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移動販売事業のスキーム

≪おごおりトーク2≫

「いずれ小郡市でも高齢者が買い物に行けない地域が出てくる。買い物は高齢者にとって生きがいでもあるから何とかしないとね。自分が退職したら『移動販売』みたいな事業でも始めようかな。」
 これは当時の保健福祉部長が話していたことで、小郡市における移動販売の検討のきっかけになった言葉でもあります。
 今回は、味坂校区まち協の移動販売を中心とする買い物支援事業のスキームについて紹介します。

 高齢化や人口減少などにより、住民が日常的に利用していた地元店舗やスーパーが閉店、撤退する状況があり、特に生活に欠かせない買い物支援の必要性が高まっています。これまで徒歩で買い物に行けたところが公共交通手段や自家用車による移動が必要となり、地域ではいわゆる買物弱者問題が顕在化してきています。
 この買物弱者に対する対策としては、「家まで商品を届ける」「店舗まで移動手段を確保する」「近くに店舗を作る」などいくつかの手法がありますが、具体的には「①宅配、②買い物先への送迎、③店舗開設、④移動販売」などの取り組みが考えられます。
 このような中、小郡市では2016年度に味坂校区における高齢者の買い物支援事業の検討をスタートさせました。すでに市民との協働事業として実施している「自治会バス」のノウハウを活用しながら、地域と一緒に移動販売を中心とした買い物支援事業のスキームを検討していくことにしたのです。
 私はこの買い物支援事業の全てに関わった訳ではありませんが、当時、このスキームを検討するにあたって私自身が重要視した二つの点について考えてみます。

 一つ目は、なぜ、高齢者の買い物支援が必要なのかという点です。
 生活に必要な必需品はネット販売や宅配でも対応ができる話なのですが、なぜ移動販売が必要なのか。実は高齢者にとっての「買い物」は、ただ生活に必要な商品を購入するという意味だけではなく、生活上の「生きがい」でもあるからです。
 店頭で目の前に並んでいる色とりどりの商品を見て、迷いながら商品を選ぶ買い物には宅配やネット販売では味わえない格別の楽しみがあります。
 「今日は何を買っていこうか」「これはおいしそうだ」「こっちの商品を買ってみようかな」というたくさんの商品の中から選ぶ楽しみ。孫や子どもの顔を思い浮かべながら「買ってあげよう」「食べさせてあげよう」という誰かを喜ばせる楽しみ。そして「今日はどこで買い物をしようか」「誰かに会えるかもしれない」というその場に出向く楽しみ。その選択肢が豊富であればあるほど地域の高齢者の生活の質(QOL)は高まります。
 当時、地域の高齢者を対象に移動販売のニーズ調査を行いましたが、結果はそれほど多くありませんでした。現時点での移動販売の必要性を尋ねられても、他に買い物の選択肢のある人にとっては「特にないと困るものではない」らしいのです。その結果から「この地域に本当に移動販売が必要なのだろうか?」という論議が再燃しました。
 しかし、他に買い物の選択肢のある人でも移動販売車が身近に来ればきっと利用するはずです。それは買い物の選択肢が増えることによって自分の生活の質(QOL)が向上するからです。実際はニーズは掘り起こされるのです。
 移動販売には高齢者以外の人も集まることによって様々な人達との交流や対話の場所となります。つまり、移動販売は、移動困難な高齢者のためだけではなく、それ以外の地域住民も含めて買い物機会の選択肢を豊富化することにつながると思います。
 そこで、買い物支援事業の全体スキームにおいて、「①宅配」「③店舗開設」「④移動販売」の三つの事業を備えた仕組みとすることにしました。
 それぞれの高齢者の状況に応じて、移動困難な高齢者には自宅への「①宅配」で、コミュニティセンターまで来れる人は「③店舗開設」も利用でき、身近な自治公民館まで来れる人は「④移動販売」も利用できるという単一ではない複合的な支援体制を目指したのです。
 折しも、コミュニティセンターを活用した地元農産物の直売所が検討されていたことから、この直売所を買い物支援の「③店舗開設」として位置付けることができました。

 もう一つは、市民・事業者・行政の協働事業として組み立てることです。
 単なる商品の販売であれば、民間の販売業者に委託すればそれでこと足りる話です。しかし、これを市民との協働事業として組み立て、地域住民が自分たちで考えて自分たちの手で運営していくことができれば、住民の自主性や主体性を引き出し、ボランティア活動へのやりがいやまちづくりのモチベーションを高めることにつながると思います。
 さらに、そこから地域の高齢者との交流や対話がひろがり、単なる買い物機会の提供だけではなく、サロン的な居場所づくりや地域での見守り、災害時の安否確認や避難支援につながるなど、様々な付加価値を生み出す波及効果も期待できると思います。

 また、今回は収益事業における民間事業者との連携も検討することとなりました。
 「①宅配」と「④移動販売」は商品を販売するという収益事業です。商品販売では仕入れから商品管理、販売、金銭管理、売上管理、在庫管理など数多の作業が必要となり、それを果たしてボランティアで担いきれるのかという問題がありました。当然、収益事業となれば在庫で抱えた商品をどうするのか、売り上げで損失が出た場合はどうするのか、商品価格をどう設定するのかなど、様々な問題も生じてきます。
そこで、餅は餅屋。収益事業はプロに任せることとし地元「西鉄ストア(レガネット小郡)」に協力を求めることにしたのです。そのことにより地域では商品の仕入れは行わず在庫を抱えることもなくなりました。販売利益はすべて西鉄ストアに域内循環されています。
 そもそも地域の買い物支援事業は高齢者の生活支援を目的としたものです。コミュニティビジネスという考え方もありますが、私は、地縁組織や地域ボランティアの活動で事業収益を上げる必要性はないと考えています。

 私が味坂校区の買い物支援事業に関わったのはここまでですが、それ以降は福祉課の仲間が地域の人達と一緒にこのスキームの事業化に取り組んでくれました。
 その結果、2018年9月に農産物直売所「あじっこ市場」がオープンし、2020年11月25日にはオープニングセレモニーが開催され、移動販売「あじさか号」の本格運行がスタートする運びとなったのです。
 私も、その時の地域の人達の喜んでいる顔を見て感慨ひとしおでしたし、福祉課の皆さんには大変感謝しています。

≪小郡市の買い物支援事業≫(小郡市HPから)
『小郡市でも大きな課題となることが予測される買物弱者問題に対し、味坂小校区まち協では買い物支援運営委員会を立ち上げ、地域の取り組みを推進しています。
 買い物支援運営委員会では、農産物直売所「あじっこ市場」や移動販売車「あじさか号」の運行を行っており、運営はすべて味坂校区のボランティアスタッフが行っています。
 官民連携によるまちづくり事業として、西鉄ストア(レガネット小郡)は商品の提供と運営にあたってのアドバイスを行い、市はコミュニティセンターと移動販売車を提供するなどの支援を行っています。』

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