しゅんしゅんぽんに参加します
しゅんしゅんぽん:
元の俳句:
烏龍茶飲み干す速さ競う夏 竹原なつ美 様
「グラス一杯の涼み」
奈緒はグラスを見つめていた。
冷えた烏龍茶。
それは、夏を彩る。
ある時は、疲れを癒やし、
またある時は喉を潤し、
時には友人と水羊羹や水饅頭を頬張りながらなんていうのも楽しい。
今日の奈緒は真剣だった。
ここは、第25回 全国烏龍茶早飲み選手権の会場。
奈緒は決勝まで残った。
昨年は3位。
悔しい思いをした。
だから、何としてでも優勝したい。
集中力が高まっていく。
緊張しているのかグラスも汗をかいている。
奈緒は練習の日々を思い出していた。
グラスは指4本で優しく掴み、
小指をグラスの底に添える感じで持つ。
一口の量を少なくして、素早く流し込むのがコツだ。
(負けられない・・)
奈緒はキラリと瞳を光らせた。
スタート時間のカウントダウンが始まる。
そして、スタートと同時にグラスを口へと運んだ。
その時、家の玄関の扉が開き、
奈緒の母親が帰ってきた。
奈緒を見た母親が顔色を変える。
「ちょっ!奈緒!それ!」
母親が奈緒に駆け寄る。
奈緒はグラスを傾けて飲もうとしていた。
「ぶへっ!えぅ!ごほっごほっ!」
奈緒は今飲んだ液体に違和感を感じて、
思い切り吐き出した。
母親は呆れたように奈緒を見ている。
「あんた、それ麺つゆ」
奈緒は咳き込みながらテーブルを拭いた。
「お母さん、これ何で麺つゆ」
奈緒は苦々しい表情だ。
「うん、まさか飲むとは思わなかったから」
母親はくすっと笑った。
「あぁ〜、もう、せっかくの烏龍茶早飲み選手権が・・・」
奈緒は残念そうな顔をした。
「奈緒、小説のネタもいいけど、宿題もやりなさいね」
母親はたしなめるように言った。
奈緒は冷蔵庫から烏龍茶を取り出すと、
新しいグラスに注いだ。
(今度は、ゆっくり飲もう)
烏龍茶が一口ずつ喉元を通過していく。
窓の外は青空。
蝉が鳴いていた。