旅に出ると決めた心が、次の舞台に連れて行ってくれること【日本→タイ→スリランカ】
長くながく、私はずっと迷っていて、踏ん切りがつかなくて、迷路みたいな小さな道を歩いていた。ううん、迷路なんかじゃなかった。それはいくつか分かれ道が時折あるだけで、そしてその道がしばらく今後、交わらないように見えているだけで。
ううん、きっとどの道を選んでも「同じような場所にたどり着くのが人生」だろうとは知っていた。けれど「すぐ先の未来の変化」がどうしてだかすごく怖くて、それをこの数年愛していたはずなのに、私はずっと、足踏みしてた。
それでも、「今歩いている道を、そのまま行くこと」が最も怖いことだと感じてもいた。そして私は、「答えが出せない私」にひたすら嫌気がさして、こともあろうか、いつも通り旅に出ることにした、のだ。
どうしようもなく背中に荷物があるときに、「置いていっていいよ」と言ってくれるのは、いつも旅と飛行機だ。海を超える時に、「次に陸に着いた時に、必要なものだけ持ちなさい」という空と雲。難儀な性格だなぁ、と思う。それを見守ってくれる恋人が、じつは一番難儀なんじゃないかという気持ちが、また私を惑わせる。
たどり着いたのは、インド洋に浮かぶ島国だった。スリランカ。いつからか行ってみたくて、もう行き尽くしてしまったかのように見えるアジアの中で、その島だけ「まだ来てないよ」と光っていて。
祈りの声が響く街。緑が深く、海が輝き、人々は優しく微笑み、アーユルヴェーダが心と体を解きほぐしてゆく。インドに行ったことは、あるだろうか? あの国はとてもエキサイティングで、予想を裏切る数々にあふれていて、それでいて旅人を惹きつけてやまない国だった。あの国ほど、「そんなことある」に囲まれる国はない。私は手放しで、「また行きたい」とは2年くらい言えなかった。多分今は、あの刺激が緩和されて、ちょっと忘れてしまったからこそ「インド行きたい」なんて簡単に言えるのだろう。
スリランカは、その「驚き」が軽減された、穏やかなインドのような国だった。私の記憶を借りれば、「ラオス・ルアンパバーン」や「ミャンマー全域」「インドネシア・ウブド」に似ている、という仮定になる。
経済都市・コロンボ。発展途上国のそれさながら、工事中の大きな建物が、昼夜問わず「大きくなっていくのだ」と叫ぶ。その中で静かに佇む寺院、湖、信仰の魂たち。「ここから物語は始まるのだ」と言わんばかりの選択肢にあふれ。
シンハラ王国の王都として長らく栄えた、世界遺産の古都・キャンディ。緑濃く山は奥へ、川は流れ、湖は世界中から訪れる観光客の足音を映す。「スリランカはパラダイスだ」。その隠れた主語は、きっと「キャンディこそが」と住民は思っているのだろう。もしかしたら沈没というのは、こういう感情から始まるのかもしれないと思った。それはオーストラリア・バイロンベイに続く人生2回目の、私にとっては珍しい感情で。
スリランカ観光のハイライト・シーギリヤロックにも私は登る。「世界登ってよかった場所ベスト3」には入ってしまうんでなかろうかと思う、健やかな空気流れるその岩の頂上は、その昔一つの街が建てられていた場所。
世界へ名を轟かせる、ジェフリー・バワ。その最高建築と謳われる「ヘリランス・カンダラマ」で、インフィニティプールの生まれた瞬間を見る。自然と造形の溶け合うその様は、私たちの暮らしと仕事が混ざり合い、美しくなってゆくその過程にどこか似る。
波の音が聞こえる。ここも世界遺産の、海辺の街・ゴール。外壁に囲まれた小さな街並みと、ポルトガル統治時代の面影を感じさせるコロニアル建築は、やっぱりどこかルアンパバーンや、はたまたベトナム・ホイアンの少し華やかな夜のそれを思い起こさせる。人々は人懐こく笑う。私はそれに包み込まれるように、少しずつ木漏れ日と、日差しの暖かさ、夏の香りに身を浸してゆく。
そして私は、旅の最後に、海辺の小さな、日本人なんか一人もいない、小さなちいさな波が私を抱くホテルを選ぶ。もっと行きたい場所があった、デトックス効果のあるアーユルヴェーダも、もっと堪能したい。けれど今回は、それよりも。波の音に24時間揺れられて、思考回路をもう一度正して、「さぁもう一度」と前を向くための大切な時間を私に与える。ご褒美でもなんでもなく、「必要だから」とこの場所を選ぶ。
スリランカ。きっとあまり、みんなイメージのない国なのだろうと思う。私も実際に来るまで、よくわかっていなかった。この国は、「変わりゆく」国だ。ここまで「未開の地」が多いのに、外国人が、日本人が好きそうな要素が散りばめられている島なのは、単純にすごく可能性しか感じないな、と思った。
もっと、それを伝えたいと思った。あんなに迷っていたのに、旅を進めるうち、私の体と心からは何か憑き物が落ちたように、まるで空の上を経由したかのように、1日、1日、軽くなってきた。そんな魔法が、あっていいのだろうか。それともこれはただの夢なのか。否、結果を決めるのは帰国してからの私次第で。
心地よい夜の風が、スリランカと私を吹いてゆく。3月12日の夜が更ける。明日もまた、太陽が昇るのであれば。
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