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マスタリングエンジニアが2024年に買ったプラグインたちを紹介するで

年の瀬でありんすね。今年2024年にワイが買ったプラグインを紹介するで。ぼくはなんでもかんでも買うタイプではなくて、基本的にかならずデモ使用して、道具としての使い道がちゃんと想定できるものしか買わないタイプです。

1.PROCESS.AUDIO『Sugar』(定価$149)

https://process.audio/en/products/sugar

『Sugar』たんは4バンドのマルチバンド・エンハンサープラグイン。Low/Mid/Hi/Air 4バンドのクロスオーバー周波数は完全に固定で、動かすことはできない。だがそこがいい(考えなくていいので)。4バンドそれぞれにトーンの異なる2種類のモードが選べるようになっていて、総じて左側が柔らかい傾向のモード、右側が強い傾向のモードになっている。4バンドの周波数は固定なので、各バンドのモードを選んだらフェーダーを良い感じのところまで上げる!というのが基本的な使い方という、細かい設定項目などはいっさい省いた、基本的にパラレル処理を前提とした設計になっている。

Sugarたんとの馴れ初めは、トップエンド(超高音域)を固く感じさせずに伸ばすためのものを探していたところマッチング。「Air」バンドのモード名は「yin/yang(陰/陽)」になっていて、なんかそこだけミステリアス纏ってるのも良い。お付き合いしてみたら「Air」バンドだけでなく「Low」バンドへの効きも良かった!「Mid」「High」はバイパスしちゃうことも多いかな。これが今年のベストバイかなあ!

2.TOKYO DAWN LABS『TDR Special Filters Bundle』(定価€80)

https://www.tokyodawn.net/tdr-special-filters-bundle/

『TDR Special Filters Bundle』は4種類のフィルタープラグインがバンドルされたやつで、ぼくが一番使うのは「スペクトル・バランサー」を謳う「TDR Arbiter」。要は出たとこ抑える系のプラグインで自分は2.5kHz前後や10〜12kHzの制御で使うことが多いけど、プラグインとしては20Hz〜20kHzまで全帯域で使用できるので膨らんだ低音やボーカルの吹かれへの対処などにも使えます。あるとき気がついたら(というか自分はぜんぜん気がついてなかったけどエンジニアの田口黎くんが教えてくれた)突然3バンドまで使えるようになっててめちゃめちゃ使いやすくなった。神アプデというやつだ。ハイパスフィルターの「TDR Infrasonic」も効きもいいし、フィルターにしてはめずらしい可変の「Dynamic Bumpモード」も面白い。このバンドルはレコード用のプリマスタリングにも大活躍!

3.Softube『Clipper』(定価$79)

https://www.softube.com/clipper

みんな大好きSoftubeがリリースした『Clipper』はその名の通りクリッパープラグインで、一番の特徴はめずらしいRMS検知のクリッパーモードがあること。例えば弾き語り曲でボーカルにクリッパーを当てたいと思っても、普通のピーク検知では楽器のアタック部に強くクリッパーがかかってしまうところを、RMS検知だとそうはならない。というわけでRMS検知のクリッパーが使いたい場合のチョイスとして。あとフィルター機能でクリッパーをかける周波数帯域を絞り込めるのもよき。

4.RAISING JAKE STUDIOS『SubMassive』(定価$39.95)

https://www.raisingjakestudios.com/utility%20and%20fx.html

『SubMassive』はサブハーモニクス・ジェネレーター、このプラグインは音源に対して1オクターブ下の低音を生成して付加する。生成したい周波数を設定してレベルを調整するのが基本オペレーション。そしてこのプラグインがユニークなのは生成した低音の発音タイミングを前後にずらしたり、位相を反転させることもできること。その操作はまさに物理的にサブウーハースピーカーの設置位置を調整するみたいな感覚で、自分的には非常にしっくりくる。注意点としては生成した低音は−15dBまでしかレベルが絞れないので、大袈裟にかけすぎてしまわないように気をつける。マスタリングでは楽曲全体に通して使用するよりも、使う箇所を絞ってポイントで使用するほうが効果的なことも。

5.iZotope『Plasma』(定価$49)

https://www.izotope.jp/jp/products/plasma/

『Plasma』はiZotopeの新しいインテリジェントシリーズの、サチュレータープラグイン。iZotopeのプラグインの中ではお手軽操作系にデザインされていて、あらかじめ用意されたモードを選択して、ノブを上げてかける強さを決めるだけ。サチュレーターにはめずらしい「Attack/Release」パラメーターがあるのも特徴で、自分はどちらも200くらいがデフォルトの数値になっている。さらにiZotopeならではの「Transient/Sustain」に異なるパラメーターを設定できるのが自分が1番気に入っているところ。エフェクト成分だけにかかるハイパス/ローパスフィルターがあるのもシンプルなデザインながらちゃんと考えられていていいね。

6.UVI『Tape Suite』(定価$99)

https://www.uvi.net/tape-suite

『Tape Suite』は「Tape Delay」「Tape Flanger」「Tape Chorus」「Tape Color」の4つのプラグインがバンドルされたお品。4つのうち3つはディレイとモジュレーションなので、ぼくがマスタリングで使うのは音色調整特化の「Tape Color」のみになりんす。詳しくはこちらのnote記事にて

7.KIT Plugins『NOIZ One Series D Bundle』(定価$119.99)

https://kitplugins.com/products/noiz-one-series-d-bundle

『NOIZ One Series D Bundle』は名前のとおりワンノブ系のサチュレーター3種がバンドルされたやつで、同KIT PluginsがリリースしているNeveのマイクプリ「BB N73」、Neveのチャンネルストリップ「BB N105」、APIのチャンネルストリップ「BB A5」のプリアンプ部だけを取り出したやつ。その分お値段も操作性も優しくなっている。がしかし!ぼくが1番気に入っているのはハイパス/ローパスフィルターを組み合わせて特定の周波数帯域のみにエフェクトを当てられること!この機能はアナログ系のサチュレーターでは意外とありそうでなかった。ただしこのフィルターは「MIX」数値が大きいと音全体への影響が出てしまうため、「MIX」は数パーセントとかなり小さい数値でのパラレルプロセッシングで使用する(例えば「MIX」100パーセントでハイパスフィルターを上げると普通にスッカスカになる)。掛かりの強さを決める真ん中のでかノブも、マスタリング的には効きすぎちゃうのでこっちもほぼ数パーセントで使用。ほんーの少しを高域だけ、あるいは低域だけにブレンドするだけで結構変わるものなのだ。なおこの「KIT Plugin」というメーカーはTシャツなどのロゴ入りアパレルだけでなくなぜかグラスとかも販売している。何度かカートに入れるとこまではやってる。

8.MIXLAND『3348 TAPE』(定価$49.99)

『3348 TAPE』は1990年代のレコーディングスタジオでのマルチトラック録音の標準機、ソニーのデジタルマルチトラックテープレコーダー「PCM-3348」のサウンドをシミュレーションしたプラグイン。「3348」だけでなく「3348HR(ソニーPCM-3348HR、3348の24ビット録音対応版)」「X80(MITSUBISHI X80)」「601(ソニーPCM-601)」「701(ソニーPCM-701)」「DA88(TASCAM DA-88)」「1630(ソニーPCM-1630)」と7種のAD/DAコンバーターをモデリングしたモードを切り替えることが可能。基本操作としてはコンバーターの種類を選択して、「INPUT」レベルと「OUTPUT」レベルの調整でサチュレーション量を調整する。デモしてみて、設定によってかなりしっかり倍音を付加する設計になっていて気に入った。自分はアナログテープとか真空管のシミュレーターに多いジワッと滲むような歪みは道具として選びづらいのだけど、反面デジタルテープ的なガサッとした、バシッと張り付く歪みはたいへん好みで。「3348 TAPE」も多用しているってわけではないけど、音の傾向は好きです。

9.MIXLAND『TILT!』(定価$37.99)

https://mixland.io/products/tilt

「TILT!」はロー/ハイ2バンドのシェルビングEQとTubeサチュレーターの複合プラグイン。「チルト」と名付けられてはいるけれども、ロー/ハイEQのゲインを(目盛の見た目的に)左右対称にするリンク機能があるだけで、これを解除すると普通の2バンドのシェルビングEQになる。ぼくね、20kHzより上の周波数帯域をブーストできるイコライザー好きなんですよ。Kirchhoff-EQ(30kHz)」「tranQuilizr G2(50kHz)」「MAXBAX(40kHz)」など。この「TILT!」も決まって使うのはハイバンドを40kHzにしてのブーストです。ローバンドのほうはあまり意識して使ったことないかも?Tubeのサチュレーション機能はマスタリングだと使用する楽曲は選ぶと思うけど、控えめな設定からはじめてみるとよいと思う。40kHzにピンときたら出番です。

ぼくはこの年末年始は「ディズニー ノートルダムの鐘」のブルーレイ見たり、ドラマ版【推しの子】を見て過ごす予定です。みなさんもよき新年をお迎えください!

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[根本"マッシュ"智視(ねもとともみ)]
 サイデラ・マスタリングのチーフマスタリングエンジニア。 マスタリングのモットーは、『美しい音色であること』『音楽のリズムを引き出すこと』『いまこの時代にしか作り出せないサウンドであること』を軸に、常にクライアントの想像の2歩、3歩先をゆくサウンドを提供すること。
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