。
この自治会バスの取り組みは、地域公共交通の観点から考えてみると、地域のボランティア運転手の協力によって交通弱者の移動手段を確保したという事例(美談?)として紹介されています。もちろんそれに異論はありませんが、一方では、「民間交通事業者の社会的責任の放棄を地域住民のボランティア活動に転嫁しているにすぎず、地域公共交通の観点からは何の問題解決にもつながっていない」という厳しい論評があることも事実です。
しかし、私が皆さんに本当にお伝えしたかったのは、この自治会バスの取り組みが行政の直営や委託事業ではなく、行政と住民の協働事業として組み立てられることによって、単に移動手段の確保という地域公共交通の観点だけにとどまらない、当初は想定もしていなかった地域福祉や地域防災力や安心安全など様々な付加価値や波及効果を地域に及ぼしているということです。
例えば、前述のように、運営面においては地域住民が自分たちで考えて自分たちの手で運営していくことが住民の自主性や主体性を引き出しています。それがボランティア活動へのやりがいやモチベーションにつながっており、自分たちの活動に対してやらされ感や負担感はありません。
また、そこに自らの自由意思による自律的な関わりがあるからこそ、利用者との交流や対話のひろがり、住民相互のつながりなど居心地の良い環境を作っていこうとする前向きな姿勢があり、そのことが高齢者のサロン的な居場所づくりや地域での見守り、災害時の安否確認にもつながるなど、様々な付加価値を生み出す事業として展開されるに至っているのです。
自治会バスの利用者とボランティア運転手との間には、利用者はボランティア運転手に感謝の気持ちを伝えるとともに、ボランティア運転手は利用者の何気ない挨拶や感謝の言葉から自らのやりがいとエネルギーを得ているという双方向の良好な関係性があります。
重要なのは、この取り組みに関わる一人ひとりに地域でいきいきと働ける自分の役割と出番が確保されていて、誰かに必要とされる心地よさと人の役に立っているという充実感を感じながら、自分のやりがいと楽しみを見出している点にあると思います。
私は、これからの超高齢化社会の中で、地域の高齢者が住み慣れた場所でいきいきと住み続けられる地域社会づくりのためには、地域の住民相互の関係性はとても大切な要素だと考えています。
行政では、この自治会バス事業における地域福祉の面からの付加価値を重要視していることから市民福祉部福祉課の所管事業とされています。
最後に、10年間にわたり地域のボランティア運転手として活躍されている方の感想をご紹介したいと思います。
『自治会バスの運転の時間は、私にとって地域の方々と触れ合う大切な時間だ。ある方が「このバスのおかげで寝たきりにならなくてすんだ」と言われた。また、ある方は、杖をつきながら友人に会いに行かれる。利用者の皆さんは助け合われる。行きたい時に行きたい所へ、自分の力で行けることの大切さをあらためて知った。
運転免許の卒業は誰でも経験することである。その時の寂しさの深さを感じた。母も乗れなくなったマイカーを3カ月も眺めていたなぁ。もっとその気持ちに寄り添えばよかった。
自分の通院やご家族の介護に効率よくバスを利用される。本当に頑張っておられる。病気の話も伺う。みんな前向きだ、すごい!これから先の自分は先輩方のように考え、生活していけるだろうか?後ろ姿を拝見している自分がいる。
利用者の皆さんから「助かります」「ありがとう」と言われることが本当に励みになる。やって良かったと思える瞬間である。でも、実はこちらの方が先輩方から多くの勇気と元気をいただいている。BGMでリラックスしながら、体力の続く限り運転したいと思う。
気軽に話し合える運転手の仲間と、地域で手を振って挨拶できることがとても嬉しい。』