トラブルは縁結びの神様

基幹システムの大トラブル。できれば海外では遭遇したくないものです。
とはいえ、交通事故と基幹システムのトラブルでは、幸薄い私自身の経験では、基幹システムのトラブルに遭遇する確率の方が数倍高い、と言えます。海外でつらいのは、特に日本人が一人しかいないような場合、現場での復旧作業、現地幹部への報告、ベンダーへの指示、日本への報告を同時に一人三役も四役もやらなければならない、ということです。

私の最近の経験を述べますと、情報部門責任者として赴任後六日目で基幹システムが停止する、という思い出したくもない大トラブルがありました。まだ前任者からの引継も始まっておらず、業務も人も何も掌握していませんでしたが、見方を変えれば責任者としての登場感のステージとしては絶好の機会を得たとも言えます。またここで失敗をすれば、挽回できないダメージを負うリスクもあります。社長以下全部門責任者を召集して行なう定期的な状況報告会は、その都度現実が予想外な展開を見せ、事態はより深刻化し、絶望と怒りを利用部門にもたらす内容でしたが、私はこれを誰にも頼らず、すべて自分の口から説明し、質問に対しても丁寧に対処して行きました。このときの私の頭にあったのは、「逃げない。向かっていく。全部俺の責任。」という心構えだけでした。トラブルの全容解明と根本的な問題解決への全ステップを打ち終えるまでには、多くの人の協力を得ながら長期間を必要としましたが、この機会を通じて組織内部での求心力を勝ち得るとともに、各部門責任者との深い絆が生まれたように感じております。

実はこの時の私には、すでにお手本がありました。過去担当したあるプロジェクトで、あるシステムが全くデザイン通り動かず大問題に発展し、担当していたIT企業の親会社である米国本社のVPにまでエスカレートされる事態となりました。そのVPは米国から急遽飛んできて、数時間ほど社内で打ち合わせを行なった後に、我々との会議に出席。主に私がこれまでの経緯とそこでの課題、要望と不満を述べたのですが、それに対して彼は非常に細かい内容含めて、すべて一人だけで説明、応対しきったのです。同席した他の幹部連中が一言も言葉を添える必要がないほど、正確かつ詳細に事実内容を静かに丁寧に語り、こちらの感情の高ぶりをしっかりと受け止めながら、誠実な態度で今後の改善を具体的にコミットするその強い姿勢に私は圧倒され、最後はすっかりその方に心酔してしまいました。雨降って地固まる、とはこのことを言うのでしょう。
松下幸之助さんも、「苦情を受けた時は、縁が結ばれる好機」とおっしゃっていますが、まさに縁が結ばれる機会となりました。
私が利用部門にトラブルの説明で対応する際には、その時に味わったあの熱い感じを自分が目の前の人たちに同じように提供できているかを自問自答しています。

トラブルは縁結びの神様です。

システムトラブルが起こったら、「ありがたい。神さまが縁結びのために天から降りて下さった」と発想してみましょう。そうすれば、トラブルはあなたにきっと祝福をもたらすことでしょう。

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