こんなとき、どうすれば…?「1.病気の発覚~入院まで」編(がん告知・・・告知された場合と、されなかった場合
がんを罹患された方の病気が発覚してから、治療・退院・療養を経て新しいライフスタイルを見つけるまでの変遷をイメージすると以下のようになると思います。(必ずこのような形になるとは言えませんが)
ここでは、それぞれの時期に起こりうることや、罹患された方が感じていることについて、ご紹介して参ります。
がん告知・・・告知された場合と、されなかった場合
(文: 訪問看護経験者 すみれナース)
がん告知を受ける人
がんになった時、その事実をお医者さんから、聞くべきか聞かないべきか、考えたことはありましたか?
がんと告知されることは、誰しも考えたくないことかもしれません。しかし、今や生涯でがんに罹患する確率は2人に1人という時代になり、告知について考える機会も増えています。さらに、現在ではがんであると診断された場合、96%の方は告知を受けているのです。
昔はタブーだったがん告知が行われるようになったその背景には、2006年に策定された「がん対策基本法」という法律の「がん対策推進基本計画」で、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す」という目標があげられているからなのです。
もちろん、すべての方に告知されると決められているわけではありません。医師は、患者さんの精神状態など色々な状況を考慮し、倫理的な面も含め総合的に判断して告知しているのです。
しかし、時として罹患者本人とご家族の思いが異なることもあるようです。下記のグラフは、2009年に時事通信社により実施された、がんの告知に関するアンケート調査の結果です。
告知を望むのは、本人が80%なのに対し、家族は40%にとどまっています。この背景には、家族としては本人に告知をすることで辛い思いをさせたくないという気持ちが働くことがあるのではないでしょうか?
また、例えば罹患者本人がお子さんであったりご高齢の方場合は、告知による影響を懸念され望まないケースもあるようです。
私自身、自分の大切な家族ががんに罹患した場合、本人に告知して欲しいかどうか・・・とても難しい課題だなと感じます。
また、今まで看護師として関わっていた中でも、がんの告知をすることについてご家族が悩まれている場面に何度か立ち合ったことがあります。
一般的に告知することが当たり前になって来ているとは言え、いざその時になると告知を望むかどうか、告知することやしないことでどのような影響があるか、整理して考えることが難しいかもしれません。告知することについて、もう少し詳しく解説していきたいと思います。
どんな患者でも告知はするの?
実際は、罹患者がお子さんであっても伝える場合が多いようです。特に年齢が小さい場合は、ご家族がまずは説明を受け、治療について判断していくことが多いと思います。
一方、医療現場では、お子さん自身が自分のことを理解しているかどうかはとても大切だと考えられています。
お子さんの年齢や病状に合わせた説明の方法やどこまで伝えるかなど、十分に相談しながら進めています。場合によっては、絵本やぬいぐるみなど、子どもがイメージできるような工夫がされている病院も沢山あります。
認知症の方に対しても基本的には伝えます。もちろんご本人が意思決定することが難しい場合には、家族が代わって意思決定をする必要もあります。
ただ認知症だから必ずしも未告知とするのではなく、その方の認知症の程度や病状によって個別に判断、相談することになります。罹患者ご本人が高齢で認知症であったり、認知機能が低下している状態である場合には、主治医や看護師に率直にその方の判断能力等について共有しながら、どのように説明するのか、相談して下さいね。
告知しない場合もあるの?
問診表や初期の情報収集の段階で、患者さんが自分にとって悪い情報の知らせを望まないとした場合です。
ただし、この場合、患者さんご本人がなんとなく答えていたり、望ましくない情報に対する恐怖感や不安感が強いことの表れである場合もあります。
そのため、主治医はもう⼀度、患者さんに確認をします。
そこで受け入れることができる⼼理状態か、⾃⾝の病気について知りたいかについても十分確認します。場合によっては、その医療機関のその他の職種とも連携してチームで対応することも多くあります。
そのうえで、患者さんが告知して欲しくない強く主張された際には、もちろん患者さんの意思が尊重されます。また、患者さんの状態を考慮してご家族に相談した際、ご家族が強く望まれた場合に、告知を⾏わないことがあります。
ただし、病名を隠したとしても身体症状は隠れてくれません。ご本人は疑心暗鬼になり、家族や医療者に対して不信感をもってしまうかもしれません。
結果として病気への対処や必要な治療が遅れることになり、然るべき治療を受けるための貴重な時間を逃してしまう恐れもあります。また、本当のことを隠し続けるご家族の精神的負担も大きくなります。
ご家族にはそういったデメリットもしっかりと説明した上で決定します。重要なのは「告知すること」ではなく、「告知することが患者さんのメリットになること」なのです。
彼(敵)を知り己を知れば百戦殆うからず
真実を知ることは辛いことでもありますが、がんは今や不治の病ではありません。乳がんの5年生存率は、ステージIでは100.0%、ステージⅢでも80.0%となっています。
それほどがん治療は進化し、次々と新しい薬や治療法が開発されているのです。だからこそ、きちんと説明を受け、⾃分⾃⾝の病気について正しく知り医師と治療について十分に相談することが大切です。
病気や治療をよく知ることで、治療中、治療後のライフプランも⽴てやすくなり、きっと前向きに治療に取り組むことができるようになるでしょう。「がんを知り、がんの克服を目指す社会」とは、ひとりで病気と闘うのではなく、患者本位のがん医療の実現 と、尊厳を持って安心して暮らせる社会なのです。
参考)がん患者の心理的ケアに関する研究
-がん告知に対する医療者・患者の認識及び看護婦の役割について-
厚⽣労働省のがん対策基本法に基づいた、がん対策推進基本計画でも告知するべきとされています。各病院でも、初対⾯から真実を伝えるよう、がん告知マ ニュアルが作成されています。現在では、告知するかしないかよりも、告知時の体制や告知後のフォローが重視されているのです。
病名告知や病状説明を正しく受けることは、治療の第一歩です。もしもの時の事を考えるきっかけになればと思います。
参考) がん対策推進基本計画について
筆者ご紹介 すみれナースさん
合計臨床経験11年。7年は病院で外科、内科など経験し、訪問看護の世界へ。すみれの花言葉「謙虚誠実」「小さな幸せ」をモットーに働くおっとりナース。一方、一人旅もできる好奇心旺盛タイプ。息子の成長を楽しみにしている一児のママ。