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夕日が沈むときに
もうすぐしたら太陽は眩しく赤い光を街中に広げながら、つぶれてなくなるに違いない。
いつものように僕たちは街が一望できる公園にいる。夕暮れ時、何することも話すこともなくぼんやりしている。野鳥がどこかで鳴くのが聞こえた。
しばらくして、
ー じゃあ、行ってくるわ。。
と友達が言った。
ー お前も来るやろ?
友達はブランコから降り、バイクの方へ向かう。
夜の暗闇はもうすぐそこまで来ているから、きっともうすぐ何もかも真っ黒になるだろう。友達の黒い影が長くなる。
友達は吸いかけのタバコを指で弾き飛ばしたあと、しゃあないな。と言って立ち上がる。タバコの白い煙がまだ消えずに残っている。
じつは今夜も宴なのだ。僕は正直、家に帰りたかったがみんなには言いにくい。何回も宴をやっているとマンネリ化してきて特に最近はつまらないので、家でギターを弾いたりテレビを見たりした方がマシだと思っていた。
バイクのエンジンをかけると、改造したマフラー音が秋のカラカラな空気に大きく響いた。
ー じゃあ、行ってくるわ。
友達は公園から離れていき、街へ続く長い坂を下っていく。
もう辺りは薄暗くなってきた。黒い大きな影をつけた二人の姿はどんどん小さくなり、やがて見えなくなったが、バイクの音は遠くの方で聞こえていた。
ー なぁ、高校卒業したら何するん?
僕と一緒に友達を待っている藤木が暗闇のせいか、歯だけを白く浮かせてぼんやり呟くように言った。
街はいっせいに明かりをつけている。
もう頭上では月が煌々と輝いていた。僕はあの街で十八年も住んでいるんだなとなんなくふと思った。
ー 俺なぁ、歯科の学校に行こうと思ってるんや。親戚が歯医者やっててな、子供いないから、俺に継がないかっていうねん。
藤木の顔は白くてのっぺり無表情だから、その進路を良く思っているのか、嫌がっているのかわからない。ましてやこの暗闇だから、余計にわからない。
ー ま、やりたいこともないからなぁ。継げるんならラッキーやわぁ。
藤木はセブンスターを思いっきり吸い込んでふぅっと吐き出す。
そしてそのあと、滝みたいに長い唾を垂れ流す。
こいつが歯医者になるなんて想像できないが、試験前の一週間は寝ないで勉強して高得点を取ってきた努力家で、それに点数だけ見ると優等生の部類だ。出席数は僕と同じく少ないが。
ー それに歯医者って金持ちになれるんやろ?だったら俺、やろ思って。
ー あいつらにはまだ内緒な。
ー お前、どうすんねん?
そういえば僕は考えたことがなかった。高校なんて早く終わればいいと思っていたが、終わってから僕は一体を何するんだろう?
ー あいつらさ、いっつもたどうやってあんなによおけ酒とか食いもんとか盗むんかな。不思議やなぁ。
ー まぁ、
ー いいか。
ー いっつも帰って来るもんなぁ。つかまらんで。
ずっと、僕と藤木は無言でブランコに揺られながら街を見ている。
藤木は相変わらず表情を変えない。楽しそうでもつまらなそうでもない白くてのっぺらとした顔。
空から多くの星が出てきた。何本かタバコを吸い、今までは何か話すことがあったかもしれないが、この頃は話すことが減っているし、今日は特に何もない。
息が少し白くなってきた。もう秋が来ている。鈴虫の鳴く音が聞こえた。
あれだけ暑かった夏は知らない間に消滅した。
ー あいつら、今日はなんか遅いな。捕まったんかな。
ー もう、どれくらい経ったんかな。
ー ちょっと遅ないか?
ぼつり、ぼつり、藤木が呟いた。
なんだが藤木に関係なく、いろいろ昔のことを思い出していた。
あっという間の18年だった。
夕日が沈んだあと、
夜は藤木と僕の目の前にも頭上にも、この公園にも広がり、静かになっている。