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変えられない現実に、どう向き合うか。「犬部!」鑑賞
人間と関わることで、動物の幸せも不幸せも生まれている。
飼育員さんを取材させてもらって、そのような感想を持っている私としては、この映画は見なくてはならない作品でした。
北里大学に実際に存在したサークル活動をモデルに書き起こされた映画。動物たちの命の”利用”をテーマに、それぞれの方法で命に向き合う若き獣医師たちの物語です。
観賞後、予想通りというか予想に反してというか、想像していたさわやかな青春ドラマの幻影は見事に打ち砕かれました。
飼い主を失った犬たちの殺処分。
獣医師を育てるための生体実験。
人の都合で使い捨てされる動物たちの運命を、真っ向から描いていることに、やや驚きます。
「動物愛護」をいい感じの映像だけで表現するのではなく、現場への取材を重ね、現実を直視しようとする、撮影班の覚悟が感じられました。
「フィクション」と注意書きはありますが、背負っているテーマはとてもリアルで、生々しい。
林遣都さんや中川大志さんら、俳優さんらの爽やかで熱のこもる演技が、どろどろしたものをかき消してくれたような気もします。
命に向き合っていると、「変えられない現実」にぶち当たることがあります。
動物の命によって、人は幸せをもらい、その幸せによって、動物たちが苦しむ現実。
この映画の美しさは、そこに、それぞれの考え方、それぞれの方法を選びながら、ただ自分の足で歩こうとする獣医たちがいるということを、まっすぐに描いているところだと思いました。
「みんな、いい犬だ!」
私には、主人公がこう声を上げるシーンが、心に残ります。
子犬でも、老犬でも、足がうまく動かせない犬でも、「みんないい犬だ!」。そう言い放つ主人公の強さ、無鉄砲さが、眩しかった。
役者たちの素晴らしい演技もあって、その言葉が嘘ではなく、どんな生き物も、命有る存在は一つ残らず、「いい」のだと言われているような。
私は、動物をかわいがったことも、親しくさせてもらったこともありません。だから、動物と出会うのが今更怖いし、別れなんてとんでもない、わざわざ飼って、それを経験したくもないとも思っている。
でも、私にも犬や猫がいる生活が、あってもいいのかもしれない。飼うなら保護犬で。
観賞後、そんなことを思った自分が一番意外でした。
それは、「全米が泣いた!」みたいな感動を作ろうとしたからではなく、現実を丁寧に描き、それによって課題をみんなに優しく共有してくれたからなんだと思います。
ごろりと心の中に残る気持ちの正体が、何かはまだわからないけれど、
犬たちを含めた俳優陣が一体となって、
さあ、ここから、あなたはどうする? とさわやかに軽やかに、問うてくれている気がする。
モデルとなった実在の獣医さんのインタビューを読んで、そんな思いをさらに強くした次第です。
製作に携わったみなさんの、誠実さに感謝でいっぱい。公開、ありがとうございます。
ピンときた方は、劇場でぜひ。
原作はこちら。