ウォーレン・バフェットが総合商社を買った本質
日経平均が5月中旬に30,000円を超えて以降、2週間足らずで32,000円を超え、本日6/6、円高、米国株安にも関わらず32,500円を超えました。年初来30%上昇に迫る勢いです。
このモメンタムの強さ、押し目のないチャート。
ここ最近、特に4月以降、海外勢を中心に3兆円を切らない売買代金、流動性。
年初来で日経平均のパフォーマンスが米グロース市場NASDAQ並みに強い理由は、様々言われています。
そこで今回はウォーレン・バフェット氏が4月に来日した意味や、
日本の総合商社株を買い増した理由を紐解きながら、今後の日本の先行きについて考えてみたいと思います。
● バフェット氏が商社株を買い始めたのはコロナ禍2020年夏頃と言われています。コロナショックにより世界中の株価は下落しましたが、各国は早期の金融緩和、政策金利引き下げにより、概ね2020年中盤から株価は上がり始めました。
おそらく投資企業バークシャー・ハサウェイ率いるバフェット氏は、コロナにより株価が下がった企業の内、適正価格であるフェアバリューを明らかに下回っている五大総合商社を、価値の見込める企業として選んだのでしょう。
そして今年の4月、コロナ禍以降では始めて来日しました。五大商社の株式を更に買い増し、各社それぞれ9%近くとなり、各企業の経営陣と会談しました。
2020年8月〜今日6/6までの各商社のパフォーマンスは2倍〜5倍に株価は上がっています。
総合商社という業界は日本以外、世界に存在せず海外投資家から理解されづらいと言われます。いわゆるコングロマリットディスカウントと呼ばれます。
つまり多種多様な業界や業態を一つの企業が抱えていて、何が柱の会社なのか分かりづらい事や、それぞれの業務、例えば、エネルギーや食品、繊維、投資業務、コンビニ等など、それぞれがシナジーを生んでいるかどうかが定量的に測りにくい、などが原因で企業価値や株価が低く見積もられてしまいがちです。
日本の総合商社はそういった面で売上や利益、業績に見合った適正評価を受けず、長年低い株価PER、企業価値に甘んじてきたと思われます。
● さて先月行われた恒例のバークシャーハサウェイ株主総会では、バフェット氏が日本の可能性、魅力について言及し話題になりました。
また、今話題で世界一の半導体ファウンダリー企業、台湾最大手TSMCの全株式を売却しました。
台湾有事リスクが原因と言れています。ただ、売却した後もTSMCは素晴らしい会社であると語りました。
世界でチャイナリスクやデカップリングが囁かれる中、ロックダウン明けの中国景気が春以降思うように上がってきません。
そしてアメリカは、欧州同様に高インフレを抑える為、急ピッチに利上げを続け、金融引き締めは2008年リーマンショック直前の政策金利5%を超えてきました。
米景気不安がくすぶる中、今年3月のシリコンバレー銀行破綻など、年後半にかけてアメリカは企業業績やGDPが下がっていくと言われています。
バフェット氏は投資家として、アメリカや中国、欧州に投資しにくい環境の中、比較的安定していて、インフレ率が低く、金融緩和を続けている日本はリスクが低いと判断したのでしょう。
●そして、日本の東証が提唱する資本コスト改善通達(PBR1倍を目指そう運動)や、岸田総理や日銀総裁による賃金アップ要請、
また、コストプッシュによる物価上昇からディマンドプル型の緩やかなインフレにシフトさせる流れ等、長く続いたデフレ経済の転換が始まろうとしています。
2024年NISAの拡充により、貯金から投資への流れも期待されます。
そして日本の昨期企業決算が先月出揃いました。概ね安定した結果でした。
日本は今期予想も悪くないですし、程よい円安がこのまま続けば、上方修正も多く出てきそうです。もちろんアメリカの景気後退リスクはありますが、この一年米国経済の強さを鑑みると、アメリカはソフトランディング、緩やかな景気後退程度で済む可能性さえ指摘され始めています。
個人的にはこの春、日本の賃金アップ4%弱を数十年ぶりに達成した事はこれからの日本にとって大きな意味を持つと思います。中小企業についても予想に反して3%近く上がりました。ボーナスも過去にない上昇率。
来年以降も繋がるのかといった議論がありますが、少子高齢化で人手不足の日本で、賃金が下がるというデフレトレンドは考えづらいと思います。
マクロ経済環境は温まり、賃金と物価が緩やかに上昇しやすい、様々な条件が整ってきた感があります。
●さて、先日JPXプライム150指数という東証が定めた150の企業が発表されました。PBRが1倍以上の75社、ROE8%以上の75社の合わせて150社。プライム市場で時価総額の高い企業から選ばれました。つまり、成長性、収益力のある日本を代表する大企業群です。
ここに日本一時価総額の高いトヨタが入らなかった事が話題となりました。
企業価値、企業規模が大きくても、溜め込んだ自己資本を有効に利益に結びつけられていない企業は、市場から評価されず株価も上がらない。
つまり、従業員に還元するなり、事業を効率化するなり、投資するなりしなさい、無理なら株主に配当なり自社株買い等して還元してください、という東証は異例のメッセージを出しました。
リーマンショックや震災の後、デフレ下の日本は大きな挑戦をしてきませんでした。リスクに備えて現金を溜め込み、賃金アップや株主還元を大胆にしてこなかったのです。
したくてもできなかったのかも知れません。
現状維持を守り、チャレンジを躊躇いました。
成功した起業家、スタートアップ企業は限られ、GAFAM含むアメリカをシリコンバレーを羨望の眼差しで見ているしかなかった。
10年前、日本経済をデフレ経済を何とか立て直したい安倍元総理の号令により、黒田日銀バズーカーで異次元緩和を行い、世界でも前例のないマイナス金利を始めて、市中にお金を大量に供給したにも関わらず、、
賃金は上がらず、デフレはずっと続いてしまい、それは永遠のものとさえ感じていました。その間数回の消費増税を行い、人々のデフレマインドは定着してしまいました。
● さて、個人的にはバフェット氏が投資する総合商社とは日本のマーケットや経済の縮図なのではないかと思います。
貿易だけでなくコンビニ、小売をやったり、宇宙開発、エネルギーの輸入、機械部品、食料、繊維、金融、投資業務などなど、
つまり、総合商社に投資するという事は、日本を丸ごと買うと言うことと同義なのではないかなと感じます。
数兆円の投資をして、日本を訪れ、友好的な姿勢で関係者と交わりました。
それだけ日本の可能性にBETしてくれたのだなと思うと嬉しい気持ちになります。
そして1つの商社を絞って買うのではなく、リスクヘッジの為に5大総合商社を均等に買う辺り、抜かりないなと思います。
● 私はウォーレン・バフェット氏が日本の五大商社を買い増し、数兆円の投資を行っている事は、日本の資本市場や経済環境を評価し、期待し、可能性を信じてくれたのだと思っています。
それは短期的なものではなく、10年スパンでの期待である気がするのです。
彼は70年近く相場の最前線に立ち、酸いも甘いも知り尽くした92歳です。
アメリカで上場している、先見の明のある投資会社の経営者。
成功や失敗を繰り返し、アメリカで企業を成長させてきた当事者。
適正価値を下回っている企業を探す事に人生を捧げてきた第一人者。
バリュー投資家は、強く成長し続ける企業が、安く放置されている事に敏感です。
●最後に、
少子高齢化や財政問題を抱える日本。
デフレからインフレへ向かおうとする分岐点にある日本。
この最後のチャンスを活かさなければ沈没するリスクをはらむ日本。
今日の大相場を見ながら、何か大変革が起きそうな、大きな地殻変動を感じました。
最後までお読み頂きありがとうございました。