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ハクハツ・クルミ・リレー

 じろう君はハンバーグの次に、走ることが好きで、学校から帰ってきてから、毎晩ジョギングをすることを日課としています。あと数日で満月になるであろう半端な月がかすむ11月の夜、じろう君が川沿いの道を走っていると、後ろのほうから、ダッダッダッダ、ザッザッザッザ、とだれかの駆ける足音が近づいてきます。いつもほかに走っている人はいないのにめずらしいな。はて、それにしても大きな足音だ。振り返ると、クルミのような顔の老人が、白髪をなびかせて、めまぐるしいスピードで走ってくるではありませんか。「ハクハツ・クルミ・ダッシュ…」じろう君はつぶやきました。それにしても速いペースです。おや、老人は右手に黄色いリレー用バトンを持っています。世の中にはへんな人が一定数いるから、気を付けなければならない。学校で先生が言ったことをじろう君は思い出しました。人を見かけで判断しちゃダメだけど。ついに老人がじろう君に追いつこうとする時でした。「ハイッ!!」老人は大きな声とともに、バトンをじろう君に差し出しました。じろう君はきっと、びっくりしたことでしょう。でも、その時のことをじろう君はよく覚えていません。なぜなら老人のかけ声に体が自然と反応し、バトンを受け取ったじろう君もまた、ペースを上げて走り始めていたからです。「ファイト!!」と背中を押されるような声が聞こえたかもしれませんが、いまや気にもとめません。老人の気配が感じられなくなってからも、どんどん、もくもく、前だけを見据えて走ります。どんどん、もくもく、ひたむきに走り続けました。孤月が心なしか西に傾き、竹林沿いの遊歩道にさしかかった時、一人のランナーの姿が前方遠くに見えましたが、ペースが遅かったのか、瞬く間に追いつきました。少年だ。おそらく自分よりも50歳ほど若いだろうか。刹那に、じろう君は「ハイッ!!」と彼にバトンを託しました。「ファイト!!」

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