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「愛してる」と言える日が来るなんて。今夏、子どもを産みました
朝起きたら、隣にいつも赤子がいる。ずっとずっと会いたかった、私の子。生後1ヶ月の終わり頃から、少しずつ笑うようになってきて、その笑顔を見るたびに、こんなにも嬉しいものだったのかと驚きが隠せない。
世界に、こんな種類の幸せがまだ残っていたなんて。
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その先にもっと小さな爪たちが、けれどきちんとついているなんて
子育てをしている人は、みんなこの幸せを知っていたの? 世界を旅していた頃は、気づかなかった。
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「もしかしたら、私の人生の未来にも」と微かには思っていたかもしれないけれど、「今だ」とは到底決められず、「私は私の人生を生きるの」とずるずる30代半ばになった頃には、妊娠がそんなに簡単じゃないという現実にも直面した。
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photo by 古性のち
願い続けて、早数年。
私はずっと、あなたに会いたかったのね。スペインの海岸線で物思いに耽ったあの朝も。ペルーのマチュピチュで風に吹かれて昼寝をしていたあの昼も。モロッコの満月の夜、砂漠を歩き、そのひんやりした感触を足裏でしっかり感じた夜も。
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私は誰かを探していたの。まるで週末のスクランブル交差点の一瞬に、まだ見ぬ誰かの横顔を見つけたいとでも言うように。
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ようこそ世界へ、これからどうぞよろしくね
あなたは、私の中にいたのね。小さなちいさな、けれど力強い生まれたての男の子。私の目の前で空を蹴るその両足は、ほんの3ヶ月前まで私のお腹の中で私の横腹を蹴っていて。
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今でも、ふとした瞬間涙が出る。無事に生まれてきてくれて、元気にすくすくと育ってくれて、私たちにたくさんの幸せを、ありがとう。
愛してる、と頭が考えるより先に言う。口から愛しい言葉が次々と滑り出す。
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抱いてもらうことができて、よかった
1年前の今日は、まだ影も形もなかった私の子。1年前の今頃は、スペインにポルトガルにハワイに沖縄、まだ旅する仕事も趣味の移動も全力だった。
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あの秋の終わりの日、お腹に命が宿っているのかも、と知ってから。世界がすっかり変わった、とはまだ言わない。多分変わったのは世界じゃなくて私自身。
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愛してる、とまだ誰にもちゃんと言ったことがなかったの。二度も結婚したのにね。胸を張って言えなかった。愛することがどんなことか、指先をこぼれていく雫のように、捉えることができなくて。
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世界に、こんな幸せがあるなんて。2023年のとても暑い夏の日に、あたらしい命を迎えました。
(信じられないくらい辛かったし、一生あの痛みと産後の壮絶さは忘れてやらないけれど! もう心の底から可愛過ぎて、子どもは望んでも1人だと思っていたのに、気持ち的にはもう2人目がほしいくらい)
名前は「耀(よう)」です。かがやく、日々。風の名前も音の名前も考えたけど。風より音より速く遠く、光のあなたは、きっと私の知らない世界にも行けるはず。
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妊娠日記(200days diary)
子どもが産まれるまでの特別な日々を忘れないために
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