ノラ猫さまのしっぽ
アミちゃんの家の近くには、ノラ猫さまがいらっしゃいます。
ノラ猫さまは、まるでフランス製の置き物のように、たんせいな顔立ちをしていらっしゃいます。
ノラ猫さまは、たまにアミちゃんの家の庭に遊びに来てくれて、アミちゃんは、食器洗いをしているときに、キッチンの窓ごしからそのお顔をおがむことができます。
ですが、アミちゃんは、一度もノラ猫さまと直接会ったことがありません。
アミちゃんが、このお家に住んで10年がたちますが、一度たりともないのです。
アミちゃんは、ある日、神様に手紙を書きました。
「どうか、一度でいいからノラ猫さまと直接会わせてください。お願いします。明日からはもっと良い子になります。」
アミちゃんは、手紙をどこに届ければよいかわからなかったので、枕元において眠りにつきました。
するとその夜に、ノラ猫さまは、アミちゃんの夢の中に姿を現してくれました。
ノラ猫さまは、まるで品のあるご婦人のようでした。
りんとした、たたずまいのノラ猫さまは、しっぽだけをゆっくり揺らして、まるでほほえんでいるように見えます。
「ノラ猫さまにこんなに近くで会えるなんて夢みたい!あ、夢か!夢だよね?」とアミちゃんは一人で言いながら、夢かどうか確かめるように、ノラ猫さまのしっぽをおそるおそるさわってみました。
しっぽは、まるでカフェオレを混ぜた時のような、茶色と白のしましま模様です。
毛並みが整っていてサラサラしていて、ずっとさわっていたいなと、アミちゃんは思いました。
アミちゃんは、ノラ猫さまのしっぽにつかまってみると、突然そのままノラ猫さまは、夜空をかけ上がっていきます。
星をふんで、けっては、さらに上へ上へと、かけ上がっていきます。
やがて、お月様が近くに見えてきました。
ノラ猫さまは、アミちゃんに「お月様でひとやすみしましょう。」と言いました。
大きなお月様に腰かけて座ると、ノラ猫さまは、アミちゃんのひざの上にすわってくれました。
喉をゴロゴロ鳴らしながら、甘えてくれるその姿は、これまでアミちゃんが待ち望んでいたことでした。
すると、ノラ猫さまが、アミちゃんにお腹をみせて甘えながら、「あなたが毎日よくがんばっていること、ここからよーく見えていますよ。いい子、いい子。」と言ってほほえみながら、頭を小さな手でなでてくれました。
アミちゃんは、ノラ猫さまのことばを聞いて、心がじわーっと温かくなり、ことばがアミちゃんを包み込んでくれるかのようでした。
そして、アミちゃんは、自分で自分をぎゅっとだきしめて、「うん。」と泣きながら、笑っていいました。
翌朝、夢から覚めたアミちゃんの心は、まだじんわりと温かいままでした。
「ありがとう。ノラ猫さま。」と言って、アミちゃんは自分を強くぎゅっと抱きしめました。