がんと共に生きる、ありのままの自分でいられる「対話の時間」にTomopiiaの価値がある
がんの患者さんと看護師とのLINEを活用した対話サービスとして、2021年にTomopiia(トモピィア)はプロジェクトを開始しました。今回ご紹介する十枝内綾乃は現在、Chief Nursing Officerとして看護師を統括する立場にあります。
今回のインタビューでは、十枝内さんの参画の背景のほか、本事業を通して伝えたい想いなどを語ってもらいました。
「あなたと出会えて良かった…」患者さんからの言葉が看護師としてのやりがいに
──まずは、これまでの経歴について教えてください。どのようなきっかけで看護師の仕事を始めたのでしょうか?
高校生の頃から障害者向けのボランティア活動に参加するなど、看護福祉の領域に関心がありました。私は自分のことより誰かのために一生懸命になることが好きで、「ありがとう」と言ってもらえることが何よりのモチベーションでした。
高校卒業後の進路に迷っていた時、母から「手に職をつけたらどうか」とアドバイスがあり、看護学校へ進学することを決めました。
──それから30年近く、看護師としてのキャリアを重ねてきたわけですね。
走り続けることができたのは、高齢の患者さんたちとの出会いでしたね。どこか弱々しい立場の人として扱われることが多いのですが、人生を振り返れば20代や30代の頃に仕事や恋愛に忙しかった時期が今の若い世代と同じ様にあったと思うんです。
そんな人たちの最期に立ち会うことの尊さを覚えた時に、「あなたと出会えて良かった」と感じてもらえる看護ができたらと思うようになって。気づくと、あっという間に30年が経っていました。
──そんな十枝内さんが、病院の仕事を辞めてTomopiiaのプロジェクトに参加するようになるわけですが、どのような背景があったのでしょうか?
2017年に看護部長に就任し、看護師の職場環境の改善や採用活動に関わるようになったことが、結果的に現在のTomopiia参画に繋がりました。
看護師の離職率の高さなどが社会課題として問題になる中、私はまさにその渦中にいたわけです。医療現場では看護師の抱える疲労感や仕事に対するやりがいの喪失も珍しくありません。それでも患者さんのためには医療サービスの品質は維持していく必要がある。こうした課題をどうにか解決できないかと日々試行錯誤をしていました。
そこに追い打ちをかけたのがコロナ禍でした。素敵な仕事のはずなのに、目の前の大変さに目を奪われ、余裕がなくなってしまう看護師が増えてしまったように、私には感じられたんです。「なぜ医療現場の前線に出続けなければいけないのか。なんで私たちだけが」という声が聞こえてくるようでした。
私も一人ひとりに声をかけて励ましたいと思う一方、看護部長として当時勤めていた病院では300人以上の看護部をまとめる立場にあったため、ていねいに寄り添う時間もありません。常に崖っぷちに立たされているような感覚がありました。
時を同じくして家庭の事情もあり、このまま病院で勤務することが難しい状況が重なって退職しました。ちょうどその頃に、偶然出会ったのがTomopiiaです。
以前、一緒に病院で仕事をしていた、当プロジェクト代表の重村より「プロジェクトを一緒に手伝ってくれないか?」と声がかかったんです。
世の中の医療サービスの質向上や看護師のやりがいを取り戻すためのチャンスかもしれない。そんな想いからTomopiiaのプロジェクトに参画することを決めました。
看護師に “何でも話せる” Tomopiiaの特徴とは
──Tomopiiaとは、どのようなサービスなのでしょうか?
がんという疾患を抱えた方のための、LINEを活用した対話サービスです。まるで文通のように、安心していつでもどこからでも、担当の看護師と気軽にコミュニケーションが取れる場を提供しています。
──利用される方の傾向などはありますか?
「がんと共に生きる人」であれば、誰でも利用できるのがTomopiiaです。がんに罹患したばかりの患者さんもいれば、寛解して10年以上経つ方もいらっしゃいます。一見すると対象範囲が広く感じるかもしれませんが、実際はそんなことはありません。
なぜなら、病状の程度によって患者さんの不安や悩みに差が生まれるのではなく、一人ひとりのおかれている背景や価値観に左右されるものだと私たちは考えているからです。
例えば、思春期の子どもにとっては顔のニキビが大問題に感じられるかもしれませんが、親からすれば大してものには映らないかもしれない。
受け止め方は人それぞれだと考えるのであれば、がんに罹患した時期や期間によってTomopiiaの利用者を区別することは、ちょっと違うんじゃないかな……と思うんです。
──実際に利用者と看護師は、どんな対話をするのでしょう?
それも本当にさまざまです。Tomopiiaは医療相談サービスではないので、治療や病状について直接、判断することや指示をすることはできません。ただ、それ以外であれば何でも話していただいて大丈夫です。
治療前の不安を話される患者さんもいらっしゃいましたし、趣味を中心とした雑談をする方もいらっしゃいました。脱毛があった女性の患者さんはウィッグの話で看護師と盛り上がっていましたね。
周りの友人や知人に「これ可愛いい?」とは気軽に聞けなくなってしまったと彼女は話してくれました。相手が自分を気遣ってくれていることはわかるけれど、なんとなく距離を感じてしまい、自分からも声をかけにくくなってしまったというのです。
そういった場面でも、Tomopiiaなら何でも遠慮なく話せる。そんな特徴があると思います。
不安を吐露する場「話を聞く相手がいる」ということ
──Tomopiiaのチャットでの対話は、どのような価値を持つと考えていますか?
自分の中にため込んでしまった感情や瞬間的によぎった不安を、吐き出せる場であることが大きな価値だと思っています。
がんという疾患はほかの病気と異なり、どうしても生死を意識してしまいます。その時に、自分の死生観と向き合うことになる患者さんも多いと思うんです。
看護師が何かできるわけでなかったとしても、「ここにあなたのお話を聞く相手がいるよ」と知ってもらうことに意味があると考えています。
少し専門的な話になりますが、Tomopiiaの対話の世界には「ナラティブ(語り)」というアプローチがあります。
がん患者の方と対話をすると「病気が辛い」という話よりも、初めに自分の幼少期を語り、どんな生き方だったかが語られることがあります。そこに「がんになった自分」が登場するわけです。
ゆっくりと、ていねいに、自分の人生を語る中で「がんになった自分」を受け入れていく。がん患者さんが自分の事を自分の言葉で語る、このプロセスがナラティブです。
しかも文章での対話は、対面での会話と違い、後から自分の文章を読み返すことができます。自伝を書くようなイメージで、自分自身と向き合うことができる過程になっているのだと感じています。
──今のお話を聞き、チャット(文章)で対話をすることのイメージが変わりました。病気になった自分を受け入れるための大切なプロセスなんですね。
私も初めは対面の場での会話をそのまま「チャット(文章)」で実践すればいいと考えていましたが、実はそうではなかったと考えるようになりました。
喋っているだけでは流れてしまう内容も、文字として記録されるので読み返すことができる。伝えた内容を振り返ることができるのは、今の自分を客観的に受け入れる過程でも大きなメリットですよね。
ただ、対話によって患者さんの問題を解決できると考えるのは、看護師として少し傲慢だと思っています。Tomopiiaの対話の中で看護師は『患者さんの役に立てているかどうか?』に目を向けるのではなく、今、そこにいる患者さんのありのままの姿を受け止める事が大切だと考えています。
これからTomopiiaが目指すもの
──これからTomopiiaはどんなサービスを目指すのか、読者にメッセージをお願いします。
がんと診断された時、突然自分の未来が絶たれてしまったような、言いようのない不安に襲われてしまうことは少なくないはずです。だからこそ、1つでも多くのサポートの場があることに越したことはないと思っています。
家族かもしれないし友だちかもしれない、相談窓口や患者会かもしれない。そうした選択肢の中で、Tomopiiaが皆さんの頭の中でふと浮かぶ存在になれたらと思っています。
病院には看護師がおりますが、多くの患者さんを看ている中、忙しそうで、気軽に話しかけることができないと感じることがあるかもしれません。でも本当はゆっくりと時間をとって、がんと共に生きる方との対話がしたいと考えている看護師は多いと思っています。
Tomopiiaはそういった看護師と協力しながら、1人でも多くの方にサービスを届けたいと思っています。そのためにも、もっともっと使いやすくできるよう改善を続けていきます。
どうしようもない孤独や不安があった時に、いつでも対話の時間を持てる、自分だけのとっておきの場所のように感じてもらえるサービスになりたいと考えています。
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