マイナンバーカードの保険証利用の登録解除の理由(案)登録解除は2ヶ月で1万件超
デジタル化という宗教「DX教」が政治と癒着している。デジタル化政策を批判すると「時代を後戻りさせるのか」と異端審問にかけられてしまう。
不確実性の高い時代、デジタル分野の技術革新に期待し、心の安寧のため信仰したくなる気持ちはよくわかる。デジタル庁はミッションに「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を」を掲げるが、そもそもデジタル化によって取り残される人がいることを前提としていない。デジタル化するならば、デジタル化しない余地を残すことが、誰一人取り残されない社会につながる。デジタル化が本質から外れて自己目的化していないか。
政府はマイナンバーカードの普及のため、健康保険証を廃止し、マイナンバーカードの保険証利用(以降「マイナ保険証」)を促す。登録していない場合は、資格確認書を発行して「デジタル化しない余地」を残している。マイナ保険証と資格確認書の併用化による行政コスト増、国民への影響を冷静に分析しなければならない。
厚生労働省は12月19日(木)、10月下旬から受付を開始したマイナ保険証の利用登録の解除申請が11月末までに1万3147件に上ったと公表した。
マイナ保険証のメリット
厚生労働省は利用による4つのメリットを挙げる。
データに基づくより良い医療が受けられる
手続きなしで高額療養費の限度額を超える支払いが免除
マイナポータルで確定申告時に医療費控除が簡単にできる
医療現場で働く人の負担を軽減できる
「医療の質が向上する」、「便利になる」、「コストが減る」といったふれ込みだ。
医療の質が向上するのは先の話
政府は、医療DXの基盤としてマイナ保険証の機能拡充を試みる。
患者が同意した場合、診療情報や過去に処方された薬の情報、特定検診結果、手術歴などを病院や薬局に提供できる。
厚生労働省によると、今後は具体的な傷病名やアレルギー、感染症まで対象を広げる方針だという。
一方で、弁護士JPニュースによると14名の弁護士で組織する「地方自治と地域医療を守る会」は、「個人情報保護」及び「情報プライバシー侵害」の観点からのリスクに対する懸念を指摘する。
医療情報提供に関する同意確認において、「誤って『同意する』のボタンを押したら、前の画面に戻って撤回することができない。しかも、医療機関の内部で情報を見ることができる人の範囲も限定されていない」のだという。
また、マイナポータルで確認できる医療情報は最新情報ではなく、現状、翌々月11日に反映される。厚生労働省は「マイナポータルで確定申告時に医療費控除が簡単にできる」と謳うが、確定申告で還付申告したい場合に少なくとも1月中は医療費の自動入力ができない。
さらに、医療DXの基盤となる電子カルテの普及率は2023年にやっと50%を突破したばかりだ。あたかも横断的にカルテ情報にアクセスできるかのようなマイナ保険証のCMは優良誤認ではないか。
便利にならない
保険証は、医療機関が被保険者資格を確認するためのもの。従来の健康保険証には資格確認に必要な情報がすべて記載されている。
一方で、マイナ保険証には必要な情報のすべてが書かれていない。医療機関に設置された専用のカードリーダーと通信環境が正常に作動して、はじめて資格確認できる。しかし、医療機関によってはカードリーダーを設置していなかったり、設置していてもシステムのトラブル・不具合があったりする。
不具合で一旦患者が10割負担のケースも
全国保険医団体連合会(保団連)による2024年8月~9月の調査では、対象となった1万2,735の医療機関のうち、マイナ保険証のトラブルや不具合があったのは8,929に上った。そのうち52.9%でカードリーダーの接続不良や認証エラーがあった。
資格確認ができない場合のトラブル対応では、「無保険扱い」となり患者が全額立替払い(10割負担)し、後日、健康保険組合に診療費の申請をして自己負担額を除いた分の払い戻しを受けるといった事例も。保団連による2024年5~8月に医療機関で起きたトラブルの調査では、患者に10割負担を求めたケースが669の医療機関で少なくとも計974件あった。
厚生労働省はこうした問題に対応すべく「資格情報のお知らせ」をマイナ保険証ユーザーに交付する。資格確認ができない場合には、この書類を窓口に提示するか、マイナポータルにログインして資格情報を提示する必要がある。
ちなみに、国民健康保険の被保険者の場合、従来の健康保険証は、紛失などによる再発行が窓口交付で最短当日で済むが、保険証利用しているマイナンバーカードは)再発行に最短5日程度(24年12月以降)かかる。より高度な技術が用いられていると発行に時間がかかるが、再発行までに保険診療を受ける際の手続きについては検討が進められているだそう。
コストが増える
厚生労働省が「医療現場で働く人の負担を軽減できる」と豪語する一方で、全保連が2024年8月〜9月に行ったアンケート調査では、対象となった1万2,735の医療機関のうち88%が従来の健康保険証の存続を求めた。
導入費用8,879億円の半分はマイナポイント
他方で、マイナ保険証の導入のための負担は大きい。東京新聞の試算によると、国が2014〜24年度に投じた総コストは、少なくとも8,879億円に上る。総務省によると、2022年1月〜23年9月に実施した「マイナポイント第2弾」で、保険証を理由に6,819万人にポイントを付与。マイナ保険証分の費用は5,106億円だった。
週刊文春は12月18日(水)、マイナ保険証関連事業を受注しているNTTグループと富士通の関連企業と自民党との癒着について報じた。
さらに、自治体の職員への負担は増える。現在、マイナ保険証を持つ人には「資格情報のお知らせ」、持たない人には「資格確認書」を郵送している。『マイナ保険証 6つの嘘』の著者であり、YouTubeチャンネル「哲学系ユーチューバーじゅんちゃん」でマイナ保険証について取り上げる北畑淳也氏は「資格確認の手順が非常に複雑になり、医療機関や保険組合に余計な業務」が発生しているほか、「多発するトラブルの対応に追われて膨大な時間が浪費」されていると指摘する。アメリカの人類学者デヴィッド・グレーバーが「ブルシット・ジョブ」と呼ぶ、何の価値も生まない無駄な業務が、間違った「デジタル化」によって生み出され、デジタル庁や厚生労働省の国家公務員の間でも例外ではないのだと言う。
国家公務員が国民より使ってない
厚生労働省は2024年9月時点での国家公務員共済組合のマイナ保険証の利用率を公表した。国家公務員によるマイナ保険証利用率は13.58%で、国民全体のマイナ保険証利用率の13.87%を0.29%下回る水準である。
国家公務員による、政治主導で進めてきたマイナ保険証へのささやかな抵抗だと捉えたい。
マイナンバーカードの保険証利用の登録解除の理由(案)
国民健康保険の被保険者がマイナ保険証の登録解除をするにあったっては、理由欄が設けられている。
前述を踏まえ、以下に理由(案)を作成したので、申請時にぜひ活用していただきたい。
多くの人の生命・財産を守るために、ぜひとも皆様の周りの方へマイナ保険証の登録解除を勧めてほしい。
優良誤認に厳しい規制官庁・厚生労働省が、優良誤認させかねないCMを流してはならない。デジタル行政がDX教と決別し、「政教分離」されることを望む。