旬杯リレー小説 結
「海と魔法使いと」
「何かお願い事ないですか?」
雄二は海に来ていた。
日焼けするのは苦手だから、
パラソルの下で敷物をひいて、
くつろいでいる。
話が長くなるので省略するが、
さっきから隣に座って雄二に話しかけて来る人がいる。
朝、天気がいいのでこの浜辺に一人で来て、
景色を眺めていた。
すると、いきなり話しかけられた。
「あの、お願い事ありませんか?
私、魔法使いです。
名前は、ミカトです」
人間の年齢で言うと18歳位だろうか。
水色のワンピースを着ている。
「はい?」
雄二はぽかんとしながらミカトを見た。
魔法使いと言っている。
(関わらない方がいいな・・)
すると、ミカトは雄二の顔を覗き込むようにして微笑んだ。
「今日中に誰かのお願い事を叶えなきゃいけないんです。
何かお願い事ありませんか?」
ミカトは懇願するような眼差しをする。
「新手の詐欺ですか?
警察呼びますよ」
雄二は怪訝な表情で言った。
「とんでもないです!
本当に魔法使いなんです。
今日中に誰かの願いを叶えなきゃいけないんです。
上司の魔道士に言われてまして・・」
ミカトは泣きそうな顔になった。
「まあ、暑くなると色々な考え方する人出てきますから」
雄二はクールに言った。
ミカトはグッと顔を近づける。
「もしかして、まだ信じてない・・とか?
あっ、その気持ちわかります。
そうですよね、ちょっと気持ち悪いですよね・・」
ミカトは泣きそうだ。
「じゃあ、試しに何か見せてよ。
魔法使えるんだよね?」
雄二は小馬鹿にするような目でミカトを見た。
「ふふふ、お安い御用です」
ミカトは微笑むと、
指先をピッとした。
すると、敷物の上にサンドイッチが出てきた。
それは、雄二が来る途中にコンビニで買ったものだった。
「えっ?」
雄二が驚いて鞄の中を探ると、
確かにサンドイッチが消えて移動している。
「どうですか?
お店の物とかお金、邪な願いに魔法かけるのは禁じられているんですけど、
そういうの以外でしたら大丈夫ですよ」
ミカトはニコッと笑った。
どうやら本当らしい。
「何か他にお願い事ありませんか?
ある程度叶えないと帰れないんです・・。
お願いします」
ミカトは訴えるように言った。
「じゃあ、お祖母ちゃん、
お祖母ちゃんが入院してるんだ。
何とかしてくれよ」
雄二は水平線を眺めながら言った。
「わかりました!
じゃあ、一緒に叶えましょう!」
ミカトは満面の笑みだ。
「お願い叶えて。
萌え萌えぴゅ〜〜ん!」
ミカトはそう言うと、手でハートの形を作った。
雄二はぽかんとしている。
「あの・・一緒にお願いします。
ハートを合わせてください」
ミカトは少し強めの目線で雄二を見た。
「何だこれ・・」
わけがわからないといった顔をしながら、雄二は手でハートを作るとミカトの手に合わせた。
ファーンとした光が二人を包む。
一瞬眩しかったが、すぐに戻った。
「これで大丈夫ですよ」
ミカトはニッコリと笑った。
その時だった。
雄二のスマホが鳴る。
画面を見ると母親からだ。
(雄二、今どこにいるの?
お祖母ちゃんね、入院してるでしょ。
お医者さんが言うにはね、信じられない回復力だって。
3日後に退院できるそうよ。
後で電話ちょうだいね)
「えっ、あっそう。
うん、わかった今海にいるんだけど、早く帰るから」
雄二は電話を切ると、驚いたようにミカトを見た。
「よかったですね。
お願い事は必ず叶うものですから」
ミカトは嬉しそうに言った。
「じゃあ、私はここで失礼しますね。
どうもありがとう」
ミカトが徐々に薄く消えかけていく。
「えっ?待ってミカト」
雄二が悲しそうな顔をする。
「願いを叶えたらすぐに帰らなきゃいけないんです。
ゴメンナサイ。
会えてよかったです」
ミカトが微笑むと、すうっと消えた。
雄二はしばらく、そこに佇んでいた。
パラソルの端が風にゆれている。
数日後。
雄二はいつも通りに朝を迎えた。
今日も日差しが強い。
ピンポーン
インターホンがなった。
朝から誰だろうと寝癖がついた頭をなでながら、
ドアを開けた。
「はい、・・・・えっ?」
ミカトが立っていた。
この前のワンピースとは違う、
なんというか薄く紫がかった荘厳な衣装。
「今日からあなたの専属魔道士となります。
ミカトです。
ご主人様を邪気よりお守りするのが我が使命。
どんな魔性も我ら魔道士の作る結界より入ることはできません」
そう言うとミカトは少しクールな眼差しで微笑んだ。
雄二は一瞬で目が覚めた。
何だか面白いなと思える。
蝉の鳴き声が響き渡るそんな朝。
まだまだ夏は終わってくれないようだ。