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トランプ大統領の貿易戦争とインフレリスク


関税戦争はインフレ要因

INGのグローバル・マクロ研究責任者であるカーステン・ブレゼスキ氏は、「関税戦争は間違いなくインフレを引き起こす。これは議論の余地がない」と述べ、過去のインフレショックや構造的な問題(高齢化社会や気候変動)も影響すると指摘しました

過去の関税戦争が引き起こしたインフレの具体例

1. 1930年代 スムート・ホーリー関税法(アメリカ)

  • 概要: 1930年にアメリカで制定されたスムート・ホーリー関税法は、20,000を超える輸入品に高い関税を課すものでした。この措置は世界恐慌下で国内産業を保護するために取られましたが、逆にインフレと貿易の停滞を招きました。

  • 影響: 貿易相手国が報復として関税を引き上げたため、物価が高騰し、アメリカ国内では消費財の価格が上昇。これにより一般消費者の生活が悪化し、経済回復がさらに遅れました。

2. 1970年代 原油価格ショック

  • 概要: 中東の石油輸出国機構(OPEC)が1973年、アメリカや西側諸国に対する原油輸出を制限し、原油価格が急騰しました。この際、エネルギーに高い輸入関税を課していた国々でインフレが急加速しました。

  • 影響: 燃料や輸送コストが高騰し、食料や製品の価格が連鎖的に上昇しました。結果として、「スタグフレーション」(インフレと経済停滞の同時進行)が顕著となり、各国中央銀行が引き締め政策を余儀なくされました。

3. 2018年~2020年 米中貿易戦争

  • 概要: トランプ政権が中国からの輸入品に対して大規模な関税を課し、中国も報復として米国産品に関税を引き上げました。両国間での貿易摩擦が激化し、世界のサプライチェーンが影響を受けました。

  • 影響: アメリカ国内では輸入品の価格上昇が消費者物価に直接的な影響を与え、農産品や工業製品の価格が高騰しました。また、関税によるコスト増加が企業の生産活動を圧迫し、間接的なインフレ要因ともなりました。

総括

これらの事例からもわかるように、関税戦争がもたらすインフレは物価上昇に加え、経済全体に深刻な影響を与える可能性があります。

関税戦争によってインフレが直接的に発生しなかった、あるいは限定的な影響にとどまったケース

ただし、こうしたケースは他の経済要因(デフレ圧力や需給バランスの変化)が影響した結果であり、一般的には例外的です。

1. 1960年代 カナダとアメリカ間の貿易摩擦

  • 概要: 1960年代、アメリカとカナダ間で木材、農産品、鉄鋼など一部の産品に関する関税問題が発生しましたが、大規模なインフレにはつながりませんでした。

  • 理由: 当時は世界全体で供給力が高く、特にカナダ国内市場が小規模であったため、アメリカへの輸出規制が大きな物価上昇に発展しませんでした。また、北米自由貿易協定(NAFTA)前の段階で、報復関税が緩和されました。

2. 2010年代 EUとロシア間の農産品貿易制限

  • 概要: 2014年、ロシアによるクリミア併合を受けてEUが経済制裁を行い、ロシアもEUからの農産品輸入を制限しました。しかし、インフレにはつながりませんでした。

  • 理由: ロシアは国内で農産品の代替供給を強化し、輸入に依存しない形で市場を調整しました。一方で、EU諸国は他国への輸出先を確保するなどの適応策を取り、物価の急上昇を抑えました。

3. 1980年代 日本とアメリカの自動車貿易摩擦

  • 概要: アメリカは日本製自動車の輸入増加に対し、輸入制限や非関税措置を講じましたが、国内のインフレは小幅にとどまりました。

  • 理由: アメリカ国内では日本からの輸入車に依存しない形で国内自動車メーカーの供給が維持されていたため、需要不足が発生せず、価格圧力は限定的でした。また、日本側が輸出制限に同意したため、報復関税が最小限に抑えられました。

総括

インフレに発展しなかった場合は、通常、以下のような要因が影響しています:

  • 供給の柔軟性: 国内市場での代替品供給が迅速に行われた場合。

  • 報復措置の回避: 双方が貿易戦争の深刻化を回避し、関税措置が軽減された場合。

  • デフレ要因: 世界経済にデフレ圧力がかかっている場合、関税によるインフレ効果が相殺されることもあります。

このように、関税戦争が必ずしもインフレを引き起こすわけではありませんが、これは例外的なケースであり、多くの場合、インフレ圧力が発生するリスクは高いと言えます。


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