うたスト小説〜曲G
「君のいる街水色」
4畳半の部屋で1人の男性が頭を抱えていた。
「またかよ!」
男性は25歳くらいだ。
何やら紙を見ながら苛立っている。
男性は音楽を志すミュージシャンだ。
と言っても、まだ所属先も決まらずにいる。
先程もオーディションの落選通知が届いたばかりだ。
「どいつもこいつも、本当見る目ないな。
向こうが時代遅れだろ」
男性はヤケッパチだった。
「ほ〜ら、また怒ってる」
台所にいて洗い物をしていた女性が男性の側へ来た。
男性と住む恋人だ。
「あいつらが見る目ないんだ。
結構作り込んだのに」
男性は髪の毛をクシャクシャさせた。
女性はそんな気持ちを知ってか知らずか、
平然としている。
男性のいつものパターンだからだ。
「そんなこと言ったってしょうがないよ。
オーディションって難しいんでしょ?」
女性が少し微笑んだ。
「早くしないといい歳だし、周りも俺くらいの奴音楽辞めてるしさ。
だいたい、俺音楽以外何もできねぇし」
男性はうなだれた。
「なぁに言ってんだか。全然ロックじゃないね。
もっとあなたらしく、今は休憩。
はい、お茶」
女性は甲斐甲斐しく男性に差し出した。
「はぁ・・格好悪ぃな・・」
男性はため息混じりでつぶやいた。
すると、女性が男性の背中にそっと顔を埋めた。
「何も無くても悩んでても、あなたが好きだよ。
私はあなたの音楽も好き。
今のあなたも大好き」
女性は優しかった。
というか、いつも支えてくれている。
男性は、いつもこうされるとゴチャゴチャした気持ちが落ち着く。
「うん、ありがとう。
俺も君が好き。
本当はずっと一緒がいい」
男性はそう言うと、少し泣いた。
男性が後ろを振り向くと、
台の上に微笑みを浮かべた女性の写真が置かれていた。
「君がこの世界からいなくなってだいぶ経つね。
でも俺、生きるよ。
君の分と俺の分。
どんなに時間が過ぎても君との想い出は消えないから」
男性は写真の女性に微笑んだ。
窓の外は透き通った空が見える。
七色の音が響くこの街は水色に染まっている。
まるで、新進気鋭の芸術家が描いた絵のようだ。