人も沈めば、また昇る
コーチングをしていると、人の強さに感動することがある。
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普通の人は、自分が感じたマイナス感情に付き合うことが出来ない。
でもマイナス感情を感じると、それを解消するか、見ないようにしたくなるもの。
何とかして、その感情から離れようとあの手この手で対処を試みる。
それでもどうにもならない時に、何人かの方はコーチングの扉をノックしてくれる。
かつての私もその一人。
当時の私は、会社の理不尽な目標設定や評価に憤りを感じていて、会社というか、それを代表する上司に対して、恨みに近い感情をいただいていた。
当時、すでにコーチングを学んでいた身として、人の可能性や良い面に目を向けるべきと心得、相対する全ての人にその心得に従って対応していた。
でも、その上司に対しては、どうしても良い面を見つけることが出来なくなっていた。
そんな時に、当時お願いしていたコーチに、そのことをテーマとして扱ってもらった。
私の胸の内にある、マグマが冷えて固まったような赤黒く、膨大なエネルギーを秘めたその塊を、見つめづづけた。どこまでも、どこまでも、いろんな角度から見つめ続けた。見たくない思いが湧き、胸が苦しくなる。それでも、見つめ続ける。
決して一人では出来ない荒業も、コーチが側にいるから何とかなった。
気づくとコーチが私より先に泣いていた。
私がずっと押さえ込んでいた辛さや悔しさ、憤り、暴力的なまでの怒り。そうしたものに耐えてきた私に対しての涙だったのだろうか。コーチ本人も、「よく分からないけど、涙が出てきた」という。
「そうか。そんなにも自分は耐えていたのか。思いの外、頑張っていたんだな」
そんな気づきが自分に訪れる。
胸の中のエネルギーは、核エネルギーのように強く、それに触れると身体が一瞬で燃え尽き、灰も残らないようなイメージだった。そんなエネルギーをずっと抑え込んでいた。
そして、その大きなエネルギーを見つめ続ける。どこまでも、どこまでも。
「あれ?なんか凄くない?俺」
ふっ、と第二の気づきが訪れた。
自分の中には、こんなにも強いエネルギーがあったんだという気づき。
なんか、少し誇らしく思えた。
いつの間にか、マイナスな感情が消えていた。
上司のことは、ポジティブに捉えることは出来ないけれど、そこからマイナスの感情が湧いてくることはなかった。
逆にこの核エネルギーのように膨大なエネルギーをどのようにプラス方向に使うべきなのか。使いたいのか。そんなことを考えた。
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これは、私のクライアントとしての経験であるが、私がコーチとしてクライアントに関わる時にも、同じようなことがよく起きる。
クライアントが見つめることが出来ない、感じ続けることが出来ないマイナス感情に、コーチとして一緒にその場で感じていく。
どこまでも、どこまでも。
深く、深く。広く、広く。
クライアントの顔が歪むこともある。
それでも、どこまでも。
すると、ある瞬間からクライアントの表情が緩み始める。
最初の兆候はわずかな空気の揺れのようなものだが、その揺れを捉えて一緒に見ていくと、徐々に、徐々に、プラスに転じていく。
夜の闇に沈んだ太陽が、自然の摂理としてまた昇って来るように、沈んだ人も必然のように昇って来る。
黒い夜空が青色に変わり、ゆっくりと青が薄くなり、赤みを帯びてくる。青とピンクが入り混じり、どんどん周りが明るくなってくる。そんな感じ。
どんな人にもこうした変化は訪れる。
ただ、みんな知らないだけ。
恐らくこれは人に与えられたギフトだけども、買ったことを忘れた1等の宝くじのように、引き出しの奥に仕舞われたままになっている。
このギフトは、みな必ず持っている。
このギフトの蓋を一緒に開けた時、私はとても感動する。
人の強さの一端を見ることができ、ゾクゾクする。
太陽のように昇ってきた人は、朝日のようなまっすぐな光をたたえて、清々しく前を向いていく。
私は、ただその背中を見送るだけ。
「いってらっしゃい」という言葉と共に。