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「封印」 第一章 原初 第一部 伝説

あらすじ
 南の邪悪が封印されてから千年。
 帝国南部の密林で、疫病ザヘルが確認される。感染爆発の危機に、バハイ市警察が国軍出動を要請。  
 国軍兵ザエポロは、製薬会社ダムナグの医療品を摂取したバハイ住人の感染を目撃。ダムナグ社は疫病ザヘルとの関係性を否定しながら、サンプルを入手する為に武装部隊を潜入させる。
 バハイに派遣された公安部のアンサングとイウェンは、ザヘル感染者達の凶暴化と暴徒化を目撃。ダムナグ社の関係性を調べ始める。
 バハイ市警のエテューは感染鎮圧に尽力するが、部隊は壊滅。街が崩壊する中、妻を見つけ様と奔走する。
 事態は、軍、公安警察、ダムナグ社、ザヘル感染者の激戦へと発展していく。

登場人物
アンサング: 公安。元警官。北海人。
イウェン: 公安。東威人。
ライリー: 武装集団エサーグの長。元国軍兵。南耀人。
エテュー: バハイ警官。西栄人。
エリ: エテューの妻。
ヒカズ: エテューの相棒。
ヴァサル: 製薬会社ダムナグ社長。
バイエン: 公安長官。
コウプス: 公安戦術部隊隊長。
デンゼル: 国軍長官。
シエラ: エサーグ人員。ライリーの護衛。
アシュラ:エサーグ指揮官。元東威人刑事。
レオン:エサーグ指揮官。元西栄軍人。
ファザム: 中幻反乱軍長。
シャガル:ダムナグ社傭兵。元軍人。
グランク:ダムナグ社傭兵。元公安暗殺課。
オブスター:ダムナグ社長の護衛。 

用語
帝国:正式名デトナイツ帝国。
大陸: 北海、中幻、東威、西栄、南耀、北海に分かれる。
バハイ: 南耀と中幻の間に位置する港。
ダムナグ社: 北海に本社を置く製薬会社。
サレス:南耀発祥の疫病。全身からの出血、嘔吐、凶暴化、高熱、免疫力の低下を症状とし、高い感染率と致死率を持つ。感染経路は唾液や血液などの体液と粘膜の接触。
ヒポラ: 疫病サレスに対するダムナグ社の新薬。対処療法ではなく、環境療法的な医療技術及び新薬。疾病、遺伝的欠陥、老化に「対処」するのではなく、個々の体をそれぞれの状況に最適化することで克服する。薬学的副作用、拒絶反応が極端に少なく、さらに個々の身体的強化・寿命延長という可能性を含み、軍部と帝国政府が全面的に開発をサポート。
 技術発見から20年経過し、極端な食欲、失語、無痛、体液を通した個々の症状の伝染という患者が南燿で発見され始める。上記症状の発症率は極端に低くも、南耀での寿命延長と経済成長に伴う人口爆発により、その数は増加し始める。

「患者への心得は二つ。助けよ、さもなくば傷つけるな」
ヒポクラテス



第一章 原初

第一部 伝説
 
 暗黒の中で、ゲルドは剣を引き抜いた。耳をつんざくような慟哭と血を凍てつかせる寒気。黒いしぶきを上げ、邪悪は倒れた。
 白む東の空の光を映える刃の、一筋の銀光を最後に、森に潜む邪悪との戦いは終わった。
 腐敗した木々の闇の底に沈んでいく仲間の戦士達の死体と、村人達の残骸を乗り越え、ゲルドは少女の手を取った。
「立てるか? リン」
 立ち上がる少女の後ろに、満身創痍の戦士達は続く。神殿の扉を押し続ける邪悪の影。
 神殿の、鋼の扉はすでに朽ち果てていた。
 隙間から、邪悪が滑り出た。ゲルドが剣を振り上げるよりも速く、戦士の一人が、ゲルドを押しのけ、その邪悪の前に飛び込むや、自らの喉をかっ斬った。無数の邪悪が、闇にこぼれ落ちる血を貪ろうとその血に殺到した。
 朝日が登った。
「扉を!」
 リンの声に、生き残った全ての男達が、新たな、鋼ではなく聖銀の扉を神殿に立てる。その扉の錠に、少女は、呪詛を唱えながら、己の額に、銀の短剣を押し当てた。
 揺れる扉を抑える男達。扉に、切り刻まれた神木と生贄の血、そして油を敷く女達。その背後に、焔をかざす人間達。扉も、人も、邪悪も、少女も、震えた。
 燃え上がる焔と、戦士達の歌声と、邪悪の悲鳴。短剣と振り下ろすと同時に、揺れる焔を通して、少女の深緑の瞳が、ゲルドを貫いた。
「リン!」 
 焔、銀、血、朝日、そして心臓。扉は燃え、そして溶解するように、封印された。
「…リン」
 生き残った人間達は、そこに残る、燃え残った光と闇の残骸を前に、ただ膝をつき、頭を垂れた。
 少女の悲鳴が上がるまでは。
「なんてことを!」
 少女は生きていた。ゲルドの手が、短剣が少女の心臓を貫く前に止めていた。
 リンはゲルドの頬を殴った。そして、封印された扉にすがりつくように、崩れ落ちた。
「すまない…」
 声にならない悲鳴を上げ、リンはゲルドが止めるまで、胸をかきむしった。
「もう遅い。分かってるだろ」
「封印は…未完成…」
 生き残った人間達は、絶句した。ゲルドは額をリンの額に載せた。
「生きていて欲しかったんだ…」
 邪悪を封じ込めるための武器、神殿や扉を作るのに使った聖銀はもう、手に入らない。生贄を揃え、国中にはびこる邪悪や銀を独占する人間達と戦い、神殿を築き、邪悪を追い詰めるまでに、想像を絶する年月と生命が費やされた。
「封印が解けたら…」
「解かせない。俺達が、ここを守るんだ…」
 リンはゲルドを突き放した。封印を解いて、もう一度やり直すことはできない。
 ゲルドは立ち上がった。リンはゲルドを見た。その背後に、腐った森と山の麓から広がる、灰色の世界。人間達に、選択肢はなかった。

#創作大賞2024  #ホラー小説部門  #創作大賞感想  


「封印」 第一章 原初 第二部 遺跡:https://note.com/tomonogi/n/n6eac005dfb31
「封印」 第一章 原初 第三部 邪悪:
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「封印」 第二章 要請:
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「封印」 第三章 調査:
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「封印」 第四章 感染
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 第五章 禍根
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「封印」 第六章 増殖
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 第七章 命令
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「封印」 第八章 命令
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 第九章 反乱
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 第十章 浸透
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 第十一章 変異
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「封印」 第十二章 証言
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 第十三章 軍船
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「封印」 第十四章 氾濫
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 第十五章 遭遇
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 第十六章 災厄
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「封印」 第十七章 激痛
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 第十八章 警察
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「封印」
 第十九章 任務
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「封印」 第二十章 一緒
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「封印」 第二十一章 烈火
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「封印」 第二十二章 劣化
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「封印」 第二十三章 腐敗
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 第二十四章 根拠
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「封印」 第二十五章 解放
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 第二十六章 焼却
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 第二十七章 無実 (終章)
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