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人も沈めば、また昇る

コーチングをしていると、人の強さに感動することがある。

 *

普通の人は、自分が感じたマイナス感情に付き合うことが出来ない。
でもマイナス感情を感じると、それを解消するか、見ないようにしたくなるもの。
何とかして、その感情から離れようとあの手この手で対処を試みる。

それでもどうにもならない時に、何人かの方はコーチングの扉をノックしてくれる。

かつての私もその一人。
当時の私は、会社の理不尽な目標設定や評価に憤りを感じていて、会社というか、それを代表する上司に対して、恨みに近い感情をいただいていた。

当時、すでにコーチングを学んでいた身として、人の可能性や良い面に目を向けるべきと心得、相対する全ての人にその心得に従って対応していた。
でも、その上司に対しては、どうしても良い面を見つけることが出来なくなっていた。

そんな時に、当時お願いしていたコーチに、そのことをテーマとして扱ってもらった。

私の胸の内にある、マグマが冷えて固まったような赤黒く、膨大なエネルギーを秘めたその塊を、見つめづづけた。どこまでも、どこまでも、いろんな角度から見つめ続けた。見たくない思いが湧き、胸が苦しくなる。それでも、見つめ続ける。

決して一人では出来ない荒業も、コーチが側にいるから何とかなった。

気づくとコーチが私より先に泣いていた。
私がずっと押さえ込んでいた辛さや悔しさ、憤り、暴力的なまでの怒り。そうしたものに耐えてきた私に対しての涙だったのだろうか。コーチ本人も、「よく分からないけど、涙が出てきた」という。

「そうか。そんなにも自分は耐えていたのか。思いの外、頑張っていたんだな」

そんな気づきが自分に訪れる。
胸の中のエネルギーは、核エネルギーのように強く、それに触れると身体が一瞬で燃え尽き、灰も残らないようなイメージだった。そんなエネルギーをずっと抑え込んでいた。

そして、その大きなエネルギーを見つめ続ける。どこまでも、どこまでも。

「あれ?なんか凄くない?俺」

ふっ、と第二の気づきが訪れた。
自分の中には、こんなにも強いエネルギーがあったんだという気づき。
なんか、少し誇らしく思えた。

いつの間にか、マイナスな感情が消えていた。
上司のことは、ポジティブに捉えることは出来ないけれど、そこからマイナスの感情が湧いてくることはなかった。

逆にこの核エネルギーのように膨大なエネルギーをどのようにプラス方向に使うべきなのか。使いたいのか。そんなことを考えた。

 *

これは、私のクライアントとしての経験であるが、私がコーチとしてクライアントに関わる時にも、同じようなことがよく起きる。

クライアントが見つめることが出来ない、感じ続けることが出来ないマイナス感情に、コーチとして一緒にその場で感じていく。

どこまでも、どこまでも。
深く、深く。広く、広く。

クライアントの顔が歪むこともある。
それでも、どこまでも。

すると、ある瞬間からクライアントの表情が緩み始める。
最初の兆候はわずかな空気の揺れのようなものだが、その揺れを捉えて一緒に見ていくと、徐々に、徐々に、プラスに転じていく。

夜の闇に沈んだ太陽が、自然の摂理としてまた昇って来るように、沈んだ人も必然のように昇って来る。

黒い夜空が青色に変わり、ゆっくりと青が薄くなり、赤みを帯びてくる。青とピンクが入り混じり、どんどん周りが明るくなってくる。そんな感じ。

どんな人にもこうした変化は訪れる。
ただ、みんな知らないだけ。

恐らくこれは人に与えられたギフトだけども、買ったことを忘れた1等の宝くじのように、引き出しの奥に仕舞われたままになっている。

このギフトは、みな必ず持っている。
このギフトの蓋を一緒に開けた時、私はとても感動する。
人の強さの一端を見ることができ、ゾクゾクする。

太陽のように昇ってきた人は、朝日のようなまっすぐな光をたたえて、清々しく前を向いていく。

私は、ただその背中を見送るだけ。
「いってらっしゃい」という言葉と共に。

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