【100均ガジェット分解】(37)ダイソーの「充電式ワイヤレスマウス」
※本記事は月刊I/O 2022年4月号に掲載された記事をベースに、色々と追記・修正をしたものです。
ダイソーでバッテリーを内蔵した「充電式ワイヤレスマウス」が500円」(税別)で販売されています。今回はこれを分解します。
パッケージ表示と製品の外観
パッケージの表示
無線は2.4GHz、専用のUSBドングルを使用するタイプです。ボタンはホイールマウスの3ボタンに加えて分解能(DPI)切り替え(分解能は「1000/1200/1600dpi」)があります。
輸入販売元はダイソーの他の商品でも見かける、リサイクルインクカートリッジ等を扱っている「株式会社ラティーノ エコラ事業部」(http://www.eco-la.jp/company/)です。台紙裏面にはきちんと技適マークの表示があります。
同梱物と本体の外観
パッケージの内容は本体、USBドングル、充電用ケーブルです。本体表面は滑り止めのゴムで覆われています。
本体底面のラベルにも輸入販売元と技適マークがきちん表示されています。
製品の分解
マウスの開封
マウス底面のUSBドングル格納部の蓋を外すと、中に2か所のビスがありますので、これを外せば開封できます。
内部はメインボード、ホイール、LED導光用の透明樹脂、円筒型リチウムイオンバッテリーで構成されています。マウスの左右ボタンは静音のために正方形のプッシュスイッチを使用しています。
USBドングルの開封
ドングルを覆う金属を外すと、USB端子のパターンがついた基板がむき出しになります。基板の上部を覆うプラスチックのカバーを外すことで基板を取り出すことができます。
マウスの構成部品
バッテリー
バッテリーは14500タイプ(直径14mm x 長さ50mm)の円筒型リチウムイオンバッテリーです。定格は3.7V/500mAhと小さめです。Alibabaでの価格はUS$1.00程度です。
メインボード
メインボードは紙フェノールの片面基板です。表面に実装されている部品は光学マウスセンサ、LED、マウスボタン用スイッチ(4個)、ロータリーエンコーダ及びバッテリー用電極です。
表面には基板の型番(HYX3500-BK2452)と製造日(20200522)の表示があります。
裏面には面実装で充電用のMicroUSBコネクタ、電源スイッチ、コントローラIC、16MHzの水晶振動子、バッテリーの充電制御IC、定電圧レギュレータ(LDO)が実装されています。
無線アンテナは基板パターンです。
基板の穴からはマウスの移動検出のためのイメージセンサ開口部が見えています。
マウスの回路と主要部品
マウスの回路図
基板パターンからメインボードの回路図を作成しました。
全体としては「通常の無線マウスに充電制御用の回路を追加した構成」となっています。
光学マウスセンサ(U2)と各マウスボタンスイッチ・ロータリーエンコーダはコントローラIC(U1)に接続されています。U1は2.4GHz無線機能も内蔵しています。U1とU2の電源は定電圧レギュレータ(U5)から供給されています。
U6はリチウムイオンバッテリー用の充電制御ICです。
光学マウスセンサ KA8
光学マウスセンサは深圳市富满电子集团股份有限公司(SHEN ZHEN FINE MADE ELECTRONICS GROUP http://www.superchip.cn/)のOptical mouse sensor「KA8」です。データシートは以下より入手できます。
https://pdf1.alldatasheet.net/datasheet-pdf/view/1147614/FUMAN/KA8.html
コントローラとはシリアルインターフェース(SCLK, SDIO)で接続します。
次の写真は「KA8」の裏面のキャップを外してチップを顕微鏡で拡大したものです。
チップサイズは1.35mm x 1.5mm、左下部分のイメージセンサは縦18x横18=324画素です。
コントローラIC BK2452
コントローラICはパッケージのマーキングは標準品から変更されていますが、博通集成电路(上海)股份有限公司(Beken Corporation , http://www.bekencorp.com/ )のコントローラ「BK2452」です。
Intel 8051互換MCU(Bk51)を採用し2.4GHz RFを内蔵しています。
データシートは以下より入手できます。
https://datasheetspdf.com/pdf-file/1265168/Beken/BK2452M/1
「BK2452」はUSB内蔵の「BK2451」と組合せて無線マイコンを構成するチップセットとなっています。
充電制御IC LTH7R
充電制御ICは深圳市富满电子集团股份有限公司(SHEN ZHEN FINE MADE ELECTRONICS GROUP http://www.superchip.cn/)の単セルリチウムイオン電池用の充電管理IC「LTH7R」です。データシートは以下より入手できます。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/2009281204_Shenzhen-Fuman-Elec-LTH7R-_C841234.pdf
充電電圧は4.2V固定、最大充電電流はPROG端子に接続した外部抵抗で設定できます。充電電流が設定値の1/10まで低下すると、自動的に充電を終了します。
定電圧レギュレータ 65XX
U5の「65XX」とマーキングされたICは調べたのですが型番がわかりませんでした。回路図で確認したところ、リチウムイオン電池から光学マウスセンサとコントローラICの電源(2.7V)を生成する定電圧レギュレータ(LDO)でした。
USBドングルの回路と主要部品
USBドングル基板はガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。USB端子はパターン印刷です。
同じ側に16MHzの水晶振動子が面実装されています。裏側には樹脂モールドされたコントローラと周辺部品(コンデンサ)が実装されています。無線アンテナは両面を使った基板パターンです。
基板の型番(VR08 V11)もシルクで表示されています。
USBドングルの回路図
基板パターンからUSBドングルの回路図を作成しました。コントローラはワンチップでUSBと無線機能をサポートしています。
コントローラ BK2451
回路図を作成するために、モールドとコントローラチップを剥がしました。基板パターンからマウスのコントローラICとチップセットになっている「BK2451」のパッケージ品のピン配置とほぼ一致していますので、BK2451のベアチップ実装であると確認できました。
以下は「BK2451」のブロック図です。USBドングル用ですのでUSB2.0のインターフェースがあります。
「BK2451」を覆っているモールドを削ってチップを顕微鏡で拡大してみました。
チップサイズは1.8mm x 1.8mm、中央上の部分には無線回路用のコイルがあるのが確認できます。
USB接続情報の確認
今回も「USBView(https://learn.microsoft.com/ja-jp/windows-hardware/drivers/debugger/usbview)」を使ってUSBドングルの接続情報を確認しました。
USBバージョン(bcdUSB)は「1.1」、接続速度(Device Bus Speed)は「Full」(12Mbps)です。
Vendor IDの「0x0250」は「List of USB ID's」(http://www.linux-usb.org/usb.id) 及びその他のUSB VIDの検索サイトでも存在しませんでした。
まとめ
最近の格安ガジェットでは専用のワンチップICを使用してコストダウンしているパターンが多いのですが、本製品は通常のワイヤレスマウスに、リチウムイオン電池と充電回路、リチウムイオン電池から必要な電源 (2.7V)を生成する定電圧ICを追加という構成になっていました。
内蔵バッテリーもLiPoバッテリーではなく、単価の高い円筒形の金属で覆われた14500タイプのリチウムイオン充電池が使われていて、これまで分解してきたマウスと比較しても、コストがかかっているという印象です。