人生を変えた名盤シリーズvol.17 『スクリーマデリカ(Screamadelica)』
「美しさと狂気の境目」
第17回目は、「プライマル・スクリーム(Primal Scream)」より3作目の『スクリーマデリカ(Screamadelica)』です。
「プライマル・スクリーム」は1982年スコットランドのグラスゴーにて結成され、ポストパンク、ダブ、ガレージロック、ハウスなどと、非常に多彩な音楽性を持ったバンドです。
前作のセルフタイトルアルバム『プライマル・スクリーム』にてガレージロックを展開し、インディーズチャートでトップになりますが、その後失速しました。
バンドが方向性を模索する中、脱退したメンバーが当時人気DJであった「アンドリュー・ウェザオール」にプライマル・スクリームを紹介したことで、セカンドアルバムに収録されている『アイム・ルージング・モア・ザン・アイル・エヴァー・ハヴ』のリミックス『ローデット』が生み出されます。
この曲はシングルカットされ、バンドで初のヒット曲となりました。
そんなヒット曲を引っさげ、満を持して発売されたのが『スクリーマデリカ(Screamadelica)』です。
メンバーは、ボビー・ギレスビー(vocal)、アンドリュー・イネス(guitar)、マーティン・ダフィ(キーボード)、シモーヌ・バトラー(bass)、ダーリン・ムーニー(drums)の5人編成です。
曲目は以下の通り、全11曲です。
1.『ムーヴィン・オン・アップ(Movin' on Up)』
2.『スリップ・インサイド・ディス・ハウス(Slip Inside This House)』
3.『ドント・ファイト・イット、フィール・イット(Don't Fight It, Feel It))』
4.『ハイヤー・ザン・ザ・サン(Higher Than the Sun)』
5.『インナー・フライト(Inner Flight)』
6.『カム・トゥゲザー(Come Together)』
7.『ローデッド(Loaded)』
8.『ダメージド(Damaged)』
9.『アイム・カミン・ダウン(I'm Comin' Down)』
10.『ハイヤー・ザン・ザ・サン(Higher Than the Sun [A Dub Symphony in Two Parts])』
11.『シャイン・ライク・スターズ(Shine Like Stars)』
冒頭1曲目の『ムーヴィン・オン・アップ(Movin' on Up)』は、カントリー調の軽快なイントロで始まり、サビではゴスペル風のコーラスが入ります。
初めて聴いたときは、アルバムジャケットのイメージと違くて戸惑いましたが、ここから驚くほど多彩な音景が待ち受けています。
続く、2曲目『スリップ・インサイド・ディス・ハウス(Slip Inside This House)』では、レゲエ調のイントロから始まって、途中でハウス風のサウンドが入り、全く新しいジャンルの曲が展開されています。
3曲目『ドント・ファイト・イット、フィール・イット(Don't Fight It, Feel It))』は、クラブに流れていても違和感がないダンスミュージック風の曲で、耳障りがよく、ほんとにロック・バンドか?と疑うほどの仕上がりです。
なんでもありなところが正にロックですね!
4曲目『ハイヤー・ザン・ザ・サン(Higher Than the Sun)』は、ダブステップを取り入れたような曲で、それまでとは異なり、気だるい感じのゆったりとした曲調で、無機質な感じのドラム音がとてもクールです。
そして出ました5曲目『インナー・フライト(Inner Flight)』です。
個人的にこの曲がアルバムの中で一番問題があると思っており、かつもっとも衝撃を受けた曲です。
当時メンバーのほとんどがドラッグ漬けの状態であり、トリップ中に見た景色を表現したと思われます。
不思議と美しいメロディと、いかにもなコーラスが別世界へと誘うかのようです。
ドラッグを美化するわけではありませんが、このような曲をアルバムに収録するバンドのセンスには脱帽です。
続いていよいよバンド初のヒットシングル、7曲目の『ローデッド(Loaded)』です。
基本はレゲエ調をベースとしていますが、ときおり挟むサンプル音、歪んだギターがいい味を出しており、とてもスタイリッシュな曲に仕上がっています。
当時初めて聴いた人たちは、いまだかつて無かった曲調に驚かされたことでしょう。
ロックとダンスミュージックが高次元で昇華されています。
8曲目の『ダメージド(Damaged)』では、彼らのポテンシャルが遺憾なく発揮されたバラードが展開されています。
感情を揺さぶるようなボーカルに、切ないピアノ、哀愁のあるギターソロに、彼らのロックバンドとしての誇りを感じられます。
その後もクライマックスに向かって、前半とは一転した落ち着いた曲が展開されていきます。
ラスト曲の『シャイン・ライク・スターズ(Shine Like Stars)』は、まるで子守唄を現代風にアレンジしたような曲調で、あっという間の1時間を聴き終えた余韻を味わうことができます。
アルバム全体を通して、非常に色彩豊かな構成にも関わらず、曲と曲とのつながりに全く違和感なく聴くことができます。
バンドをするからには、メジャーを夢見てライブや練習に明け暮れることがほとんどだと思います。
しかし、そのほとんどが売れることなく夢破れていきます。
もう後がなく追い込まれたバンドが、各々の才能を信じて生まれた結晶は、美しさと危うさを兼ね備えた紛うことなき名盤でした。