【100均ガジェット分解】(64)ダイソーの「完全ワイヤレスイヤホン TWS002」
本記事は月刊I/O 2024年7月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。
ダイソーからは多くの種類の「完全ワイヤレスイヤホン」が発売されています。今回はその中でも音が良いと評判の「TWS002」を分解してみます。
製品仕様と本体の外観
パッケージの表示
白いおしゃれなパッケージが目をひく「完全ワイヤレスイヤホン TWS002」はブランドは「ダイソー」で価格は他のTWSと同じく1000円(税別)です。ダイソーの完全ワイヤレスイヤホン(以降TWS)としては5番目に発売された製品となります。
パッケージに記載されている製品仕様によると通信方式は「Bluetooth Ver5.3」、内蔵バッテリー容量はイヤホンが「25mAh」、充電ケースが「250mAh」です。連続再生時間は「約4時間30分」、充電ケースを使用することでで約18時間の再生ができます。
充電ケースはUSB Type-C接続、手持ちのUSB PD対応充電器でもきちんと充電することができました。
操作はタッチコントロールで行うタイプです。実際に操作した感じでは、タッチセンサーの感度が高すぎて、操作タッチセンサー部分以外に触っても反応してしまうことがあるので、多少の慣れが必要です。
操作はTWSでは一般的な短押しと長押しの組合せです。本製品は片耳使用もできるのですが、2回押しによる曲戻し・曲送りの操作はできなくなります。
音質は他のダイソーのTWSと比較して全音域がバランスよく出ています。
付属のシリコーン製のイヤピースはSサイズのみなので、サイズが合わない場合はちょうどよいサイズのイヤピースに交換するとかなり良い音になります。
本体の外観
パッケージの内容は「イヤホン(左右各1個)」充電ケース」「取扱説明書(日本語 & 英語)」で、充電ケーブルは付属していません。
イヤホンは背面の操作タッチセンサー部分に溝があり触ってわかりやすいようになっています。
充電ケースのコネクタはTWSでは一般的な磁石でイヤホンと電極を接触させる構造です。「技適マーク表示」は充電ケース裏面にあります。
技適番号から総務省の「電波利用ホームページ」で検索をした結果、工事設計認証を取得したのは、オーディオ機器メーカーの「ラディウス株式会社(https://www.radius.co.jp/)」で、海外の認証テスト機関での相互承認(MRA)です。
イヤホンの分解
イヤホンの開封
イヤホンケースの隙間に精密ドライバ等を差し込んで開封すると、メインボードが見えてきます。タッチ操作用の電極はケース側にメッシュ状の金属(シールドガスケット)を貼り付けて、メインボード上のポゴピンを押し付ける形になっています。
メインボードを取り出すと磁石とLiPoバッテリーがあります。メインボードはLiPoバッテリーに両面テープで固定されています。充電用の電極はメインボード上に実装されています。
LiPoバッテリーの下にはスピーカーがあり、スピーカーと外装ケースはシール材で隙間なく固定されています。スピーカーの前面にはかなり大き目のスペースが確保されており、音の出口に向かってスピーカー面が斜めに取り付けられています。スピーカー自体も振動板部分のサイズが他のダイソーのTWSと比べて大きいものが採用されています。
イヤホンの主要部品
LiPoバッテリー
LiPoバッテリーは保護回路内蔵の400909サイズ(幅9 x 高9 x 厚4.0mm)、容量は25mAhです。
メインボード
メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の4層基板、基板の型番「XRX-A68-V2」と基板の製造日(2022.2.18)がシルクで印刷されています。表面にはメインプロセッサー・コンデンサーマイク・チップアンテナ、裏面には水晶発振子が実装されています。
アンテナ構成は今まで分解したTWSと比べて特殊な構成で、GNDパターンに大きなスリットを入れた上で、SoCのアンテナ出力をインダクタ経由でGNDと接続し、チップアンテナ経由でSoCのGNDとループ状態で接続されています。これによってGNDもアンテナの役割をしているようです。
イヤホンの回路図と回路動作
基板パターンからメインボードの回路図を作成しました。回路番号は基板に表示がないので、筆者が割り当てました。”DNP”は未実装部品(Do Not Populate)です。
メインプロセッサー(U1)には充電電源(+5V)とLiPoバッテリー(B+/B-)が直接接続されていて、充放電制御はメインプロセッサーで行っています。
メインプロセッサーの周辺部品は内蔵LDO用のコンデンサー・スイッチング電源用のインダクター(L1)・水晶発振子(24MHz)のみ、VDDIO・VCOM・MIC_LDOはメインプロセッサー内蔵のLDOで生成しています。Bluetooth用電源(BT_AVDD)はSW電源の構成で消費電力を削減しています。
タッチセンサー用ピンはメインプロセッサ―の端子(LP_TH0)に直接接続されています。
内蔵フラッシュ書き込み用のピン(DP/DM)はテストランドに接続されています。
イヤホン メインボードの主要部品
メインプロセッサー: AD6983D
メインプロセッサーは珠海市杰理科技股份有限公司(ZhuHai JieLi, http://www.zh-jieli.com/)のBluetooth TWS用SoC「AD6983D」です。
データシートはデザインハウス(方案公司)の深圳市科普豪电子科技有限公司(KEPUHAO)から入手できます。
https://www.kepuhaodianzikeji.com/newsinfo/909528.html
最大160MHz動作のCPUと32bitオーディオDSPを搭載し、データシート上はBluetooth v5.1に準拠しています。LiPo充放電機能内蔵で、Soft-off mode時2uAとTWS用に特化した省電力のSoCです。
充電ケースの分解
充電ケースの開封
充電ケースも隙間に精密ドライバ等を差し込んで開封できます。内部には充電ボードとLiPoバッテリーがあります。LiPoバッテリーは充電ボードに直接ハンダ付けされ両面テープで固定されています。
充電ケースの主要部品
LiPoバッテリー
LiPoバッテリーは保護回路内蔵の502030サイズ(幅30 x 高20 x 厚5.0mm)で容量は250mAhです。
充電ボード
充電ボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。表面には充電制御IC・昇圧用インダクタ・三端子レギュレーター(LDO)、裏面にはUSB Type-Cコネクターと充電状態表示の2個のLEDが実装されています。
充電ケースの回路図と回路動作
基板パターンから充電ケースの回路図を作成しました。
USB Type-Cコネクタは6ピンの充電専用で電源(VBUS)・GNDとCC(Configuration Channel)ラインのみ接続されています。USBデバイスとして検出するための各CCラインのプルダウン抵抗もUSB PDの規格通り5.1kΩが実装されています。
充電制御IC(U1)はUSBからの電源(VBUS:5V)からのLiPoバッテリーへの充電と、LiPoバッテリーの電圧を5Vに昇圧し、5+端子を経由して左右のイヤホンへ充電(充電ケースから見たら放電)を行います。
充電状態表示のLEDは充電制御ICの2本のピンに0Ωの抵抗経由で接続されています。
VBUSラインには直列に5V出力の三端子レギュレーター(LDO、Q1)が入っています。これはUSB PD充電器から誤って5Vより高い電圧が入力された場合に充電回路を保護するためだと思われます。
充電ケース 充電ボードの主要部品
充電制御IC: FM9688
充電制御ICは富满微电子集团股份有限公司(Shenzhen Fine Made Electronics Group Co., Ltd. http://www.superchip.cn/)製のMobile Power Management IC「FM9688AA」です。
データシートは以下より入手できます。
LiPoバッテリーへのトリクル/定電流/定電圧の3段階での充電や、LiPoバッテリーへのダメージを保護するチャージソフトスタート機能もサポートしています。
三端子レギュレーター(LDO): 型番不明
基板上のQ1に実装された「4011A」のマーキングの部品は、動作時の各部の電圧を確認した結果、トランジスタやFETではなかく5V出力の3端子レギュレータだと判断しました。ピン配置とパッケージからトレックス・セミコンダクター(株)のXC6202シリーズの互換品だと思われます。
https://product.torexsemi.com/system/files/series/xc6202-j.pdf
Bluetooth接続情報の確認
Androidアプリの「Bluetooth Scanner, Finder」で接続情報を確認しました。本製品は「DAISO_TWS002」という名前で検出、プロファイルは「ヘッドセット」、サポートするコーデックは「SBC(SubBand Codec)」、プロトコルは「Dual mode(BT ClassicとBLEの両方をサポート)」となっていました。
音声再生特性の実測
今回はTWSの音質評価のために、イヤピースに差し込める小型コンデンサマイク(XCM-6035P)とオペアンプを使用して周波数特性を測定しました。
以下は本製品の1kHzを0dBとした時の周波数特性の実測結果です。低音域が若干強め・高音域は不足気味ですが、大きな山や谷もなく全体的には素直な特性だと言えます。
まとめ
個人的には、音楽を聴くのに使っていると疲れが少ない音質だと感じます。イヤホンのスピーカーやその前面の空間の構造を見ると、音質にこだわってきちんと設計しているように感じられました。
イヤホンのLiPoバッテリーは保護回路を内蔵している分ダイソーの他のTWSと比べて容量が小さめですが、耳に直接触れる部分なのでかなり安心できるポイントです。
充電ケースもUSB Type-Cからの入力に三端子レギュレーター(LDO)を入れて、誤って高い電圧が繋がれてもすぐには危険にならない構成になっています。(市場にはハンドシェイクなしでUSB Type-Cに12Vを出力するようなACアダプタも実際に存在します)
低価格製品でもメーカーのこだわりが感じられる製品であると感じました。
本製品のSoC(AD6983D)は最近の低価格TWSを分解すると見かけることが最も多いICですが、きちんとした設計で他よりよい製品がつくれるという見本だと思います。