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【100均ガジェット分解】(62)「デジタル計量スプーン」
本記事は月刊I/O 2024年5月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。
キャンドゥでキッチンの材料の計量につかえる「デジタル計量スプーン」が販売されているのを見つけました。今回はこれを分解してみます。
パッケージと製品の外観
パッケージの表示
「デジタル計量スプーン」はキッチン用品コーナーで木製のスプーンと並んでいました。本体価格は500円(税別)です。
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パッケージ内の同梱物は本体と取扱説明書(日本語)、製品の輸入販売元は東京にある生活雑貨の企画販売を行う「株式会社 アミファ (https://www.amifa.co.jp/」でパッケージ左上にもロゴが入っています。
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取扱説明書の製品仕様では、計量範囲は0.5g~500g、目盛表示は0.1g、精度は±2%です。
使用電池はCR2032 x 1個で、これは同梱されていませんので、別途準備する必要があります。
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本体の外観
本体は長さ方向が230㎜と計量スプーンとしてはかなり大き目のサイズです。
測定対象を載せるスプーン部分はABS樹脂製、本体から出ている金属部分に嵌め込まれていて取り外して洗うことができます。製本体の持ち手部分にはキッチンフック等にひっかけて保管するための穴が開いています。
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以下は実際に手元にあった硬貨の重量を測定した結果です。
1円硬貨(基準重量1.0g)が実測0.9g、新500円硬貨(基準重量7.1g)が実測6.9gと、測定結果は軽めになりました。分銅ではないので正確ではないのですが、それなりに精度は出ています。
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本体の分解
本体の開封
外装ケースは本体裏面の4か所と、電池ケース内の1か所のビスを外すと開封できます。
キッチンで使用されるケースが多いと思うのですが、特に防水されているわけではないので、本体は濡らしたりしないように注意が必要です。
内部にあるのはメインボードと本体外装にビスで固定された重量測定用のロードセルです。
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メインボードを取り外すと、裏面にはピンク色の異方性導電ゴム(垂直方向に通電し、水平方向は絶縁される部品)で接続されたLCDパネルと3個のプッシュスイッチがあります。プッシュスイッチは基板パターンを金属のキャップで覆う構成です。
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主要部品
ロードセル
重量測定用のセンサーはひずみゲージ式ロードセルです。アルミ合金製の「起歪体」にひずみゲージ(長さが変わると抵抗値が変化する金属箔)を貼り付け、その抵抗値の変化を検出することで重量(かかっている力)を測定します。
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ひずみゲージを貼り付けた場所にひずみを一番大きく発生させるために、「起歪体」の側面には穴が開けられています。
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本製品ではロードセルの片側を外装ケースに固定し、反対側に金属板経由で測定部(スプーン部分)を取り付けることで、重量に応じたひずみを発生させる構造になっています。
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LCDパネル
LCDパネルはセグメント表示(表示パターンが固定されたタイプ)です。左右の導電ゴム部分をよく見ると透明な電極が見えます。
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次の写真は電源ONのタイミングで見えるLCDパネルのセグメントです。重量表示用の5桁の数字と、各種モード表示があることがわかります。
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メインボード
メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板、コントローラはシリコンチップを直接プリント基板上に実装し、ボンディングワイヤーでプリント基板パターンと接続するCOB(Chip on Board)タイプで、エポキシ樹脂でモールドされています。
コントローラの周辺部品はチップコンデンサのみ、コントローラの右には「U2」と書かれたIC用の未使用パターンがあります。
裏面にはLCD接続用の電極パターンとプッシュスイッチ用のパターンがあります。
プリント基板の型番「JYD-EKS23U10」と製造日(230517)は表面にシルクで表示されています。
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回路図と回路動作の解析
プリント基板のパターンとコントローラのパッド構成から回路図を作成しました。
ボタン電池(CR2032)からの電源(約3.0V)はコントローラのVDDピンに入力され、内部の基準電源(VBG)を基準にロードセルに印加する電源電圧(EXC+)を生成します。
ロードセルにかかった重量に応じてSIG+~SIG-間の電圧が変化するので、それを内蔵のアンプで増幅し検出することで重量を測定し、LCDパネルに表示します。
未実装のU2は結線から基準電圧用の電源ICだと思われますが、該当するピン配置のものは検索しましたが見つかりませんでした。
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コントローラチップの確認
回路図を作成するにあたり、コントローラ周辺の結線確認のために、コントローラチップを覆う樹脂モールドを削ってみました。
まずは、ボンディングワイヤーが見えるまで削ったのが次の写真です。
モールドの断面から見えている金属の点がボンディングワイヤーで、内側がコントローラのシリコンパッドへの、外側がプリント基板のパターンへの接続です。
外側はモールドから外へ出ているパターンとほぼ一致しているのが確認できました。
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次にコントローラチップが露出するまで削り、顕微鏡で拡大してみました。
一番外側に並んでいる四角形のパターンはボンディングワイヤーを接続するコントローラチップのパッドです。
パッドに接続されるプリント基板の回路とほぼ一致するように、コントローラチップ上の各機能ブロックが分かれているのがわかりました。
左上部は「ロードセル接続部」で、アナログアンプと思われる密度の低い部分があります。
右上部は「電源」回路で、電圧がかかる部分の密度が低くなっているのがわかります。
左下部は細かい配線がランダムに広がっています。制御ロジック回路ではこのようなパターンとなることが多いです。
右下部はの黒くて四角いエリアは、LCDドライバの出力ブロックです。セグメント液晶用のコントローラではこの形状のブロックをよく見かけます。
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まとめ
ロードセルの固定方法を変えれば、メインボードはそのまま通常の平らな形状のキッチンスケールにも組み込めそうです。
ロードセルとコイン電池以外にはほぼ周辺回路を必要とせず、LCDコントローラ機能も内蔵した専用チップによって低価格で販売できる製品となっています。
最近のローエンドのガジェットではこのような「特定の製品ジャンル向けで必要機能を全てまとめた専用チップ」を見かけることが以前より増えてきた印象です。
また、500g対応のロードセルは、秋月電子で1個700円、中国のECサイトのAliexpressの最安でも1個420円(2024年3月時点)で販売されています。これが100円ショップで500円で入手できるのは電子工作の材料としては非常に魅力的です。
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