【100均ガジェット分解】(55)ダイソーの「調光器対応LED電球」
※本記事は月刊I/O 2023年10月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。
今回は調光機能付きの機器でも使用できる「調光器付LED電球」を分解して、通常のLED電球と何が違うのかを調べてみました。
パッケージと本体の外観
「調光器対応LED電球」はダイソーブランドで40W相当と60W相当の2種類が販売されています。40W相当品が300円(税抜)、60W相当が500円(税抜)と、調光器非対応のものと比べて若干高めの価格設定になっています。
今回は40W相当品を分解対象に選びました。
パッケージ
パッケージ内にあるのは本体のみ。パッケージ裏面には製品仕様が記載されています。
定格消費電力は5.5W、定格寿命は40000H(常時点灯で4年強)となっています。密閉型器具や非調光器具にも対応しています。
パッケージ側面には注意事項(使用できない器具)の記載が詳細に記載されています。
調光式電球の場合、ON/OFF時間の切替(PWM)で明るさを調整するため、2台以上を同時に使うと干渉してちらつきが目立つのが特徴です。
本体の外観
本体の外観は一般的なLED電球と同じで、パッと見ただけでは区別がつきません。
電気用品安全法(PSE)のマークは本体の口金付近に表示されています。電球は特定電気用品対象外なので、〇で囲んだマークです。
本体の分解
本体の開封
本体は発光部分を覆うポリカーボネートのカバー、放熱用ヒートシンクを兼ねたアルミ製の外装と口金で構成されています。カバーとヒートシンクは接着剤で固定されていますので隙間を超音波カッターで切断して開封します。
LED基板は外装兼ヒートシンクにシリコンボンドで固定されています。LED基板中央には、コントロール基板との接続コネクタがあります。
基板の取り出し
LED基板とヒートシンクを固定しているシリコンボンドをはがしてLED基板を取り外すと、ヒートシンクの内側には電源基板があります。
電源基板は口金とハンダ付けされていますので、口金を切って基板を取り出します。
主要な構成部品
LED基板
LED基板はアルミ製の片面基板です。実装されているLEDは2835サイズ(2.8 x 3.5mm)のCOB(Chip On Board)タイプのものが7個実装されています。
電源基板接続用のコネクタは基板に穴をあけて、裏面から接続できるようになっています。
電源基板
電源基板はガラスコンポジット(CEM3)の片面基板です。パターン面の主な実装部品はブリッジダイオード、LEDドライバIC、ファストリカバリダイオード(FRD)です。
写真左の黒いチューブの下には突入電流制限用抵抗(実測100Ω)がついています。写真右端にはLED基板接続用のピンがハンダ付けされています。
回路構成と動作
一般的な調光器の動作について
一般的な調光器は、半導体スイッチ(トライアック)で高速で照明を点滅させることで明暗の調光を行います。
通常のLED電球の場合、点灯した瞬間に生じる突入電流が半導体スイッチの最大定格電流を超えてしまい調光器にダメージをおよぼして破損や故障、寿命を縮める原因になります。そのため、調光器対応のLED電球では突入電流を減らす対応が必要となります。
本製品の回路図を回路動作の概要
本製品でもAC入力からブリッジ整流ダイオード(BD1)で全波整流された電源を使い、電源基板のLEDドライバIC(U1)が7個のLEDを駆動しています。
AC入力に直列に入っている抵抗(RIN)は突入電流制限用抵抗で100Ωとかなり大きな値となっています。ブリッジ整流コンデンサ(C2)は0.1uFのフィルムコンデンサで非常に小さい値となっています。これとBD1とC2の間のインダクタ(L1)と併せて、電源ON時の突入電流のピーク値をできるだけ小さくしています。
U1はLED定電流コントローラで、臨界導通モード(CRM)で動作し、インダクタ(L2)に流れるDRAIN電流に応じて内部パワーMOSFETをゼロ電流がオン、ピーク電流がオフになるように制御して力率を改善、AC入力電流の歪を減らして抵抗負荷の波形(正弦波)に近づけるように動作をします。
U1のDRAIN出力側はインダクタ(L2)とフリーホイールダイオード(D2)で構成された昇降圧電源回路で、R11/R12で検出したLED電流のピークが一定になるようにドライブします。
主要部品の仕様
LEDドライバIC MT7896
LEDドライバICは美芯晟科技(北京)股份有限公司(Maxic Technology Inc., https://www.maxictech.com/ )のトライアック調光器対応LED 定電流コントローラ「MT7896」です。
AC入力と分離しない非絶縁型で、バックブースト(昇降圧)電源でLEDを駆動します。臨界導通モード(CRM)動作により、力率(PF)は 0.8以上、過電流保護(OCP)、短絡保護(SCP)、過電圧保護(OVP)、過熱時のLED電流遮断などの各種保護機能を持っています。
データシートは以下から入手できます。
https://datasheetspdf.com/pdf-file/1260540/MaxicTechnology/MT7896/1
ファストリカバリダイオード ES1J
フリーホイールダイオードに使われているのは山东迪一电子科技有限公司(Shandong Diyi Electronic Technology Co., Ltd., http://www.dyelec.com/ )製のファストリカバリダイオード「ES1J」です。
オリジナルはFARCHILD(ON Semiconductor)製で各社から同じ品番で互換品が製造されています。
ちなみに、Diyi Electronicは中国国内向けに特化しているようで、サイトへの日本からのアクセスは遮断されていました。
データシートは以下から入手できます。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/2205061616_DIYI-Elec-Tech-ES1JH_C2995511.pdf
ブリッジ整流ダイオード MB10F
ACブリッジ整流ダイオードは济南晶恒电子(集团)有限责任公司(JINAN JINGHENG ELECTRONICS CO., LTD., http://www.jinghenggroup.com/ )の「MB10F」です。
こちらも各社から同じ品番で互換品が製造されています。
データシートは以下から入手できます。
https://jlcpcb.com/partdetail/JF-MB10F/C478806
まとめ
LED基板は放熱性能のよいアルミ基板を採用し、ヒートシンクを兼ねた外装へ放熱するという一般的な構造でした。
LEDドライバは昇降圧コンバータや入力電圧補償機能も内蔵した、かなり高機能なものです。
必要な機能を全てワンチップに集約したLEDドライバICによって、基板も非常にシンプルになっています。シンプルであるということは製造・検査しやすく、きちんとした設計であれば故障要因も少ないということ意味しています。
外装やLED基板は以前分解した調光器非対応のLED電球とほぼ同じで、電源基板を変更することで調光器対応しています。これも、いわゆる「公板」「公模」で、中国のエコシステムをうまく活用してコストダウンしているという感想です。