イツカ キミハ イッタ ep.51
台風一過、そののちの快晴ほど、眩しい空は無い。三連休を箱根の山奥の宿で籠り、厳粛なエリザベス女王の国葬と記録的な台風となることを心配する映像を見ながら、時折屋根を叩きつける雨音に耳を傾けていた。
寿命も台風も、個人として如何ともし難い自然の摂理であり、哀しみも心配も恐れも、これらの前ではただ祈るしかないできないのが人間である。
翻って私は、三連休明けの9月20日より長崎県の離島に出向く計画だった。飛行機が飛んだとしても、台風の余波を受けた海上を船で渡るには、まだリスクがあるように思え、渡航の可否によるパターンを幾つか練り上げていた。
離島に渡る場合、その島に空港があれば空路という選択肢があるが、そこまで大きな島ではない場合、航路で向かうことが一般的だ。
また、台風がよく発生するような時期は、地元の方いわく船のほうが渡れる可能性が高いと言う。
今回は航路のみの交通手段しかない島に行くため、商船会社のフェリーで向かう予定となっていたが、船が出ない場合、島で宿泊しようと思っていたことから、パターンBとして当日の宿探しから行わなくてはならなかった。
台風が新潟から東北に抜けた後は長崎自体はピーカンの晴れマークだったが、つい今し方まで風速30m以上という強風により、波高が高かったことから、出発当日の午前中まで就航するかは「未定」であった。
長崎空港に着いて電話を受けると就航不可の知らせだった。半ば予想はしていたものの、当座の宿探しから始め、なんとか修学旅行のキャンセルで空きが出た佐世保のホテルを予約できた。予定変更となった長崎初日は、佐世保から近い日本本土最西端の地である神崎鼻公園へ行ってみることにした。
東シナ海は白波が立っており、大きなタンカーが渡る以外は遊覧船も漁船も姿が見えなかった。展望台から大海原を眺めていると、出発前に抱いていた心配や恐れがスッと消え去った。
「なるようにしか、ならない」
台風が空を洗い流していったからなのか、空の青はますます冴えわたり、海の群青はなおも深みを増しているように見えた。
ホテルに戻る途中、パールシーリゾート沿いにある鮨屋に立ち寄り夕食を取った。カウンターで大将と県内、市内のあらゆる話をしていたところ、佐世保出身の作家、佐藤正午さんを紹介された。直木賞受賞作が今冬、映画化されるという。その作品『月の満ち欠け』を読んだことがないと伝えたところ「ぜひ読んでくださいよ」と熱く勧められ、翌日、ロードサイドの本屋に立ち寄り、岩波文庫を手に取った。
そして今、9月2回目の三連休で、この作品を読んでいる。
「なるようにしか、ならない。
それでも、諦めたくない…」
本との出会い方はいろいろあるけれど、今回、予定変更せざるを得なくなったことは、最終的にこの本と引き合わせるためだったのではないだろうか。
そんなことをふと考えてしまうほど、忘れられない物語となりそうな気がしている。
12月、映画を観たら、また大将に会いに行こう。偶然が引き合わせる奇跡みたいな出会いを、これからも大切にしていきたい。