【100均ガジェット分解】(20)ダイソーの「ワイヤレスチャージャー」
※本記事は月刊I/Oに掲載された記事にページの都合で省略した部分を追加したものです
ダイソーでスマートフォン用の「ワイヤレスチャージャー」を見つけました。早速購入して分解してみます。
■パッケージと製品の外観
ダイソーの「ワイヤレスチャージャー」は2020年8月初旬から店頭で見かけるようになりました。「9V急速充電対応(10W)」で価格は500円(税別)です。同等品は通販サイトで検索すると1000円~2000円で販売されています。
パッケージの外観
パッケージの内容物は本体とUSBケーブルのみ、同梱のUSBケーブルは全ピンが接続されてた「充電・通信対応」です。
本体と付属のUSBケーブル
パッケージ裏面の表示は日本語・英語・ポルトガル語です。ワイヤレス充電規格「Qi」の10W出力に対応し、入力電圧は9V/5Vです。USB充電規格の「Quick Charge3.0/2.0(以降QC)」に対応した充電器を使用することで9V入力での高速充電ができます。
金属等の異物検出や温度上昇検出による保護機能もあり、実際に金属のカギを乗せて確認しましたがきちんと異物検出動作(赤のLEDが点滅)しました。
パッケージ裏面の表示(抜粋)
LEDによる状態表示
■本体の分解
本体の開封
本体は裏面のゴム足を剥がした下にある4本のビスを精密ドライバで外すと簡単に開封できます。
本体はメインボードと無線送電用のコイル、LEDの光で本体周囲を光らせるための導光版で構成されています。メインボードは本体下面のボス穴と基板の穴を引っかける形で固定されています。
開封した本体
■回路構成と主要部品の仕様
メインボード
メインボードはカラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。部品は全て基板表面に実装、基板の型番(K9-10W-CBR)と製造年月日(2019.12.12)はシルクで印刷されています。
無線送電用のコイルは、メインボードに直接半田付けされていて、両面テープとスポンジで基板裏面に固定されています。コイルと直列に共振用の大きなフィルムコンデンサが半田付けされています。
主要な半導体部品はコントローラICと2種類のドライバICです。温度検出用のNTC (Negative Temperature Coefficient, 負特性) サーミスタや電流検出用の0.03Ωのチップ抵抗も実装されています。
メインボードの基板端付近には状態表示用のLEDが実装されています。
メインボード(表面)
基板裏面にはテスト用のランドが配置されているのみで実装部品はありません。
メインボード(裏面)
回路構成
以下は基板パターンから書き起こした回路図です。
今回はWeb検索では使用しているICの情報を見つけることができませんでしたので、回路構成から各ICのピンの機能を推定しました。
回路図
コントローラICと2個のドライバICはQiによる無線送電用に組み合わせて使う「チップセット」となっているようです。ドライバICは型番違いで2個実装されていて共振用コンデンサを経由して無線送電用コイルの両端に接続されています。
コントローラIC(U1)の電源はドライバIC U2に内蔵されたLDO(Low Drop Out Regurator)が5Vを生成して供給しています。
回路図から推定したコントローラICの主な機能は以下です。
● 給電電流制御機能
無線送電コイル(T2)に流れる電流を電流検出抵抗(R22)で電圧に変換して入力することで給電電流を制御します。
● VBUS電圧制御機能
急速充電規格である「Quick Charge2.0/3.0(https://bit.ly/3i3Qh82)」に対応したUSB充電器を使用した時に、1番ピンのL/HでUSBのD+・D-の電圧を変更することでVBUS電圧を5V/9Vに切り替えます。
● VBUS電圧検出機能
USB充電器からのVBUS電圧を抵抗分割(R17/R12)して入力することで検出します。
● 温度上昇保護機能
5V電源から抵抗(R5)とサーミスタ(NTC1)で分圧された電圧値を16番ピンで検出して、温度異常上昇時の保護を行います。
● Qi規格のコマンド受信機能
本機が対応しているワイヤレス充電規格のQi(https://bit.ly/3cyOOWc)では受電側の負荷を変動させることで送電側にパケットを送信します。
これは「後方散乱変調」という受電側から送電側への単方向通信方式で、受電側が定期的にパケットを送電側に送ることで、送電側は充電面上にあるものがQi対応機器なのかそれ以外の異物なのかを判断できます。
この回路では、受電側の負荷変動をピークホールド回路(D2/R20/R21/C14)で検出して10番ピンに入力しコントローラIC内蔵のアンプで必要な振幅に増幅してデコードします。抵抗R6は2MΩという抵抗値からコントローラ内蔵アンプのゲイン設定用だと思われます。
● LEDによるStatus表示
2個のLED制御出力が、それぞれが青色LED、赤色LEDに接続されていて、本体の動作状態をLEDの点滅の組み合わせで表示します。
主要部品の仕様
次に主要部品について調べていきます。
・コントローラIC(U1) XDF02A → PFS173-S16
表面にはマーキングがないため、基板から剥がして確認したところ裏面に「XDF02A」という型番らしき表示がありました。この型番でWeb検索したのですが該当する部品は見つかりませんでした。
(2022年1月7日追記)
読者の方よりメールでこれは台湾の應廣科技股份有限公司(PADAUK Technology, http://www.padauk.com.tw/) の8bit マイコンの PFS173-S16 ではないかとの情報をいただきました。ピン配置は一致しているので多分あっていると思われます。
データシートは以下から入手できます。
http://www.padauk.com.tw/upload/doc/PFS173%20datasheet_v105_EN_20200619.pdf
・ドライバIC(U2) 4707A(詳細不明)
ドライバIC(U2)
表面のマーキングである「4707A」「XP2X7F」でWeb検索したのですが該当する部品は見つかりませんでした。
回路的には無線送電用のコイルのドライブに加えて内蔵LDOによりコントローラIC用の5V電源を生成しています。
・ドライバIC(U3) 7706A(詳細不明)
ドライバIC(U3)
これも表面のマーキングである「7706A」「XP324A」でWeb検索したのですが該当する部品は見つかりませんでした。
U2と比較すると無線送電用のコイルへ接続するピンが増えていますので、高速充電時の大電流対応の為にドライバを複数使用しているものと思われます。
■高速充電対応動作の確認
次に実機を使って高速充電動作の確認しました。
USB充電器はQC3.0対応の「Anker PowerPort+1(https://amzn.to/3mT3hAP)」を使用しました。
USB充電器から出力されるVBUS電圧の確認にはVBUS及びD+/D-の電圧を測定できる「UD18 USB 3.0 18in1 USB tester(https://bit.ly/346yfgu, Aliexpressで約$20))」を使用しました。
通常充電モードの動作
まずはQiの高速充電に対応していない受電モジュールで確認した結果です。
高速充電未対応の受電モジュールを乗せた場合
USB充電器のVBUS出力は約5Vで通常充電モードで動作しています。D+/D-端子はそれぞれ約0.7V/約0.1V(コントローラICの1番ピンがL)となっています。
高速充電モードの動作
次にQiの高速充電対応のスマートフォン(今回はiPhone XRを使用)で確認した結果です。
高速充電対応のスマートフォンを乗せた場合
USB充電器のVBUS出力は約9Vで高速充電モードになっているのがわかります。D+/D-端子はそれぞれ約3.3V/約0.7V(コントローラICの1番ピンがH)となっています。
ちなみに、QCではUSBデバイス側(本製品)がQCの初期化処理(詳細は省略)を行った後にD+/D-電圧を以下にする事でUSB充電器の出力電圧を設定できます。
QC規格の出力電圧設定
■出力特性の確認
出力電流-電圧特性
次に出力特性について調べていきます。
マイクロUSBタイプの単体のQi充電レシーバー(https://amzn.to/343uxns)を使用し、出力コネクタのVBUSラインに電子負荷を接続して出力電流-電圧特性を測定しました。
電子負荷は今まで同様の電子負荷装置(https://bit.ly/33X3f0w)を使用しました。
測定に使用した環境
なお、Qi充電レシーバーは高速充電対応のものが入手できなかったため、通常充電モード(VBUS=5V)のみの確認結果となります。
出力電流-電圧特性
出力電圧はUSB充電規格(BC1.2、500mAまでは4.75V以上)を満たしています。出力電流が600mAを越えたところで過電流保護で出力が停止しました。
充電効率
無負荷(上に何も載せない状態)でのUSB入力は実測で230mAとかなり大きめです。
充電電流500mA出力時の充電効率の実測値は約45%(出力2.5Wに対して入力5.43W)でした。
■まとめ
Quick Charge対応のQiワイヤレス充電器という仕様に対して機能的な問題は見つかりませんでした。
使用しているチップセットの詳細は見つけられませんでしたが、Aliexpressでは本製品と同じチップセットを使用した基板が販売(https://bit.ly/33YogcN)されていますので中国国内向けには一般部品として流通していると思われます。