人生を変えた名盤シリーズVol.15 『ブロウ・バイ・ブロウ(Blow By Blow)』
「すべてのギタリストは、彼の存在を避けられない。」
第15回目は「ジェフ・ベック」より、1975年発表のソロデビュー初の作品『ブロウ・バイ・ブロウ(Blow By Blow)』です。
先日2023年1月10日にジェフ・ベックの訃報を知り、未だに実感が沸かないですが、彼のギターへの探究心と、その唯一無二のプレイに多々驚かされてきたことに敬意を表し、この度記事にすることにしました。
彼はエリック・クラプトン、ジミー・ペイジと並ぶ三大ギタリストの一人として有名で、「ジェフ・ベック・グループ」、「ベック・ボガード・アビス(通称BBA)」など数々のバンドを経た後、本作でソロデビューします。
曲目は以下の通りの、全9曲です。
1.『わかってくれるかい(You Know What I Mean)』
2.『シーズ・ア・ウーマン(She's a Woman)』
3.『コンスティペイテッド・ダック(Constipated Duck)』
4.『エアー・ブロワー(Air Blower)』
5.『スキャッターブレイン(Scatterbrain)』
6.『哀しみの恋人達(Cause We've Ended as Lovers)』
7.『セロニアス(Thelonius)』
8.『フリーウェイ・ジャム(Freeway Jam)』
9.『ダイアモンド・ダスト(Diamond Dust)』
冒頭1曲目『わかってくれるかい(You Know What I Mean)』のファンキーなカッティングでアルバムは幕を明けます。
曲の後半につれ彼の持ち味の一つである、先の読めないフレーズが展開していきます。
続いて2曲目ビートルズのカバー曲である『シーズ・ア・ウーマン(She's a Woman)』では、原曲のイメージを崩さず随所にジェフのテクニックがちりばめられており、単なるインストカバーにならないような工夫がなされています。
これは今作が、ビートルズをプロデュースした「ジョージ・マーティン」であるということの影響が伺えます。
その後もジャズ、ファンキーな曲が続き、ジャズバーに流れていても違和感がない空間が広がっていきます。
そして、5曲目の『スキャッターブレイン(Scatterbrain)』です。
後にピックを使用するのをやめ、指弾きに移行する前のジェフの速弾きをイントロで堪能することができます。
曲全体の緊張感、後半になってさらに加速していく展開。この曲をジェフの最高傑作に挙げる人も多いです。(私も大好きな曲です。)
正直なところ、速弾きという面ではジェフより弾ける人は多くいると思います。
しかし、彼の持ち味はそういった分かりやすい凄さではありません。
次の曲『哀しみの恋人達(Cause We've Ended as Lovers)』で彼の真髄を知ることになります。
スティービー・ワンダーが作曲したこの曲では、ジェフの表現力が遺憾なく発揮されています。
彼の真髄というのは、一音一音への職人的なこだわりであると私は考えています。ギターが鳴くとはこのことを言うのでしょう。
同じようなフレーズでもピックアップやボリュームを調整するなどして微妙にニュアンスを変え、ギター一本で表現できる領域をここまで拡大できることを示した功績は、正に孤高なギタリストと呼ばれる所以です。
(ポール・ロジャースが「ジェフ・ベックかジェフ・ベック以外か」と発言したのは有名ですね。)
この曲を聴いた当初、自分はジェフ・ベックの凄さがいまいち分かりませんでした(当時は速弾きなどの超絶技巧をするギタリストがすごいと思ってました。)が、やがてギターを手にするようになり、この曲を実際に演奏してみたことでその凄さが分かりました。
自分が弾くと、どうしてものっぺりとした演奏になってしまいますが、ジェフの演奏には、譜面に現れない奥深さがあります。
(もう一人の3大ギタリストであるジミー・ペイジが本作をギタリストの教科書と言いましたが、完璧に真似をするのは到底不可能だと感じました。)
ちなみに、本作での密かなお気に入りは、8曲目の『フリーウェイ・ジャム(Freeway Jam)』です。
メロディーラインがはっきりとしていて、何よりジェフが伸び伸びとプレイしている様が伝わってきます。
ちなみにこの頃、ジャズとロックを融合した"フュージョン"という新たなジャンルが一世を風靡していました。
ハードロックの枠に収まるだけでは満足できないジェフにとって、ジャズへのアプローチというのはやりがいのあるテーマであったことは想像に難くありません。
また、彼のバンド遍歴を見ると、メンバー間での方向性の違いによる衝突が多々あり、どのバンドも長くは続かなかったことから、ジェフは気難しい部分もある人だと思われます。
しかし、彼は自分の音楽に妥協せず、自分のやりたい音楽をしようとするたびに新たなメンバーと演奏してきました。
そこには、彼の音楽への情熱と本当に好きなんだということが伺えます。
好きだからこそ、人と衝突してでも自分のエゴを貫き通し、彼が新作を発表するごとに聴き手に驚きを与え、魅了し続ける演奏を届けてくれていたのだと思います。
最近ギターのソロを聴き飛ばす方が増えているそうですが、ジェフの死をきっかけに、ギターの魅力がまた再認識されれば、天国にいるジェフもきっと喜んでくれることでしょう。