秘伝のタレであなたの情シスを人気の繁盛店に

2:6:2の法則と言われる法則があります。働きアリの観察から得られた知見で、全体の2割がハードワークし、6割が普通に働き、残りの2割があまり働かない、と言われています。
情シスが何か新しいツールを導入する際に、常に頭を悩まされる問題が、一部の熱狂的なユーザーから絶賛される反面で「分かりにくい、難しくてついて行けない」という反対勢力が現れる問題です。尖った製品であればあるほどこの反対派の声は大きくなります。
情シス部門はトラブルで怒られる事には慣れている反面、批判耐性が低いため、批判の総量を最小化する為にボトム2割の人たちでも使える製品を選びがちです。その結果、トップ2割の人からは、「もっと良い製品があるのに、情シスがブロックして使えなくなった!」と反発し、情シスを無視して別の製品を導入したり、個人使用という形でシャドーITが広がって行ったりします。

そもそも会社には親子以上の世代差がある人々が働いています。現実の世界を見ても、世の中の人々がどのようなITツールを使いこなすかには多様性とリテラシー格差が存在します。企業情報システムはその様な世の中の多様性やリテラシー格差を無視して、「全体最適」という名のユートピア思想に基づいて、低水準の画一的な仕組みを社員に強制し、結果として会社をディストピア化しています。 会社が提供するITツールのレベルが世間の中央値さえ下回るような事態が起こるのです。

私が考える理想的な進め方は、ボトム2割の人も使える製品を標準サービスとしながらも、それを補完したり、拡張したり、また時には、まるっきり機能が重複していたとしても、トップ2割の人が求めるような新しい製品を常に少しずつ足していく事です。

最近は小粒のSaaSサービスがたくさん出てきました。お試しで使う程度なら無料で利用でき、しかも数人というユーザーでも安価に利用出来ます。そうすると、社員1000人の中の3人が使いたいと言われた時に、効果が確信できれば、その3人の為だけに会社の標準ツールとして導入すれば良いのです。イノベイションを起こすクリエイティブな人たち、中央値から大きく外れているエクストリーム(極端)な人たちをしっかりサポート出来るのです。2:6:2のハイパフォーマー2割の中にいるトップランナーの人たちです。こういう人たちを支援し、ロールモデル化する事で、会社のリテラシーの底上げを図るのです。

私の述べたいポイントが差別的だと誤解されない為に補足しますと、世の中には新型スマートフォンが発売される日に会社を休んで店舗に行列するようなエクストリームな層が少数ですが存在します。そしてそういう人たちは平均的な人からは「変わった人」という見方をされますが、こういう人たちがイノベイションの担い手になり得るので、その人たちに寄り添い、しっかりと支援しましょう、という事がこの記事で伝えたいポイントです。その買ったばかりのスマートフォンで仕事をした方が明らかに生産性は高いわけです。BYODを認めず、「誰もが使える」事を理想として会社が支給したロースペックスマートフォンを強制するのは、ディストピア以外の何ものでもありません。

毎日のように新しいテクノロジーが出てきて、それに呼応するように企業情シスの標準ツールに毎日の様に新しいテクノロジーを追加していく。イメージとしては、美味しい食べ物屋によくある創業当初からの「秘伝のタレ」のイメージです。毎日毎日新しいタレを継ぎ足しながら、お店の伝統を守りつつ、長い年月をかけてお客様の嗜好の変化にも対応しながら変化して行く、そんなエンタープライズITが私の理想です。パソコンが登場してから一般家庭に定着するまでにはおおよそ20年かかりました。日進月歩のテクノロジーですが、大きな潮目の変化を見れば、その定着は比較的ゆったりとした時間軸で流れています。

世の中のITサービスは、一人一人を個性ある個人と扱い、世界に一人しかいないユニークな「私」にフォーカスしてサービスをカスタマイズしようとしています。これが今の世の中のITの普通なのです。全体最適という名で強制される個性を認めない「情シス社会主義」は、会社をディストピア化した後に束の間の安寧が訪れますが、蜂起した民衆による民主化運動のうねりが怒りの臨界点を超えた時に「情シス崩壊」や「情シス追放」に向かうのは歴史の必然です。情シス部門が待遇の悪い子会社にされたり、ベンダーに売り飛ばされるのです。

民衆に振りかざすITガバナンスの刀を置き、民衆が喜ぶ秘伝のタレ作りに毎日汗を流し、あなたの情シスを人気の繁盛店に改革しましょう。



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