それって誰の代弁ですか?
≪おごおりト--ク37≫
これまでも協働のまちづくり協議会(以下「まち協」)や自治会に関してはいろいろと述べてきましたが、今回は最近何かと話題に上るテーマについて考えてみたいと思います。
一つは「校区区長会の要望事項」について、もう一つは「まち協への財政支援」についてです。お気軽にお楽しみください。
※「区長=自治会長」として表記しています。
1.それって誰の代弁ですか?
「皆さん、校区区長会から市に対する要望はありますか?」
「私は自宅前の側溝の清掃をしてもらいたいな」
「私は老朽化したコミセンの建て替えをお願いしたいです」
毎年、校区の区長会から要望書が提出され、その要望事項に関して行政との意見交換が行われています。校区ではハード事業を中心に様々な要望が準備されますが、それを見ていて私がいつも疑問に思うのは「それって本当に校区住民の要望なの?」ということです。
行政としては、たとえ耳の痛い要望であっても地域住民の切実な思いや実情を把握し、どのような解決手法や有効な対応策が可能なのかということを市民との対話の中から見出していくために、行政と区長会との意見交換の場を設けているのですが、その中には「これって一体誰の要望なの?」と首をかしげたくなる内容も散見されます。
区長は地域住民から直接負託を受け、総会で選出された自治会の代表者です。自治会は地域住民を構成員とする組織であり、あらゆる住民生活に関わる課題をその活動領域としていますので、区長は地域住民の声を代弁するとともにその要望に基づいて地域課題の解決を図ることが求められます。その意味では、区長からの要望は、たとえそれが一部の個別的な内容であったとしても総じて地域住民の声を代弁したものだといえます。
では校区区長会はどうでしょうか。市内7つの校区区長会は区長の連絡調整のための会議体です。校区区長会では校区代表区長が選任されていますが、自治会の区長との違いは、校区代表区長はあくまで区長の互選で選出された代表者にすぎず、校区の住民から直接的に負託を受けて選任されたものではないということです。(校区には校区住民を構成員とする組織や団体は存在しません。)
このように単なる会議体である校区区長会から市に対して出される要望は、一体誰の声を代弁したものなのでしょうか?
「校区区長会には校区全体に関わる要望事項に優先順位を付けて要望してもらえばいい」といった意見もありますが、そもそも校区区長会は校区全体の住民を代表して要望することを負託されていませんし、要望事項に優先順位を付ける権能も有していません。校区区長会ではそれぞれの区長(自治会)から出された要望事項を集約することしかできないのが現状です。
行政としては、区長(自治会)からの要望事項については常日頃から各担当課が門戸を開き、それぞれ個別対応を行っている中で、あらためて校区区長会を通じて自治会の要望を受けることに何の意味があるのか。仮に住民の代弁者である区長と行政が校区区長会の場で意見交換の機会を設けるとすれば、それは何を目的として行うものなのか、ということを考えると、現在の校区区長会の要望のあり方については検討すべき課題がありそうです。
だからといって直ちに校区区長会の要望をシャットアウトする必要はないとは思いますが、今後の校区区長会の要望のあり方を見直すには、これらのことを踏まえた検討が必要になると思います。
因みに「それなら校区区長会ではなく、まち協が要望するべきではないか」といった意見もありますが、これは全くの見当違いです。まち協はあくまで行政と協働してまちづくり活動に取り組む地域の共同体であって、校区住民から直接的に負託を受けた組織でもなければ、行政に対する要望を取りまとめる組織でもないことを申し添えておきます。
2.補助金と交付金の何がダメなの?
「このままでは市に補助金を返還しなければなりません」
「返還するくらいなら使わないともったいない」
「交付金なら返還しなくてもいいんじゃない」
地域のまち協に対する財政支援として、平成24年度から協働のまちづくり推進事業支援金(以下「支援金」)が交付されています。この支援金の内訳は事業補助金と運営交付金となっており、この事業補助金と運営交付金の割合は概ね7:3となっています。
最近、この支援金をめぐって「補助金は返還しなければならないので全額交付金にして欲しい(交付金化)」「交付金は投げ渡しなので補助金にするべき(補助金化)」などの意見を聞きます。この問題、皆さんはどのように考えますか?
まち協への事業補助金と運営交付金は「協働のまちづくり推進事業支援金交付規則」に規定されています。事業補助金はまち協の事業実施に要する経費を補助することによって地域の具体的なまちづくり活動の促進を目的としたものであり、運営交付金はまち協の組織運営に要する経費を交付することによって、まちづくり活動における住民の自主性・主体性を高めることを目的としたものです。
では、なぜまち協への支援金には事業補助金だけでなく運営交付金が設けられているのでしょうか。
まち協は行政と協働して住民が自主的・主体的にまちづくり活動に取り組むことを目指した組織です。住民主体のまちづくりを実現するためにはまちづくり活動における地域住民の自由な活動領域と自己決定権が確保されなければなりません。地域の住民が知恵を出して考え、自分たちが納得して自らが判断し決定する裁量が委ねられていなければ住民のまちづくり活動に対するモチベーションは維持できません。その観点から財源における地域の自己決定と自由裁量の領域を確保するため、従来の対象事業や使途が限定される事業補助金に加え、比較的自由度の高い運営交付金が設けられたのです。つまり、運営交付金は、まちづくり活動における地域住民の自律的な組織運営を促すことを目的とした支援金だということになります。
このように事業補助金には事業補助金の目的があり、運営交付金には運営交付金の目的があり、この支援金は二つの交付目的の達成を目指したものだといえます。
まち協への支援金のあり方については前述の「交付金化」や「補助金化」など様々な意見がある中で、まずはそれぞれの交付目的に沿って「事業補助金によってどれだけ地域のまちづくり事業が推進されたのか」「運営交付金によってどれだけ組織の自律運営が進んだのか」という観点からの評価・検証なくして論議はできないと思うのです。
これまでのまち協におけるまちづくり活動の実績と成果を評価し、その成果に対して支援金が果たした役割を検証しながら、あらためて地域の実情に応じたまち協への財政支援のあり方を検討することが必要であり、単に使い勝手が良いとか無駄遣いや使い切りを防止する必要があるといった補助金と交付金の配分(バランス)だけで論ずるべき問題ではないと考えています。
また最近、まち協への財政支援について「市の事業をまち協に委託して委託料を自主財源とする」といった意見もありますが、これは大きな誤りだと言わざるを得ません。そもそもまち協は行政の末端組織でも行政事務の下請け組織でもありません。まち協は行政と協働して住民が自主的・主体的にまちづくり活動に取り組むことを目指した組織であり、まち協に市の事業を委託して行政の管理下に置くことは、まち協に参画する住民の主体性を喪失させ地域の行政依存の体質を助長することとなり、まち協の本来機能を殺してしまうことにつながります。
まち協の財政支援や自主財源のあり方についてはまだまだ課題も多いとは思いますが、少なくとも「これが正解だ」という答えがないため、これからもトライ&エラーを繰り返しながら地域の実情に応じた最適解を当事者自らが導き出していくしかないと思っています。
私も地域のまち協の当事者の一人として考えていきたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?