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トロント映画祭とSAG-AFTRAのストライキ・カナダ映画業界の確執

 文化的多様性で有名な大都市カナダ・トロント。そのトロントでカナダ女優、ファッションコーディネーター、そしてTIFF常連インタビューアーとして活躍するリンダ・カーターさん。アフリカ系第二世代移民として、40年以上、黒人文化・アフリカ文化にフォーカスし、活動するリンダさんに、SAGストライキによる、TIFFやカナダ産業への影響、そして今後の映画界への視点を伺いました。


Linda V. Carter さん



いつも忙しいリンダさん、最近はどんなプロジェクトに取り組んでいますか?
 
そうですね、演技をしたり、インタビューしたり、スタイリングをしたり、後は、料理ですね。
 
早速、盛りだくさんですね。その中で、特に楽しんでいる事はありますか?
私は、人と繋がり、人を楽しく感じさせる事が好きなんです。
誰かに焦点を当てた時、レッドカーペットでインタビューをしている時、とても強い感情が相手にも私にも流れ込みます。その為には、当然ですがしっかりとした質問を考える必要がありますが、インタビューを通して、人と繋がることに、楽しさを感じます。
 
もう一つ、他人に服を着せ、彼らが予想もしなかったスタイルを考え出すのも好きです。嬉しいサプライズですよね。私は、他の人が、彼ら自身に対し、ポジティブな感情を持たせることが、好きなのです。
同時に、今、私の人生の中で、何をするのが楽しいのか、と自問しているところでもあります。

カナダで黒人初の判事になったお父さんのドキュメンタリーを制作。
"Making of a Judge"


なるほど。そのきっかけは、どこから来たと思いますか?
モデル時代の知り合いのプロデューサーに声をかけられて、ブラックワールドという番組に出演することに興味があるかどうか尋ねられました。
カメラの前で話すのは難しいことでした。モデルはただポーズをするだけですが、この番組では実際に会話をしなければなりません。インタビューをしている時は、相手との距離感がとても親密で、知的なものになります。自分をより曝け出す必要があります。
ブラックワールドというショー番組では、スタジオで様々な人々にただひたすらインタビューをし続けました。主にアフリカ系ディアスポラという背景を持つ人々がやって来て、話を重ねました。
やがて、不幸にも幸いにも、娘が生まれました。
ショーのギャラはたったの 100 ドルでした。1回のショーにつき100ドルです。ですので、もっと他の収入源が必要でした。
演技とモデルを続ける一方、イメージコンサルティングの分野にも進みました。
そして、徐々に、私自身でのインタビューを始めました。
 

モデル時代のリンダさん。多くのファッション雑誌の表紙を飾った。


エンタメ業界は、リンダさんがインタビューを始めた時と現在では、かなり変化してきたのではないのでしょうか?
多様性という観念から見て、当初は白人の世界でした。人種だけでなく、文化的にも、黒人・アフリカ系という存在は珍しい分野でした。
しかし今は、Entertainment Tonight などのメジャーな番組には 2 人の黒人ホストがいます。Bipocへのフォーカスも強まっています。先住民族、肌の色が濃い人、移民など、様々な背景を持つ人が増えてきています。
 
TIFFも変わったと思いますか?
そうですね。昔、TIFFはPlanet Africaというアフリカ系映画専用の部門がありました。トロントにいたアフリカ人がその映画を観に来て、映画祭のパーティーにも参加して、とても素晴らしかったです。それはとても素晴らしかったです。しかし、今はPlanet Africaは無くなり、アフリカ映画はTIFFに他の映画と同じ枠組みで上映・評価されるようになりました。
昨年 のTIFFでも、多くのアフリカの映画が上映されました。

南アフリカの映画”The Umbrella Men”のキャストとのインタビュー現場。
リンダさんのフォーカスは常にアフリカに基づく。


TIFFで日本の映画に関わる機会はありましたか?
毎年、TIFFには提携国があります。ある年はナイジェリアだったし、別の年はチリやブラジルでした。日本と提携していた年もあったと思います。日本の映画は、予想もしていない方向にストーリーが進むことが多いので、見ている時は注意を払う必要があり、観終わった後に深く考えさせられます。
日本は、ジャマイカと非常に密接な関係にもあります。このこともあって、日本の映画には強い興味を持っています。
今年は日本映画がフェスティバルのオープニングを飾ります。しかも有名監督によるアニメーション映画なので、本当にエキサイティングですね。

 


今年のTIFFはいかがでしょうか?
全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキの影響で、今年は特に、いわゆるメジャーなアメリカ人達は映画を宣伝できなくなるので、とても興味深い年になると思います。
脚本家達もストライキをしていますが、そこまでの影響力はないと思います。
よく言われるジョークで「ある女が出世するためにハリウッドに行って、彼女は作家と寝てしまった」という失敗談的なものがあります(苦笑)
TIFFより先にストライキが終わるとは思えないので、メジャーでない映画にスポットライトが当たるかもしれません。
これは大きな変換期です。
つまり、私たちは考え始めなければなりません。
私たちはアメリカ映画が世界の中心であり、アメリカが世界の中心であると考えがちです。しかし、アメリカの映画業界は急速に弱体化しています。
帝国の崩壊を、私たちは、確かに見ていると思います。
カナダの映画業界は存続していますし、ケベックでも映画はたくさん作られています。
カナダだけでなく(ロシア映画はどうなるかわかりませんが)ポルトガル、スペイン、イギリス、ドイツ、南アメリカ、アジア、そしてもちろんアフリカからも素晴らしい映画がたくさん来ます。
 


ストライキは実際に日々の仕事と映画産業にどのような影響を与えていますか?
まあ、仕事がないですね(笑)
カナダの映画産業は麻痺状態にあります。巨額の予算を投じたプロジェクトはアメリカのものが殆どで、カナダは、サービス提供国であることを実際に示していると思います。
カナダはセーターを着たメキシコと呼ばれることもあります。
現状、私たちの仕事の多くはアメリカのものであり、将来的には、私たちカナダ人は、カナダ独自の自律した業界を持つべきだと思います。

 


カナダ映画産業では、ストライキはないのですか?
カナダにはカナダ映画界独自の問題があります。
私は俳優組合の会員です。長い間、40年以上になりますね。アメリカにも行かず、カナダに留まりました。
アメリカのストライキ以前から、カナダ業界では、特にコマーシャルに関して、プロデューサー達と俳優達は確執を抱えてきました。
プロデューサー達はコマーシャルのBuyout(買収)をしたいと考えていて、実際に、何年も前に、俳優組合は全てを台無しにすることを許してしまったのです。
結果、映画やテレビコンテンツの大規模な買収行為が行われる様になりました。
 
Buyout(買収)とは、俳優への支払いが打ち切られるという事でしょうか?
そうですね。映画に出演するギャラが、 1,000 ドルだとします。
理想は、その映画が放送されたり、販売されたりする都度、Residualと呼ばれる、印税のような支払いが発生します。それとは対象的に、支払いが一度きりか数回で終わるBuyout(買収)というシステムが今は主流になってしまいました。
大抵、安価な映画であれば、50% バイアウト、75% バイアウトが発生します。つまり、1,000 ドルのうち 500 ドルほどを得ることができます。Residualの受領は、交渉が上手くいって、3 年か 5 年の期間くらいだと思います。
結果、映画が収益を得る度、Buyout(買収)したプロデューサー達に、利益が出回るようになりました。
 
問題はAIだけではないのですね。
お金の動きが変わってきています。これはあくまでカナダの話ですが、現在100本のコマーシャル案件があるとすると、80%が非労働組合(肌感)です。全体的に低予算の案件が増えています。そして、組合に入っている私は、非労働組合の仕事は受けられません。当然、これらのコマーシャルの中には、Buyout(買収)した購入者を得ているものもあります。ある人は、6,000 ドルのバイアウトを取得しましたが、プロデューサーは、映画を生涯半永久的に使用し、Residualを受領する権利を持っています。
しかし、俳優たちには、もう収入が支払われることはありません。一度契約書に署名すればそれで終わりです。
それが今のアメリカのストライキの問題の一部です。アメリカの俳優業界にはこのBuyoutがありませんでした。彼らは過去の作品から一定の利益が得られます。彼らは、以前、決して買収されませんでした。
私たちは、しかしながら、ほとんど無いも同然です。カナダの組合は本当に私たちをプロデューサー達に売りました。
今回のアメリカのストライキは、俳優が必ずしも意志決定権を持っているわけではないという事実を反映すると思います。作家や俳優達は大規模なプロジェクトでたくさんのお金を稼いでいましたが、Netflix、Hulu、すべてのストリーミングサービスに番組をBuyoutされると、プロヂューサー達にお金が行きます。
これこそが彼らが不満を抱いていることなのです。
テレビシリーズ『This Is Us』のメインキャスト、マンディ・ムーアは撮影中に大金を稼いでいたと確信していましたが、今ではプロデューサーがそれをBuyoutし、Netflixに配信しました。彼女の小切手は 0.81 ドルでした!
彼女は主役でした。お金はどこに消えたのでしょうか?




これこそが、まさに彼らが争っていることなのです。ライター(作家)組合も基本的には同じです。
彼らは番組を制作していたとき、ストリーミング サービスが通常のテレビのようなものになるとは想像していませんでした。結果、プロデューサーがそれに対してどれだけの収入を得ているのかはわかりませんが、これは本質的にストリーミング サービスの影響でもあります。
プロデューサーはたくさんのお金を持っていますが、俳優、つまりギャラをもらっている俳優たちにはそれが降りていきません。彼らは富を独占しているに等しいのです。
 
プロデューサーだけでしょうか? ディレクターもでしょうか?
監督たちは独自に交渉したかもしれません。細かい部分はわかりません。ただ、プロデューサーのメンタリティは、「(ストライキに対して)人々が住む家を失い始めるまで抵抗するつもりだ」と言う考え方です。家ですよ?とても大きな溝があります。
 
カナダの映画産業の将来について、そのような話は誰かとしましたか?
みんな食料品を買うのに苦労して、忙しいですからね(苦笑)
生き残るのに忙しすぎる。
ストライキの後は、深刻な量の仕事が流れ込んでくると多いますが、雲行き的には、新型コロナウイルスみたいにも感じます。コロナ禍ではまだ仕事がありましたが、今はもう仕事がありません。
結果的に、自分の人生を他人に依存したくない、ギャラに依存したくないという様に感じます。
これからは、私自身のコンテンツを作っていきたいし、娘たちにも作ってもらいたいし、一緒に作れたらいいなとも思っています。
そう言い続けて何年も経ちます。
一緒に何かやりましょう。オンラインで一緒に何かやりましょう。とにかく、実行しましょう。そうすることでより強くなり、より自立できるようになると思う。
 



これからは、何を?
私はオンラインで、女性ができる限り美しく着飾る事のお手伝いや、高年齢の女性がショッピング ツアーに参加できる様になるビジネスを考えています。
高齢者がまだ好きなものを望み、追い求めても良いということを気づかせること。女性ができる限り最善を尽くすことを助けること。
こういう形で人助けをしたいと思っています。
同時に、私は人々をドレスアップさせるのが好きですが、同時に労力がかかります。パッシブに、寝ている間にお金を稼げるようなことをしたいと思います。
こういうBe Canadian Niceのエプロンや、ビーバー(名称:ジョージ A.ビーバー。お父さんにちなんで名付けられたもの)、スキンケアなど、いろいろ考えています。


 
ありがとうございました。
 
多彩な知恵と夢を持つリンダさん、今年もtiffにメディア陣の一員として、マイクを持って臨む。

ウェブサイトはこちら
 https://lindavcarter.ca/
 


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