勇次
「勇次」は長渕剛により1985年に作られた。
この曲を聴くと
10代の頃によく見た風景や感情がよみがえる。
広い原っぱやガソリンスタンド、
タバコの自動販売機、
ビールやジュースが置いてある小さな酒屋、駐車場、
学校のグランド、
下校の道、公園、駐車場、
学校の生徒たちが夕暮れ時を歩く、黒影と眩しい赤い光。
私は取り残されたまま、家に帰りたくなく、だけどやることもなく、
会う人もおらず、
ぼんやりするばかりだが、
勇次は汗をかき全速力で
走り抜けるだけ。
私はちょっぴりノスタルジックな気分になるが、
この世界観は私の記憶の中にあるものではないし、
当然、実際に体験したものでもない。
この曲の魔力的な力かもしれない、
あたかも自分に合った世界のように、
懐かしい気分にさせる力。
たまらなく、自分の知っている
あたかも同じ世界であったかのように。
夕暮れ、どうか溶かしてくれ。
いま、勇次がキラキラと汗をかきながら、
全力で100メートルを
何度も
何度も
目標タイムが出るまで
諦めず
走り続けている。
校庭では「今日の日はさようなら」が
校舎の所々に設置されたスピーカーから流れはじめ
最後の生徒の集団が校門が閉まる前に出ようと急いでいる。
だけど
僕はずっとひとりで立ち尽くして
勇次が走るのを見ていた。