ベンダーロックインを資源依存理論で考察する
エンタープライズITがダメになった理由の一つにベンダーロックインと言われる、ある特定ベンダーへの強度な依存による自社組織の弱体化が挙げられます。情シス子会社についても、親会社がそこに100%依存しておりベンダーロックインの状態です。内製化に再度取り組んだり、ベンダーロックインの解消に取り組む情シス組織も増えています。今回はこのベンダーロックインの解消を経営理論の中の「資源依存理論」をベースに考察して行きます。参考図書は、入山章栄先生の「世界標準の経営理論」です。この理論によりますと、取り得る戦術は3つあります。逆に3つしかない、と考えるとあれこれ悩まなくて済むので楽が出来ます。思考のフレームワークは考える作業を減らしてくれるのです。
3つの戦術とは、①抑圧の軽減、②抑圧の取り込み、③抑圧の吸収です。経営理論そのものの解説は、入山先生の本を皆さんに読んでもらうとして、この3つの戦術をベンダーロックインの解消に援用した際にどのような戦術になるのかを述べて行きます。
①抑圧の軽減
依存度をとにかく下げることです。その為には他のプレーヤーを加える事です。例えばクラウド導入に関してはクラウドネイティブな小さなベンダーと新たな取引を始めることがお勧めです。
AWSを導入する際に、どのクラウドSIベンダーと契約すれば良いのかは、AWSに聞いてもはっきり答えてくれません。ユーザー会に参加して、自社が望む方向性と近い使い方をしている企業から直接話しを聞く、ベンダーの勉強会で自社とフィットしそうな事例をたくさんもっているか確認する、など自分の足で情報を収集する必要があります。
これまでのベンダーロック状況では、新しいテクノロジーに関する情報は、自社の会議室にベンダーが持って来てくれるものでした。これからは違います。自らがユーザー主体のコミュニティに出かけて行って、そこでユーザーに出会い、自らが教えを乞うのです。大企業の社員は30代の若手でもすでにオッサン化しています。ベンダーに対して偉そうに振舞うのがカッコいいと勘違いしている。ロックイン先のベンダーはあなたを神のように扱うかもしれませんが、それはお金がジャブジャブ出る蛇口にあなたが手を掛けているからであって、あなたが優れたエンジニアだからではありません。学ぶことを忘れた大企業のエンジニアは自ら外に出て学び直しましょう。自分を育てるのは自分なのです。
ベンダーロックインから離れるとマルチベンダーに変化します。「ベンダー同士で僕が気持ち良くなるようにいい感じで話し合ってよ。」と思っている甘えた僕ちゃんは、滝に打たれて出直してください。ベンダーを束ねてくれる便利なコンシュルジュはいないのです。自らがタクトを振って、全体をオーケストレーションしなければなりません。あなたがベンダーを選ぶ時代は終わりました。お客様は神様ではないのです。トップクラスのベンダーが客を選ぶ時代なのです。
②抑圧の取り込み
外部抑圧となる相手を自分に引き入れ、味方につける戦術です。ボード・インターロックと言われる戦術で、相手企業の役員を自社の社外取締役等に取り込む戦術です。
依存度の高いITベンダーの社長・会長経験者のような大物OBを自社の社外取締役に向かい入れるような大企業は実際に日本にもあります。大企業の情シス子会社と親会社の間では、立場の弱い情シス子会社側のこの戦略を取って、本社の情シス部長OBを子会社の会長や社外取締役に取り入れることで抑圧の軽減を図っています。日本企業はケイレツと言われる人を介した企業ネットワークの構築には長けており、この抑圧の取り込みは、広く日本企業で行われております。
今後クラウドネイティブな創業IT社長を、伝統的な会社が社外取締役として取り込んで行くような事例が起これば、日本の大企業も大きく変わるのではないでしょうか。現在、大企業の社外取締役の中でDXを理解し語れる人がどれだけいるでしょうか。DXを理解した社外取締役によって経営のリスクとオポチュニティーが見通せるような会社に変化する必要があるのです。
③抑圧の吸収
企業を買収してしまう戦術です。ベンダーと合弁で作った情シス子会社をもう一度本社側に買い戻すことで、ベンダーロックインという抑圧は解消します。私は情シス子会社を清算して解消することを提唱していますが、DXを実現する上での組織的なボトルネットには、この抑圧の吸収が最も強力で最短な対処策だと思います。その上でその情シス子会社の外側にいるベンダーとの関係はゼロベースで見直す事が必要です。
ロックインするぐらいのベンダーとの関係は契約で言えば数年に渡ります。結婚は勢いで出来ますが、離婚には数年かかるものです。離婚に向けた話し合いは出来るだけ早く始めましょう。お金は借金出来ますが、時間は借りる事が出来ません。時間をお金で買う意味で、違約金を払ってでも、情シス子会社はいち早く解消すべきだと考えます。
捨て金の様に思えますが、情シスを軽んじた経営者への罰金でもあり、情シスの重要性を学んだ学習コストだと思えば、経営者として払う価値のあるお金だと思います。
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