書評シリーズ第12回 『ザ メンタルゲーム』中編
「ポーカーは自分との戦い」
『ザ メンタルゲーム』の中編です。
思ったより記事が長くなってしまったため、前・中・後編に分けていきたいと思います。
ここではメンタルゲームの問題を個別に取り上げ、それぞれの対策について述べていきます。
ティルト
「ティルト=怒り+ミスプレイ」
本書ではティルトを”怒りの問題”と定義しており、ティルトの問題を解決するとは、プレイ中にティルトの発生に対処することと、テーブル外で原因解消に務めることの両方を含んでいます。
ティルトに陥った時に、深呼吸をする、一旦ゲームから離れる、エクササイズをする等というのは、短期的には効果はありますが、根本的な問題解決になっていません。
ティルトは誰しもが陥るものですが、逆にそれによって自身の至らないプレイがどこなのかを気づかせてくれる恩恵もあります。(もちろんティルトに陥らないのが目標ではありますが。)
まず解決のための第一歩として、ティルトにはどういったものがあるのかを認識する必要があると説いています。
ティルトには様々な種類がありますが、よく見られるものとして以下の7つを挙げています。
1.悪い流れティルト
文字通り、良くないカードが出続けることで起きるティルト
2.不正義(不公平)ティルト
バッドビートやクーラー(セットオーバーセットなどの大金を失わざるを得ないハンド)などにより、不公平の感覚を引き起こすティルト
3.負けず嫌いティルト
短期的分散が存在する限り、常に勝ち続けるというのは不可能な話です。それにも関わらず、相手を打ち負かさないと気が済まないという性質から起きるティルトです。
4.ミステイクティルト
自身のミスにより引き起こされるティルト
5.権利ティルト
自身はここで勝ってしかるべきであると信じることによって引き起こされるティルト
ここでは伝説的なポーカープロであるフィル・ヘルミュースを例に挙げています。
6.復讐ティルト
相手からのリスペクトの欠如、絶え間ないアグレッシブなアクション等により、相手に仕返しをしてやりたいと考えてしまうティルト
7.死にものぐるいティルト
失った金を取り返してやりたいと思い、自身のレベルに見合わないハイレートで一気に取り戻そうと考えてしまうこと
これらのうち、自分自身に最も良く当てはまるものについて各々読み進めていくことを推奨しています。
それぞれのティルトについて詳しく見ていく前に、まずはティルトの対処法を整理していきましょう。
ティルト対策への一般的戦略
1.認識
まずは自身がティルトに陥っている、もしくはその傾向があることをプレイ中に認識することが必要です。それが出来なければティルトをコントロールすることは到底不可能であると述べています。
2.準備
ポーカーをプレイする前に自分のティルト傾向や論理注入声明、戦略的注意喚起などをおさらいし、心の中でいつでも利用できるようにしておくこと。それにより、ティルトの初期徴候を見つけ出しやすくなり、次の戦略に移りやすくなります。
3.実行/パフォーマンス
ティルトの兆候に常に目を光らせておき、それに気づいたら論理注入を行う。また、イライラや怒りを引き起こしたハンドがあればそれをメモしておくことで、後に詳細な情報をより集めやすくなると述べています。
4.評価
その日のティルトの度合いにより何をすべきかは変わってきますが、基本的には前回同様の場面でティルトした時と比較し、良かった点悪かった点を振り返ることで自分のプレイを修正していきます。
これらをティルト対策の基本とし、個別にティルトを見ていきます。
1.悪い流れティルト
ポーカーに分散が存在する以上、悪い流れというのは避けられません。頭では分かっていても、あまりにも流れが来なさすぎると、少しずつティルトが蓄積されていきます。
やがてプレイの質が落ち、それによってさらにティルトするという負のスパイラルに陥ります。
流れの良し悪しは人がコントロールすることはできません。
”自分でコントロールできるのは、あくまで出されたカードに対してどう反応するかであって、どのカードが出るかではない。”
本書は自分のコントロールできる領域に注力を注ぐべきと述べています。
2.不正義ティルト
不正義ティルトはバットビートを食らったときなどに起こり、何故自分のみがこれほど不運に見舞われるのかと考え、公平・エクイティ・正義などに絡んで発生します。
そして、そのように考える原因は、自分のプレイに対する過大評価から来ているのだと述べています。
プレイヤーの中には、自分が負けるのは相手のラッキーによるものであり、相手の方が上手いプレイをしたからではない、という間違った仮定を立てる者もいます。
しかし、その仮定は相手のプレイの質を正しく認識できている場合にのみ当てはまります。
そもそも相手が何をやっているのか認識できていないと、相手のプレイを正しく評価することができなくなり、自分が相手より上手いと思い込んでしまうバイアスが発生してしまうというのです。
例えAAvs55であってもAAが負けることがありますし、分散を正しく理解することがこのティルトを防ぐ第一歩となります。
また、プレイヤーは概して運の悪かったときのほうが運の良かったときより、強く印象に残るもので(これは後述するプロスペクト理論に当てはまります)、自分に有利な分散は見逃してしまうというのです。
自分に取って有利な分散で勝った時は自分の実力であり、不利な分散で負けた際は運が悪かったと考えがちだと言います。
分散が自分に取って不利になり続けることも、有利になり続けることもありません。
ようするに不正義ティルトが起こってしまうということは、分散に対する理解ができていないということを自分に教えてくれているのです。
分散をコントロールしたいという幻想から抜け出し、理解を深めることが大切なのです。
また、不運を嘆くのは学習しない言い訳であり、自身の成長を妨げることに繋がると言っています。
どんな状況からでも学ぶことはあり、不満を言う方が気持ちが楽だからです。
3.負けず嫌いティルト
競争心というのは、スポーツ、ビジネスなどといった分野において素晴らしい気質でありますが、ポーカーというものは、将棋や囲碁などといった実力で決まる完全情報ゲームではなく、運の要素がある不完全情報ゲームであります。
ポーカーに分散が存在する以上、自分より下手なプレイヤーに負けることもありますし、毎ハンド勝つことなど不可能です。
ポーカーは、負ける時に損失を抑え、勝つ時にいかに多く得るかを考えるゲームです。
そのことを頭で分かっているにも関わらず、1ハンドの負けにより自身の心が揺さぶられてしまう瞬間があるのは何故でしょうか。
その問題を理解するためには、勝って得られるものが金以外に何があるかを見てみると役に立つと述べています。
相手よりも優れているということ、他人からの評価、ポーカーに費やした時間、エネルギー、努力などが挙げられます。
つまり、負けることを忌み嫌うのは上記で挙げたものを賭けてプレイしているからだというのです。
それではこのティルトを解消するにはどうしたらよいのでしょうか?
まずは本当の問題は何かを定義することから始まります。
1.勝利を定義する
自分がプレイしている時に掛かっているすべての事柄を書き出し、それらをプレイする前に読み直して思い出しておく。
自分が負けた時に、掛かっているものすべてで負けたのだと自動的に思いがちであるが、実際にはそうではないことに気づくかもしれないと言うのです。
2.負けは続くという仮定を取り払う
自分の負けがこれからも続くという仮定は、自身の未来予想が100%当たると信じ込むという点で非論理的です。
この仮定を払拭する方法は、過去のキャリアにおける自身の最高点と最低点がどのようなものであったかを考えることです。
過去のある時点で自分の負けが続くと仮定していましたが、実際にはそうではなかったはすです。
この事実を定期的に思い起こすことで、積み重なった欲求不満を貯めることなく、逆に取り除くことにつながると述べています。
分散のせいでプレイの質を落とすことは、分散に負けたということを意味するというのです。
また、他に負けを忌み嫌う原因として、負けた金は永久に失われると信じ込んでしまう点が挙げられます。
そうではなく、金というものをある一定の期間、自分の優位性に対しての投資したものと考えることを提案しており、短期的な負けに心を奪われるのではなく、大局的な見方をすることを説いています。
他にも負けず嫌いティルトの原因として、自分は毎ハンド勝てるという思い込みがあるとも指摘しており、ポーカーというゲームの性質上それは不可能であり、毎ハンド良いプレイを続けることに専念すべきと述べています。
さらには、勝って得られた喜びよりも、負けることで失う痛みの方がより強く感じられてしまう「プロスペクト理論」にも触れており、もし負けに傷つけられる理由の中から、不必要かつ欠陥のある部分を減らすことができれば、この理論によって説明されているパターンは消えて無くなるはずだと述べています。
プロスペクト理論はあくまで現象の観察結果であって、人間自体の法則というわけでは無いのだと言います。
4.ミステイクティルト
まず、ミスは学習する上で避けられないものであり、ミスをしないということはすでに何が正しいかを知っているということになると言います。
ミス自体は悪いことではなく、向上する中でとても重要な要素であり、問題はミスによってプレイの質が落ちることだと著者は指摘しています。
では、ミスがティルトを引き起こすのによく見られる原因とはどういったものがあるのでしょうか?
1.完璧主義
ポーカーとは完全にマスターすることができない、常に進化し続けるゲームであり、自分でコントロールできるというのは幻想に過ぎません。
ミスは必ず現れるものであり、完璧なプレイを期待するのではなく、常に自分のミスを修正し続けることへの努力を怠らないことが重要であると説いています。
完璧主義の問題を取り払うために、以下のステップを提示しています。
1.学習プロセスへのより現実的な視点を持つこと。それにより、なぜどのような場合にも完璧というものには到達し得ないのかを、自分に証明することが出来る。
学習への知識を強化することで、完璧を自動的に期待することはなくなり、それをゴールとして捉えることが出来るようになります。
2.完璧なプレイが出来た時には、それで良い気分になれる。
完璧なプレイとは期待することではなく、あくまでゴールであると言います。
結果として完璧なプレイとなることがあったとしても、そのことが自分の偉大さを見せつけることになるとは限らず、それで良い気分になるのは当然であると述べています。
3.自分が完璧にプレイ出来ている時には、どうやってそこにたどり着いたかに注意を払うこと。
どのようにして結果を出せたのかを知ることは、未来においても結果を出す能力を強化することに繋がると述べています。
この訓練を繰り返すことによって、自身の上達も早くなります。
繰り返しますが、ミステイクは必ず起きるものであり、より大きなミスとは、犯したミスをさらなるミスの呼び水にすることであります。
2.ミスがミスでは無い時
プレイヤーの中には、プレイ中にミスを犯したと思っても、後から振り返ると実際はいい線を行っており、ミスとは言えないと思い直すことがよくあります。
自分がミスを犯したと思うことは、それ自体がティルトに繋がらなければ問題にはなり得ません。
すなわちこのタイプのティルトを引き起こすには、ミスを犯したと思うだけでよく、実際にミスを犯したかどうかは関係ないと述べています。
したがって、ミスをいつ本当に犯しているのかを知ることが、このタイプのティルトを無くす鍵であると言います。
このことは一見簡単に思えますが、自分のプレイの弱点やよくやるミステイクを今すぐここで挙げてみると、いかに難しいかが分かり、ミスへの認識能力を向上することがこのタイプのティルトを無くす方法であると述べています。
その方法とは、以下のようなものです。
1.自分のプレイを、最高のものから最低最悪のものまですべて網羅して分析する。
まず自分がティルトしていたりするときに犯したミスを書き出し、次に自分が下手にプレイしたときのミスを書き出します。
数週間の間、プレイするごとにあらたな項目が出来たら付け加え、リストを完成させます。
そのリストを詳しく検討し、プレイ中にその中のミスがどれか現れたのに気づいたら、自身がどれくらいのレベルでプレイ出来ているのか、即座にフィードバックを得られます。
2.定期的に自分のプレイを評価しなおして、自分のプレイへの知識を最新のものにする。
時間の経過とともに、自身のゲームの最悪の部分が少しずつ取り去られていくにつれて、それらをリストから外していきます。
そして、新たなミスが現れたら、それをリストに加えます。
この作業を続ければ、自身の努力すべき対象が着実に更新され続けられるであろうと説いています。
3.あからさまなミステイク
明らかなミスを犯すというのは、すでに自身がティルトに陥った状態で起こり、ミスがさらにミスを呼び起こす状態です。
後で振り返ると自分がそんなミスをするなど信じられない気持ちになるが、この状態に陥る前兆に気づけなかったことが原因であると説いています。
ティルトで感情が高ぶっている時、あるいは機械的にプレイしていたり、退屈していたりといった状態で決断を行うことは、自身に無意識的有能のレベルで知っているポーカーの知識を使うことになると言います。
こういった場面で消え去るようなスキルであれば、それはまだ無意識的有能レベルにまで学習が進んでいないことを示しています。
思考がティルトや機械的プレイで止まった時には、正しいプレイをすることが出来なくなり、あからさまなミスが起きてしまうのです。
それでは、あからさまなミスを引き起こさないための以下の3つの方法を見ていきます。
1.ALMと尺取り虫、「精神的機能不全」のセクションに立ち戻る。(※尺取り虫については本記事では割愛しているため、興味がある方はぜひ本書をご覧ください。)
これらのセクションでは、いかにしてあからさまなミスが起きるかが説明されているため、それがどうして起きるかを知れば、無知故にに発生する新たな怒りに対処できるようになります。
2.あからさまなミスを犯した時は、プレイを続けるか止めるかを決断する。
仮にプレイを続ける場合は、それを引き起こしたメンタルゲーム上のミスを減らすように全力を尽くす必要があり、それが出来れば普段通りにプレイ出来ます。
3.あからさまなミスに繋がるようなメンタルゲーム上の穴を埋めることを優先課題とする。
それが出来ないのであれば、それらのミスを修正出来るチャンスはほとんどないと説いています。
5.権利ティルト
権利ティルトの根底にあるのは、”相手よりも自分の方が努力してきた”、”自分の方が頭がいい”、または”キャリアが長いから”等といった理由による、自分には勝つ権利があるという”思い込み”であると言います。(ちなみにこれは、典型的なフィル・ヘルミュース型ティルトであると述べています。)
権利ティルトは自分が当然であると信じているものが奪い去られる時に起き、その後間もなく、あるいは負けが重なるにつれてティルトが始まります。
権利ティルトの本当の問題は、自身が相手よりも上手いと信じて込んでいる点ではなく、より上手なプレイヤーであることが負けることなど絶対にあってはならないと信じ込んでいる点にあると指摘しており、それは自信過剰であると説いています。
自信過剰
自信過剰になるのは、自身のプレイや能力について真実ではないことを信じているからであると述べており、自身が相手より上手いことが、相手に負けることがあってはならないことを意味すると信じているとすれば、それは非現実的であります。
自信というものは確かに重要でありますが、それは現実の能力に基づいている必要があり、自分が相手に負けるはずがないという信念は間違った自信を生み出します。
自信過剰を抑えるためには、以下の事柄を行ってみることを説いています。
1.メンタルハンド履歴を用いて、自身のプレイの中にある嘘を無くしていく。
2.自信が強くなりすぎている時には、論理注入を施す。
(あなたは上手くプレイ出来ていて、分散はあなたにさらなる金をもたらしてくれるはずである。しかし、それはあなたが全部の金を持っていく資格があるということにはならない。)
3.自信過剰についてのさらなるアドバイスは、本書の346ページを参照すること。
それでは、権利ティルトを解消するための戦略を見ていきます。
1.自分の方が強いプレイヤーであると感じるのではなく、それを証明していく。
そのためには、自信と相手のプレイヤーの間でどちらがより高いスキルを持っているかを見定めるスキルを磨くことが必要で、これは訓練により強化することが可能であり、これを務めるだけでも権利ティルトを回避する思考方法を行っていることになるとも言えると説いています。
2.相手の方は上達しないなどという信念に捕らわれないようにする。
現時点で自身の方が強いプレイヤーであるということは、必ずしも将来もそのままであることを意味しません。
相手も上達すると仮定すべきであり、相手の一歩先を行き続けるには、それなりの努力が必要であると述べています。
また、ステークスをアップするときの注意点についても述べており、下のステークスで勝ち組だったことで、そのステークスでも勝つ権利があるように感じることがよくあると指摘しています。
その結果、次のリミットにいるプレイヤーたちも下手くそだと早々に決めつけてしまう間違いが発生してしまい、そのことはポーカーにおける長期的な成功を阻害しかねないと警鐘を鳴らしています。
6.復讐ティルト
復讐は人生と同じく、ポーカーにおいても存在するのは不自然ではなく、それが果たせられたときの短期的な満足は、長期的な結果によって凌駕されると言います。
普段は復讐など望まない人が、ことポーカーとなると相手へ仕返しをしてやりたいと考え始めるのは、ポーカーには何かそうさせてしまう魔力があるのでしょうか?
著書では、相手が勝ち逃げしたり、絶え間なくアグレッシブに仕掛けてきたりしたとしても、彼ら自身には問題は何も無く(あくまでルールや法律の範疇内であれば)、それらに対して復讐してやりたいと思ってしまう問題(復讐ティルト)は、自身のメンタルゲーム上の欠陥にあると説いています。
その問題を明らかにするには、問題の引き金となる出来事をリストアップすることを説いています。
・侮辱されたり、リスペクトされなかった。
・毎回スリーベットされた。
・相手との間に因縁がある。
等々が例として挙げられます。
また、復讐ティルトが良い結果をもたらすのは、それをプレイへの糧とすることが出来た場合のみで、それ以外の戦略は長期的には負け戦略であると言います。
他のティルト同様、この問題の存在に気づいていることは、そのまま自動的に解決方が分かるということにはならなく、次のステップとしては、上記で挙げた問題の引き金となる例のような出来事が、何故復讐心を起こさせるのかの理由を理解することであると述べています。
それは、全体的に見た場合”コントロール”に理由があると言います。
仕返しというのは、他のプレイヤーに対して、この場をコントロールしているのは自分であると見せつけたいという欲求に根ざしていると説いています。
しかし実際には、自身のやり方でその場のコントロールを取り戻そうと試みることは、自身がコントロールを失っていることの現れであり、とどのつまり、相手をコントロールすることなど不可能なことなのです。
もし自身の関心が相手をコントロールすることに向けられると、自身のプレイの集中力とエネルギーが失われることにつながります。
復讐ティルトを解消するには、以下の3つの項目に着目します。
1.自身のプレイをコントロール出来なくなってしまうような状況を特定する。
2.何故そこで自身がコントロールを手放してしまうのか、その理由の欠陥を解消する。
3.そのときに自身が犯しがちなポーカー上の技術的ミスを改善する。
リスペクトされない
リスペクトを欠けた扱いを受けるということが、引き金となることは多々あります。
そのように感じてしまう理由は数多くあり、その多くは正当なものでありますが、結局のところ、相手が自身や自身のプレイをどう思うかはコントロールできないという結論に至ります。
彼らにも悪気があるわけではなく、あくまで勝とうとしているのです。
彼らの言動により自身がティルトを起こしてしまったとしたら、それは彼らが別のレベルで勝っていることを意味します。
怒りはプレイを阻害する要因にもなり得ますが、同時にそれをエネルギーとして、より強いプレイヤーになるための燃料にも出来ると説いています。
大事なのは、怒りを相手をコントロールしようとする動機にするのではなく、テーブルでより良いプレイをするためのモチベーションにすることです。
絶え間なくアグレッシブに攻められる
プレイヤーの中には、相手のアグレッシブなアクションによりティルトする者もいます。
こういう人は絶え間ないスリーベットやコンティニュエーションベットをされ続けたりすると、まるで自分のポーカーが攻撃を受けているように感じてしまいます。
単にアグレッシブなプレイに対抗するための経験と知識がないだけなのに、復讐の名の下に自分のプレイを正当化しようとします。
それらの状況で利益が出るようなプレイを覚えれば、自身の欲求不満は消えてなくなるはずであると述べています。
相手が皆、自身のプレイに対して打ち返してくるように思えるのは単なる思い過ごしであり、自分のコントロールを失わないことが大切です。
なぜなら自分にできることはそれしかないからです。
相手との因縁
ハイステークスのようなプレイヤー数全体が少ないところでプレイしてる者には、「わだかまり」を抱えた相手がいることが多いと言います。
このタイプのティルトは蓄積されたティルトの1つの型で、積み上げられてきた因縁はひとつひとつのアクションに大きな意味を与えます。
そのような因縁を上手く利用するためには、以下のアドバイスに従うことを勧めています。
1.因縁に自身がコントロールされるので無く、自身の方からそれを利用していく。
そのためには、まずは何故相手プレイヤーを憎んでいるかを考えることから始めます。
それにより、自身がいったい何をコントロールしようとしているのかを理解するチャンスが生まれると言います。
2.激しい怒りを予期する。
論理注入を行っている時、自分をコントロールするべく自分自身と闘っていることを意味します。
闘いとは、やっつけてやりたいプレイヤーとの間にだけ起こるのでなく、怒りによって自身のプレイの質が落ちないようにする闘いにも勝たなくてはならないのです。
3.相手はあなたをイライラさせようとしてくるであろう。
あなたが怒りを爆発させ、それをなんとかコントロールしようとする姿を相手が見慣れてきた場合、彼はそれをチャレンジだと捉え、さらにあなたを怒り狂わせようとしてくるかも知れません。
その挑戦にも打ち勝つ心の準備をすることを説いています。
4.以前のアクションを注意して見直す。
相手のプレイの弱みに注目するだけではなく、自身のティルトについての相手の知識を、自分のために利用する方法について考えてみることを説いています。
5.本書の蓄積された感情の解消ステップを参考にする。
6.本書230ページにあるクライアント体験談をチェックする。
自信を取り戻す
相手に完全に打ち負かされたり、分散のせいで打ち負かされたように思えることで相手に逆襲しようとして、結果的にプレイの質が下がる可能性があります。
そうした質の低下というものは、分からないぐらいに微かに忍び寄ってくるため、自身のプレイのコントロールを取り戻そうと苦闘していることに気づきます。
相手に出し抜かれたり、やり込められてるときには、相手がチップだけでなくあなたの自信を奪い取っているように感じられます。
無謀なスリーベットやヒーローコール(主にリバーでブラフにしか勝っていないような弱い手でコールすること)などの仕返しとなるアクションを起こし、自分のほうが強いプレイヤーなのだと言うことを見せつけようとしますが、実際には自身が何かを証明しようとしている相手は、他ならぬ自分自身であると説いています。
そして、このような自信に関する問題が起きるのは、自分自身と相手のスキル、分散を認識する能力に欠けているからだと説いています。
7.死にもの狂いティルト
死にもの狂いの感情は、起きていることを認識しにくい感情であると述べています。
それを見つけ出すには、その行動の裏にある意図を見つけること、つまり負けを取り戻す、バンクロールに合わないプレイをする、アクションし過ぎるなどといったプレイは、今すぐ勝ちたい、負けで終わりたくないという意図や衝動があってのことだと言うのです。
また、死にもの狂いティルトは蓄積されたティルトの別の形であり、負けを取り戻そうとしているときに現れる怒りは激しく、自身の行動を非合理なものにし、それがさらなるティルトを引き起こしてしまいます。
このティルトは他のタイプのティルトにより引き起こされる場合がありますが、どのタイプが引き起こすかまでは自分では分からないかもしれません。
しかし、何よりもまず第一の目標としてはこのティルトを防ぐことで、自身のモチベーション、バンクロールに与える打撃を軽減させることができるからです。
では、以下のようにこのティルトに対する戦略を見ていきます。
1.切迫感を持つこと。
朝目覚めたら問題がすべて消えていると考えることは絵空事であり、それは今日から禁煙すると誓っている人達と同じようなものであると述べています。
もしティルトの問題を改善したいのであれば、最優先事項として取り組む必要があります。
2.ティルトプロフィールを書く。
ティルトが現れ始める初期段階の兆候、何によってティルトの引き金となるのか、そして最初にポーカー上で現れるミスはどのようなものかを詳細に記述すること。
そしてそれらをプレイ前に検討し、随時新たな情報を更新していく。
3.損切りの厳格な線引を行う。
損切り設定を、ティルトを防ぐ他の戦略と組み合わせた方法を試すことを説いています。
4.定期的な休憩を取る、あるいはタイマーを利用する。
休憩を取ることで自身のベストプレイからは遠ざかるものの、ティルトしてしまうよりは遥かにましであります。
5.緊急対応策をおさらいする。
毎回セッションを始める前に、死にもの狂いティルトを防ぐ戦略を復讐しておくことで、緊急時のアクションの準備となってくれるはずであると述べています。
6.ティルトの初期的兆候が現れたら、積極的に対処する。
ティルトのサインに気づいたら、自身の戦略のそれぞれの部分を積極的に用いて、怒りをコントロールすることに務める。
7.小さな前進を認識する。
ティルト問題で改善が見られたセッションがあるのに気づくと、それは自信となってさらなる努力に結びつくため、記録に残すことを推奨しています。小さな改善に気づくことでモチベーションを維持することの重要性を説いています。
8.死にもの狂いの状態へと繋がるティルトのタイプを特定出来たら、それ(ら)をメンタルハンド履歴を用いて解消する。
このステップを経ることで、現れる怒りの量を減らすことが出来、それによってここまで述べてきた7つのステップを実行するのがより容易になると述べています。
9.学習プロセスをより深く理解する。
学習についての不正確な仮定は死にもの狂いティルトの発生に寄与していると言い、本書の第2章(理論的基盤)をもう一度読み、学習に何を期待すべきなのかについて習熟することを説いています。
10.第8章を読んで、より安定した自信を手に入れる。
安定した自信を持っているプレイヤーには、死にもの狂いティルトは無縁であると述べています。
ティルトをプレイ改善に利用する
ティルトがプレイ向上に理想的なものから程遠いのは確かですが、そいつに痛めつけられるのではなく、そこから得られるものを大いに利用しようと述べています。
自身がティルトしている時のプレイの質を分析するために、以下の3つのカテゴリーに分けて考えていくことを提唱しています。
1.強固であり、自身がマスターした強みとなっている中核的知識
2.すでに時代遅れの古い、自身にとって最大の弱点(悪い癖)になっている中核的知識
3.現在学習途上にある知識
自身がマスター出来ている強みを認識することは、自身のプレイにとってカギとなり、その理由として以下の3つを挙げています。
1.自分がこれ以上努力を積み重ねる必要のない部分が特定出来る
2.自分のプレイについてバランスのとれた視点が持てる。
3.自分のプレイがどこまで下手なものに落ち込み得るかの限界が認識出来る。
特に自身の弱点を認識することは重要であり、それは自身のプレイの中でも修正が最も容易であるからであると述べています。
自身のプレイの最低な部分を受け入れることは辛いものではありますが、その分メリットは大きく、そのミスを修正することが出来れば、考えなければならないことが少なくなると述べています。
記録を残す
今まで述べた通り、自身の弱点をリストアップしてメモに残すことを推奨しています。
リストアップした弱点に対して各々修正方法を書き、プレイの前に見直すようにします。
ティルト時に修正されたプレイを発揮できた時のみ、弱点をマスターしたと言えると述べています。
そして、その場合になって初めてリストからその弱点を外し、次の弱点への対処に移ります。
これらを繰り返していくことで、よりプレイが上達すると説いています。
ただし忘れてはいけないのは、どれだけ上達しようとも弱点というものは常に存在するということです。
メモを残し続けることで、自身の進歩を証明するものともなるのです。
中編まとめ
「ティルト」に関してついてだけでも相当なボリュームとなってしまいましたが、それだけこの問題について、多くの人が悩まされている証なのでしょう。
私個人の例でいうと、大きく分類された7つのティルトのうち、特に1.悪い流れティルト、4.ミステイクティルト、6.復讐ティルトが当てはまると感じました。
1.の悪い流れティルトについては、あまりにも長時間ハンドが来ない、もしくはハンドが来てもフロップで全く絡まない、リバーで薄いところを相手に引かれてしまうなどが続くと、自身のハンドレンジを広げたり、コール頻度が上がったりと、ティルトの前兆が始まってしまいます。
そうした中で、ハンドが絡んだと思ったらショウダウンで相手にナッツを引かれていたということがよくありました。
分散に対する認識、もしくは対処法がまだまだ身についていなかったのでしょう。
そして4.のミステイクティルトについても、相手のハンドレンジを見誤り、あり得ないコールをしたり、ベットする場面をチェックに回したりなどのミスプレイをすることで、よりプレイが固くなってしまう傾向がありました。
人間誰しもミスはつきものです。
それら一つ一つのミス自体にとらわれるのではなく、反省し、次の良いプレイへの糧とすることでミスも意味があるものになります。
6.の復讐ティルトについては、私が現在進行形で対処しているティルトであり、最も苦しめられているものになります。
特に相手がアグレッシブな場合に起こり、頻繁にスリーベットされたり、レイズをされたりすることでその怒りは徐々に蓄積されていきます。
本来では降りるところもブラフキャッチをしにいこうとし、弱い手でコールをしてしまうようになってしまいます。
この本を読んでから、その怒りを良いプレイへの糧とすることで、自身に強力な手が入るまでじっと我慢することができ、相手が打ってきたところにレイズを被せ、結果的に一撃で相手を飛ばすことができるようになりました。
それまでは、相手に対抗しようとムキになって無茶なプレイをしたりしていましたが、落ち着いて確実に勝てるチャンスを待つ冷静さを得ることができるようになりました。(まだまだ無意識的有能レベルにはほど遠く、何度か弱い手で参加しそうになりますが)
それでは中編はここまでとし、次の章では、その他の感情である恐怖、自信、モチベーションについて取り扱っていきます。