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「封印」 第十九章 任務



 隔離は、過去のサレスに感染した事がない、ワクチンを接種されていない人間を優先的に行われた。
 故に親が隔離された。隔離先では成人、子供、老人が区別されていると聞いた。
 携帯は繋がらず、ニュースも止まり、情報はもうほとんど入らなかった。
 隔離制作開始から一週間、食料は底をついた。配給は来なくなった。そもそも配給されたのは、マンゴーの缶詰と水だけで、アレルギーのある自分は食べることができなかった。缶詰を隣人と交換したが、皆水不足で、やがて電気も止まった。
「必ず支給は行われます! 玄関と窓を閉めて、屋内で待機してください!」
 警官の声と、ヘリの音が耳に響いた。それに反論する、死に物狂いの掠れた声が、ベランダから聞こえた。
「子供が病気なんです!」
「屋内に戻りなさい!」
 数回やりとりがあって、銃声が聞こえた。 
 廊下から、大勢の足音が聞こえた。
「配給者が来たぞ!」「ジープもだ!」「輸送か?」
 玄関をそっと開ける。中庭に、ジープと警官の一団が来ていた。そこに大勢の人間が、銃口を並べる警官達に詰め寄っていた。
「母が病気なんです」
 そう言う子供を、スーツを着た男が押し除け、警官に詰め寄った。
「どう言うことだ。飲み水もトイレもないぞ。お前らの上司に話させろ」
 その男の顔はやつれてはいたが、身なりからして相当な金持ちに見えた。警官はそれでも銃を下さなかった。
「下がってください」
「こんなことしていいと思ってんのか? すぐに首にしてやるからな」
 そこまで言って、男は銃口を掴んだ。警官の拳が、男の顎を打った。警官は空に一発撃ち込んだ。
「全員部屋に戻ってください。順番に配給をします。病人、怪我人にはできる限りの手当を施します。可能でしたら移動もします。遅れて来たことをお詫びします。こちらも最善を尽くしています」
 警官の銃口が空から群衆に向いた。彼らは一目散に部屋に戻った。
 自分も閉めるしかなった。
 配給はついに来なかった。

 狭い、長屋の中を、サバサは進んだ。
「ここの通りを越えたところだ」
 サバサが囁いた。小さく頷きながら、エテューは背後をカバーした。サバサが扉に手をかけた。
 扉が砕け、破片と弾丸がサバサの頭を貫いた。エテューは拳銃の引き金をその扉に向かって弾き続けながら走り込み、後ろ腰のリボルバーを抜きざまに扉を蹴り倒した。
 扉に押し倒された兵士の首を撃ち抜く。
 反乱兵の散弾銃を背負い、拳銃と弾倉を左腰に差し、ナイフと水を手に、サバサの所へ戻る。彼のIDを懐にしまい、彼の装備を装着した__アサルトライフル、ナイフ、防弾ベスト、拳銃、予備拳銃、弾倉…。
「恩にきる」
 水を飲み、アサルトライフルを手に、アパートから出る。
 夜の街は、静かだった。
 サイレンと銃声がまだザヘル感染者達の咆哮に混じって耳に届いた。
 付近一帯の電気は未だに、通りに奇妙な明るさを与えていた。目前に君臨する高層ビルの窓という窓に浮かび上がる明かり。その巨大なビル群の麓に、エテューのアパートはあった。アパートの殆どの窓からも、光は放たれていた。
 そして、影。
 一つの影が、ビルの窓に立つ。エテューが歩を進めるにつれ、その数は増す。
 エテューは振り返った。同じように、背後の高層ビルにも、影、そして影。反乱軍でも、国軍でも住民でもない、影。
 ゆっくりと、エテューは歩みを遅め、ナイフを片手に抜いた。 
 ナイフを逆手に持ち替え、目を閉じ、深く息を吸い、口に含んだ水を吐き捨てる。目の前に、一つの影が、路地の間から歩出てきた。満月に照らし出される感染した瞳は、強く、エテューを捉える。
 笑みと、咆哮。
 通りの真ん中で、エテューは地面を蹴った。
 逆手に握ったナイフが顎を貫通する。
 地面に投げ下ろし、頭を踏み砕く。死んだ感染者は、若い兵士だった。
 ナイフを引き抜き、銃を構える。ビルに浮かび上がっていた影が一度かすかに小さくなったかと思うと、一気に巨大化し、警官と感染者のただ一つの障害物である一枚のガラスを突き破った。
 硝子とともに降り立った影達。
 エテューの弾丸がその影を貫く前に、地上で砕け散り、砕け散らなかった影は、エテューに向かって走り出す。
 背後と左右から迫る感染者達の足と首を撃ち抜き、正面の男の口に銃口を突っ込み、引き金を引きながら、真横からの牙を躱してナイフで腹を割く。
 ナイフはそのまま相手の体に残った。
 拳銃を抜いてその後頭部を撃つ。目前のアパートの窓から走り出す影に、ライフルの弾丸を浴びせながら、正面玄関に転がり込み、拳銃の残弾を追手に撃ち込む。
 ピンクの花柄のエプロンを着た女の顎が、ブーツにぶつかった。
 それを踏み越え、背のショットガンを取り、階段から躍り出る感染者達を射殺する。階段の扉を弾の切れたショットガンで固定し、ライフルと拳銃を再装填して、階段を上がる。
 駆け下る靴、銃弾が肉体と壁を貫く音、笑い声と絶叫が階段を揺らした。
 ライフルに最後の弾倉を装填し、非常階段の扉を閉め、ドアノブを銃床で叩き折る。
 エテューは玄関の前に到達した。
 ライフルを背負い、拳銃を抜き、鍵を取る__ドアは大きく傾いていた__鍵を捨て、ライトを取る。
「エリ!」
 エテューはドアを蹴り倒した。
「エリ!」

#創作大賞2024 #ホラー小説部門  

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